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コラム

2012-08-19 18:02 追加

ミーハー排球道場 第2回ツー・セッター

ミーハーバレーファンの「こんなことがわからない!」にお答えするコーナー。

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国際大会をテレビで見てバレーファンになった方や、バレーマンガを読んでバレーに興味を持った方の「こんなことがわからない!」にお答えするコーナーです。
バレーボールのルールや戦術について書かれた『バレーペディア』(日本バレー ボール学会編・日本文化出版)の編集・執筆者の一人である渡辺寿規先生がお答 えします。渡辺先生はツイッターの#vabotterでつぶやいています。
第2回目は「ツーセッターについて」。

 

「キューバ女子は伝統的にツーセッターシステムを使っており、国内でも、男子順天堂大学がツーセッターシステムをとっています。これにはどんなメリットがあり、他のチームが使わないのにはどんな理由があるのでしょうか?」

【ツー・セッター】は実は、指導者の間で長年「理想型」と考えられてきたシステムです。

簡単に言えば、コート上の6人のうち2人がセッターを務めるシステムですが、前回解説したローテーションのルールがありますので、6つのラインナップのいずれにおいてもバランスよく攻撃システムを構築するためには、2人のセッターをラインナップ上で「対角」の位置関係(<図1参照>)で配することが理にかなっています。右利きの人間が多いという、洋の東西を問わず成り立つ事実を重視すると、大多数を占める右利きのアタッカーが自身の右側から供給されるボールを打てるように、セッターを常に自コートのライト側(ポジション1ないしはポジション2)でプレーさせることが望まれます。セッターを務める2人のペアを<図2>の例えば☆と★に配せば、サーブが打たれた直後から常に両者を自コートのライト側でプレーさせることが、6つのラインナップすべてで可能となります。便宜上、以降の説明ではこのペアを「ライト対角」と呼びます。

<図2>において、残り2組の「対角」の位置関係となるペア(◇と◆、○と●)の、どちらかのペアを「レフト対角」すなわち、常に前衛レフト(ポジション4)でプレーさせ、もう一方を「センター対角」すなわち、前衛センター(ポジション3)でプレーさせるシステムを敷くと、6つのラインナップのいずれにおいてもバランスよく攻撃システムを構築できます。◇と◆のペアを「レフト対角」とするシステムを【フロント・オーダー】、○と●のペアを「レフト対角」とするシステムを【バック・オーダー】と呼びます。両者それぞれに特徴があるのですが、それについては機会があれば、また改めて解説したいと思います。

こうしたラインナップを組んだ上で、「ライト対角」の2人のうち後衛の選手がセッターの役割を務め、もう1人の前衛の選手はアタッカーを務めるというのが一般的な【ツー・セッター】システムです。【ワン・セッター】システムすなわち、コート上の6人のうちで1人が常にセッターとしてプレーするシステムの場合は、セッター以外の残り5人がアタッカーの役割を担うため、海外では「アタッカー5人とセッター1人によるシステム」という意味合いで「5-1(five-one)システム」と呼ばれます。一方【ツー・セッター】は、コート上の6人全員がアタッカーとしての役割を担うため、海外では「6-2(six-two)システム」と呼ばれます。ご質問のキューバ女子ナショナル・チームや順天堂大学男子がそうですし、女子の共栄学園高校なども伝統的に「6-2システム」を採用しています。

 

ここまでを理解して頂いた上で、【ツー・セッター】システムがなぜ指導者の間で「理想型」と考えられてきたのか? … そのメリットを考えてみましょう。

【ワン・セッター】システムは「5-1」すなわち、コート上に5人のアタッカーしかいません。セッターが前衛にいるラインナップ(S2・S3・S4)では、バック・アタックを戦術として用いない限り、前衛の「レフト対角」の選手と前衛の「センター対角」の選手の2人だけで攻撃を組み立てることになるため、相手のブロッカー3人に対してアタッカーの人数が劣るだけでなく、スパイクを繰り出せるスロット(※1)幅も狭くなってしまいがちです。一方【ツー・セッター】システムは「6-2」すなわち、コート上の6人全員がアタッカーの役割を担います。2人のセッターのうち後衛の選手がセッターを務めるため、常に前衛にはアタッカーが3人いる状況となり、チームにバック・アタックを打てるような強力なアタッカーがいなくても、サーブ・レシーブからの攻撃を組み立てる場面で、ラインナップによる偏りなく自チームの攻撃力を最大限に維持することが可能なのです。

さらに、相手チームが繰り出すアタックをディグ(※2)して、自チームの攻撃へと展開するいわゆる【トランジション】と呼ばれる場面で、【ワン・セッター】の場合はセッターが1本目のディグをしてしまうと、普段セッターの役割を担わないアタッカーがボールをセットする必要が生じるため、緊急手段的な攻撃しか繰り出せないことになります。ところが【ツー・セッター】の場合は、セッターが1本目のディグをしてもコート上にもう1人セッターがいるため、難なく攻撃システムを構築できるのです。

このように、サーブ・レシーブからの攻撃の場面ならびに、【トランジション】からの攻撃の場面における【ワン・セッター】システムの弱点を、【ツー・セッター】システムは見事にカバーすることができるため、長年指導者の間で「理想型」とされてきたのです。

 

その一方で、【ツー・セッター】システムが必ずしも現在の主流になっていないのはなぜでしょうか? … その理由は一つには、今提示した【ツー・セッター】システムのメリット以上に、デメリットが大きいと考えられているからです。

【ワン・セッター】システムの場合は、セッターはサーブ・レシーブとスパイクの練習をする必要はなく、その時間を「セッターとしての」プレー練習に費やすことが可能です。ところが【ツー・セッター】システムの場合は、セッターに「アタッカーとしての」役割が求められますので、少なくともスパイク練習はしなければなりません。セッターとしてのプレー練習に費やす時間が限られる上、他のアタッカー陣も2人のセッターと息を合わせる練習しないといけないという点も、セッター起点のコンビ・バレーの意識が強い日本のバレー界では敬遠される要因となり、バック・アタックが打てるような強力なアタッカーがいない底辺カテゴリにおいても、【ツー・セッター】が普及していない現状があるのです。

一方、世界のトップ・レベルにおいてはバック・アタックが一般化しているため、【ワン・セッター】の弱点があまり問題となりません。特に男子では、「ライト対角」のペアのうちの1人(オポジット)がサーブ・レシーブに参加せずに攻撃に専念する、いわゆるスーパー・エースとしてプレーする戦術が1990年代に世界標準となった(※3)ため、サーブ・レシーブからの攻撃の場面では
セッターが前衛にいるラインナップ(S2・S3・S4)でも、常にライト側からスーパー・エースがバック・アタックを繰り出すことで、相手チームのブロッカー3人に対して人数で劣ることもなければ、スパイクを繰り出せるスロット幅も確保できるのです。

一方、女子では男子ほどにはスーパー・エースが普及しなかった代わりに、「センター対角」の選手がライト側に回り込んで攻撃する、いわゆるブロード攻撃を繰り出すことで、スパイクを繰り出すスロット幅を確保しようとする戦術が一般的となりましたが、それでも男子よりは【ツー・セッター】のメリットが生じやすい背景があると言えます。実際、キューバ女子ナショナル・チームは【ツー・セッター】システムを貫いて、1992年のバルセロナ・1996年のアトランタ・2000年のシドニーと、前人未踏のオリンピック3連覇の偉業を成し遂げています。また国内でも、1999年の第48回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会において、アリー・セリンジャー監督率いたオレンジアタッカーズが、ヨーコ・ゼッターランド元選手と満永ひとみ元選手による【ツー・セッター】システムを採用して、見事に優勝を果たしています。しかし2000年代以降は、女子でも【ツー・セッター】システムを採用して結果を残したチームは現れていません。

 

では現在、世界のトップ・レベルにおいて【ツー・セッター】システムは廃れてしまったのでしょうか? … 実はそうではありません。バック・アタックやブロード攻撃が一般化しているとは言え、セッターが1本目のディグをした【トランジション】の場面では、緊急手段的な攻撃を繰り出さざるを得ないという弱点を【ワン・セッター】システムは抱えたままです。2003年のワールド・カップまでは、こうした弱点をスーパー・エースの個人能力でカバーするしかありませんでしたが、2004年のアテネ・オリンピックを制したブラジル男子ナショナル・チームが、【トランジション】の場面でリベロの選手がセッターの役割を果たすシステムを披露し、それを契機に一気に世界標準となりました。


[2009年ワールド・リーグのブラジル対フィンランドより、右コートのブラジルに注目(0:08〜)。後衛ライト(ポジション1)を守るセッターのブルーノがディグしてアタック・ライン付近に上がったボールを、後衛レフト(ポジション5)を守るリベロのセルジオがセット・アップして、前衛のセンター対角であるシダォに31(Bクイック)を打たせている。]

こうした【トランジション】の場面での攻撃システムは、コート上の6人のうちでセッターとリベロの2人がセッターの役割を果たすという、アタッカー5人とセッター2人による「5-2(five-two)システム」とも呼べる、新しい【ツー・セッター】システムの形ととらえることが可能であり、現在の世界トップ・レベルにおいては【ツー・セッター】システムの神髄は、むしろ一般化していると言っても過言ではないのです。

 

(※1)ネットに平行な水平座標軸を設定して1m刻みにコートを9分割し、数字や記号を用いて呼称するコート上の空間位置。主として、アタッカーがボール・ヒットする位置を呼称するのに用いられる。(『バレーペディア改訂版 Ver. 1.2』(日本文化出版)より)

(※2)相手コートから飛んでくる、サーブ以外のボールをレシーブすること。
(※3)日本の初代スーパー・エースは、1990年に全日本男子のオポジットを務めた中垣内祐一元選手です。

 

——
最後に、前回の【ポジショナル・フォールト】に関するクイズの解答です。

【ポジショナル・フォールト】は、「ラリーの開始時点」すなわち「サーブが打たれる瞬間」に成立するルールでしたね。ですから、「サーブというラリーを開始するプレーが正しく成立したかどうか?」がカギとなります。

①    サーブが打たれる瞬間に、サーブ・レシーブ側のチームが【ポジショナル・フォールト】の反則を犯したとして、打たれたサーブがアウトになった場合は、どちらのチームの得点になるでしょう?

(正解)このケースでは、サーブというプレー自体は成立し、その後にサーブがアウトになっていると考えられます。ラリーの開始時点ではまだサーブはアウトになっておらず、【ポジショナル・フォールト】が優先され、サーブ側の得点となります。

②    サーブが打たれる瞬間に、サーブ・レシーブ側のチームが【ポジショナル・フォールト】の反則を犯したとして、打ったサーバーがエンド・ラインを踏んでしまった場合は、どちらのチームの得点になるでしょう?

(正解)このケースでは、サーブがルールどおりに正しく行われていないため、サーブというプレー自体が成立していません。すなわち、ラリーそのものが開始されていないため、【ポジショナル・フォールト】の問題は発生せず、サーブ・レシーブ側の得点となります。

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