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インタビュー

2014-11-10 19:48 追加

新監督に聞く 堺 印東玄弥氏

V1リーグ 男子

IMGP8517-s―堺ブレイザーズ着任のいきさつをお聞かせください。

最初、田中幹保(当時副部長)さんから連絡があり、改めて小田(当時部長)さんから正式なオファーがありました。

―決めるまでに何カ月か かかったそうですが、やはりノルウェーで築かれた生活基盤とかがあって1から新天地というのは大変でしたか?

新天地だから、大変というのはありません。今までも、何度かチームを変わっています。強豪ひしめくヨーロッパで、伝統国に対抗して世界大会に出場するというのは簡単なことではありませんが、日本人ながら、ヨーロッパでそれに挑戦する機会が与えられることは幸せなことだと思います。8年という月日の中で、ゆっくりでも着実に強くなりつつあると感じられましたし、普及面などでも、まだまだこれからやらなくてはならないこともあると思っていたので、それを辞めてまで日本に帰ることに意味があるのかについてはよく考えました。

JTのヴコヴィッチ監督や豊田合成のクリスティアンセン監督もそうですが、プロのコーチなら、必要とされる場所、自分を評価してくれるところに行って、クラブの勝利の為に指揮を執るのはごく自然なことであり、私もこれまでそうでしたので、再びその機会が巡ってきたと考えました。

日本では、スポーツのコーチという職業は、将来設計が難しいと不安定に感じる人も多いでしょう。一企業に定年までという価値観なら、こういう決断に関して100%の理解を得るのは難しいかもしれません。ヨーロッパでは毎年違うチームに行くのは珍しいことではありません。私は、家族の理解を得た上で、必要とされるチームで、新しい挑戦をする、それがたまたま日本のチームだったと考えています。

全日本男子の真保コーチはチェコやイタリアでコーチ経験があり、日本で女子のNECや久光製薬のコーチを経て、男子のパナソニックへ行きました。真保さんは駒沢大学出身で、Vリーグのチームに選手や監督が多くいるわけではなく、学閥的には少数派。ご本人もパナソニックのOBというわけでもなく、代表選手経験もされていない。日本でバレーをするには苦労をされたことも多かったと思いますが、そういうのを跳ね返すだけの結果をパナソニックで残された。真保コーチとは2010年のイタリアでの世界選手権でトリノに小旅行をしたのですが、その時の会話は、ブレイザーズを選ぼうとしている自分の1つの道標になったかもしれません。

―ブレイザーズに実際に来てどんな印象ですか? 来る前は?

ブレイザーズはホームページなどで積極的に映像配信していますよね。そこで見られる短い映像や、Vリーグ機構で出される試合の帳票を見て戦いぶりを想像してみるということはありましたが、誰がどんなプレーをして、どんな活躍をしていたのかというのは、知らないで来ました。

―では、試合とかは見ていない?

失礼な話なのですが、実際の試合は全く見ていません。来てから感じた印象は、新しいものや人に対する排他的なところが無くて、オープン。真面目。でも堅苦しさはなくて明るい。選手同士の仲がいい。練習もトレーニングも一生懸命に取り組んでくれて、やりがいがあります。いい変化を実感できて、毎日充実しています。

たまたま良い人が集まっているのか、ブレイザーズに入って良い人になっていったのかは、分かりませんが、選手一人ひとりの取り組む姿勢が素晴らしく、人格者が揃っています。人数も少ないのでそれぞれのキャラクターも際立ちますし、明るくて陽気な愛すべき選手達です。

IMGP8659-s―強化のポイントをおっしゃれる範囲で教えてください。

スポーツである以上、高く跳ぶ、早く動く、強く打つということがまずベースにあります。観客は、野球だったら、ホームランやヒットを観ることを期待します。サッカーならシュートを入れるところなど、まずは得点をするところを見たいがために観戦を楽しみにするわけです。ネットにくっついて、合わないタイミングのボールを押し込み合って、せせこましくプレーして勝っても面白くない。力強く攻めて、貪欲に守る。バレーボールのアスレティックな部分を、そしてスポーツとしてのダイナミズムをブレイザーズの選手が体現してほしいです。

それを実現するには、強いフィジカル能力が必要で、トレーニングをたくさんしなくてはなりません。でも、それを身につけるのは一朝一夕ではなくて、何か月何年という単位の月日がかかるでしょう。こういうことは、言うだけではなく実際に行動に移して、結果につながらなくては説得力がないので、まずは、頑強な身体作りを地道に取り組みます。

―ちょっと繋がりますが、今季のブレイザーズの構想を。シーズン前なので明かせない部分もあると思いますが。

いま、選手達は、陸上競技選手並かそれ以上のトレーニングをしています。ウエイトトレーニングも週4回の頻度で、筋肉のパーツ毎に強化しています。コートでのボール練習でも、フィジカルを鍛えることに多くの時間を費やしています。

高い打点で打つとか、確実に打つことを身につけるとなると、反復練習も必要です。高い強度の練習に耐えられるだけの体づくりも必要。激しい練習に耐えられる屈強な肉体を獲得したら、きっとプレーもさらに大きく変わるでしょう。今は、まずそのベースを作ろうとしています。人数も14人しかいないので登録した選手が全部出るつもりでやらないとなりません。誰か特定の選手に依存せず、外国人選手も含めてチームの一人ひとりが持ち味や長所を発揮し、高い個人能力を合わせて、チームの総合力で勝てるように、練習を重ねています。構想としては誰が出場してもチーム力を維持出来ること、あらゆるところからマルチテンポで打つスパイカーを増やし、プレーの幅をつくりたいです。

―練習も見させていただいて、外国人の選手達というのはどういう役割をされているんですか?

金髪の彼は正式なチームのスタッフ、Sigurd van dijk Festoyはアシスタントコーチです。彼はペピチと同じ身長と最高到達点があります。各チームの外国人選手と遜色ない高さとプレーが出来ますので、他チームの外国人選手を意識した練習ができます。

夏場に来ていた4名も、日本人がグローバルな思考を持ったり、コミュニケーション能力を磨いたりすることに非常に有益でした。日本人とは違うプレースタイルなど、非常に刺激になったと思います。

参謀役のコーチとして上杉というのが加入しました。彼には他チームの分析だけではなく、自分たちの分析も細かくやってもらっています。技術戦術の面で上杉が貢献し、Sigurdは、選手のプレーの質を上げるため、練習パートナーとして、高負荷の練習、常に世界を意識した練習をできるように貢献しています。

英語を使って話すとか、言葉がわからない人にでも自分の意思を伝えるなど、コミュニケーションを高め、グローバルな視点と、チームプレーのレベルを上げる役割があります。ノルウェーの5人も若いですが、技術の吸収も早く、ブレイザーズのメンバーの刺激になりました。1人は、ゲイリー・サトウさんの息子さんが在籍するロングビーチ大学への入学が決まって、渡米前に日本で練習していきました。全員、ブレイザーズ最年少の出耒田より若いのですが、能力が高くて、ゲームをしてもかなり良い刺激になり、レベルアップに貢献してくれました。

―ずっと全日本を取材していていつも思っていたのが全日本でいくらAB戦をいくら合宿でやっていても日本人同士で日本人のサーブしか来ない、女子の場合は男子選手連れてきて練習できるのに男子にはそういうことが出来ないというのをいつももどかしく思っていて今日見させていただいてそういう事なのかなと思いました。

正に、本当女子が強いのはいつも実際の女子よりも強く打つ人、背が高い人、いつも目の前にしていて、そういう負荷をかけなきゃいけない。という思いですかね。それはもう仰るとおりです。

―通訳はいないんですね。

見た通り、私は外国人選手と日本人の会話で通訳に入ることはほとんどありません。ペピチに言いたいことは私の口から直接伝えますし、選手もそれを聞いています。この1、2ヶ月で選手もかなり英語が話せていますし、そこに関しては望んだとおりになってきています。

―ビーチのことを仰っていましたが、今年石島・松本ペアがグランフロント大会に参加しました。聞くところによると全チームに声をかけて応えたのが堺だけだったと。印東監督の考えもあったのかなと思ったのですが。

私自身が、過去数年インドアの選手に、ビーチバレーをさせて結果に導く経験もあったので、彼らに対しても、必ずインドアのプレーにも役に立つだろうと思ってトーナメントへの参加を決めました。

―御自身のバレー観みたいなのをバレー哲学みたいのがあれば。

本当に難しいです。表現するのは。英語では、照れずに言えても、日本語では、言葉遣いに気を取られて、最も大切なことを言葉にしてもきちんと伝わるのかどうか不安になることもあります。

バレーボールは、ひらめきや創造性、直観というものは大切ですけれども、学問としてみることも重要です。定められた高さのネットで、決まった人数のプレーヤーが、ルールに則り、ボールを3回以内で相手に返す。ボールの動きを幾何学でとらえ、ボールが空中を飛行することも、物理学や、軌道力学、工学に基づく科学として見ることができます。

超能力のように、ボールの軌道が突然折れ曲がったりすることもなければ、絶対的な実力差を、気力だけで埋め合わせることができないこともあります。

持っている技術や戦術を活かすも、活かさないのも人間の感情次第であり、その気持ちの部分をどう作るのか、というのはどのコーチにとっても命題だと思います。空中を飛び交うボールも、二度と同じものはありません。ボールは誰かの手を介して自分のもとに来ますが、止めることも掴むこともできない競技特性があります。

ボールを自コートに落としたら負ける。相手のコートにボールを落とせば得点。そしてセットを奪い合う。先に3セットを獲ったほうが勝ち。

打つ、拾う、繋ぐ、カバーする、上げる、打つ、というラリーの応酬、緊張の連続が往復して、それが決まった瞬間に痺れます。その瞬間があるからやめられない、みたいなところがあります。ラリーの連続の瞬間を言葉に出して楽しさを伝えるという機会がない感じがしますね。

道具を使わずに、人間の能力で最も高いところへ向かって跳び、その一瞬あとに、人間の体で最も低い姿勢でレシーブするのがバレーボールです。他球技と一番違うのはローテーションがあることで、サーブ、レシーブ、ブロック、スパイク、セットなど、1人で色々なことが出来る必要があります。ネットを隔てているので、どんな状況でも、相手を殴るとか、掴みかかるなど、接触プレーはできません。絶対ボールを落とせない、落とすことすなわち失点です。勝つためには言葉だけではなく、自分の身を投げ出して、這いつくばってでも拾い上げるというように体を張り、サーブや、ブロック、スパイクの応酬、ネットを挟んだ空中戦で、1つのボールを通じて戦う瞬間の美しさっていうのは、言葉にできません。その瞬間の煌めきがみたくて、色々なことを追い求めているのかも知れません。

代表チームは、大陸予選で勝って、世界大会の出場権を獲得するという目標を立てますが、ブレイザーズはクラブチームなので、天皇杯、Vプレミアリーグ、黒鷲、出場する全ての大会で優勝することを目指します。

すぐに結果が出ないこともあるでしょう。人々の期待に応える努力をしながらも、長期的にどこへ向かうのか、という展望を忘れずに持っていたいと思います。選手はリーグで勝つということだけではなく、その先にあるものも見てくれています。伸びていく彼らの姿を実感できるのが嬉しいです。

ブレイザーズでは、私は声を張り上げたり、何かを強制したり、規則を作って取り締まるようなことは全くありませんが、選手達の規律が保たれています。バレーボールが好きだから、プレーヤーとしての自分がある。強くなりたい、勝ちたいから努力する。このチームで勝ちたいって思っているのが伝わってきます。年齢に関係なく話し合っている姿、外国人選手も混じって話し合えること。努力している人を笑ったり、場をしらけさせるようなことを言ったりする選手がいない。ハードワークをするのが当たり前になっています。そんなチームを率いることが出来て幸せです。

バレーボールをするために8年暮らしたノルウェーを離れて堺にきました。家族と離れて暮らすことになりましたが、ブレイザーズというチームが自分の家族だと思っています。真面目で努力家、でも明るくて笑いが絶えない選手達と、同じ目標に向けて、共に前に進もうとしている。これから多くの挑戦が目の前にあることを楽しみにしています。

聞き手:中西美雁
写真:印東玄弥、出口季里、中西美雁

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