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2015-02-23 12:05 追加

逆境からさらなる結束へ・ブラジルバレー界スキャンダルを巡って

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■代表チームの監督、選手がFIVBから処分される

ポーランド戦でリベロのペデレイラに指示するレゼンデ監督 撮影 FIVB

ポーランド戦でリベロのペデレイラに指示するレゼンデ監督
撮影 FIVB

2014年12月、ブラジル協会の不祥事と前後して起こったのが、世界選手権ポーランド大会のブラジルチームに対するFIVBの処分である。ベルナルド・レゼンデ監督が10試合、リベロのマリオ・ペデレイラ・ジュニオールが6試合、WSのムリロ・エンドレスが1試合の出場停止。レゼンデ監督とキャプテンのセッター、ブルーノ・レゼンデは罰金処分が科せられた。

処分の理由は、「ポーランド大会中の不適切な態度による」とのことだが、具体的に誰が何をやったことに対してなのか、明確にされていない。推測すると、次の様なことになる。

3次リーグのブラジル対ポーランド戦の5セット目、ポーランドボールがアウトになり16-16になったところで、ビデオチャレンジ。これで判定が覆り17-15でポーランドの勝ちとなった。しかし、場内に映し出された判定のもとになった映像が、判定の根拠とならないことにブラジルが猛烈に抗議。審判席に詰め寄り、警備員に押し戻される。この日、試合に出ていなかったムリロ・エンドレスもコート脇へ来て、審判へ抗議。ペデレイラかムリロ・エンドレスが審判席にタオルを投げ込んだとされている(ブラジルの放送局の映像ではムリロ・エンドレスはタオルとは少し違う場所におり、投げ込んだ人は警備員の陰で確認できない。また審判団に詰め寄ったスタッフ、選手の中に監督は映っていない)。その後に、TV放送の画像でアウトの前にボールがブラジル選手の足に当たっているのが確認されているが、最初の判定が覆った根拠が不明確であり、この結果を不服とした監督とキャプテンは記者会見を欠席。このことが審判への暴言、不適切な態度として、厳しい処分となったようだ。

17-15で負けが決まり、呆然とする選手たち 撮影 FIVB

17-15で負けが決まり、呆然とする選手たち
撮影 FIVB

レゼンデ監督は「監督の私が一番重い処分で幸いでした。選手への悪影響を心配していましたから。しかし、今回の処分が決まる前に、なぜこのような事に至ったのか、経緯を話し、事実を確認する機会さえ与えられなかったのは残念としかいいようがありません。私がポーランド記者に中指を突き立てたなどという全く身に覚えのない話まででているのですから」と1月半ばにテレビ番組で語っている。監督も選手も、スポーツ裁判所への処分不服申し立てを検討しているという情報もあるが、確認はできていない。

■ワールドリーグファイナルの開催辞退

監督、選手の処分を受け、ブラジル協会は早々に2015年のワールドリーグファイナルの開催国を辞退することを決めた。7年ぶりのブラジル開催とあってファンの期待が高まっていただけに、大変残念な知らせとなった。しかし、バレーを取材する記者の間では、監督や選手の処分があったから辞退というこの流れは、協会の不祥事からマスコミの目を逸らそうとしているのではないかという見方もある。またこの決定はブラジルのみならず、他国にとってもリオ五輪の会場に慣れる最後のチャンスを失ったことになる。

同じ番組の中でレゼンデ監督が、協会の不祥事を息子のブルーノがSNSで抗議したところ、グラッサ会長から「これ以上あれこれ言うなら、裁判で争うぞ」と脅しともとれるメールを受け取ったことを明らかにした。ブルーノの親友であり長年のチームメイトであるサアットカンプは「国内でも海外でも選手の意見を自由に言えるような体制があればいいです。会社の労働組合みたいな感じで。文句を並べているように聞こえるかもしれませんが、どの選手もスーパーリーグをより良くしよう、バレーの発展のために頑張ろうという思いは同じです」と、ブルーノを気遣った。

■差別に負けない

こうしてブラジルバレー界を揺るがす出来事が、次々とマスコミをにぎわしたところにさらに起こったのが、人種差別問題だ。

2015年ブラジル杯準優勝。トロフィーを受け取るキャプテン、クラウジノとチームメイト。黒のユニフォームがリベロのピント 撮影 Alexandre Arruda/CBV

2015年ブラジル杯準優勝。トロフィーを受け取るキャプテン、クラウジノとチームメイト。黒のユニフォームがリベロのピント
撮影 Alexandre Arruda/CBV

1月末のスーパーリーグの試合中にSESI-SPセージ・サンパウロのMBファビアーナ・クラウジノに対し、相手チームのファンの男性が「サル、サル、バナナを食べろ」とはやしたてたのだ。サッカーの試合でこのような野次が飛ぶのは珍しくないが、バレーでしかもブラジル代表キャプテンの女子選手に向けられたことに、男女問わず選手やファンに悲しみが広がった。騒動の後に、クラウジノは「私の地元、バレーを始めた思い出の場所で、そして何より両親が応援に来ている前でこんなことになり残念に思います。野次った男性を恨む気持ちはありません。彼がもっと周りの人のことをよく理解できるように、神様が導いて下さることを願います」と信仰の篤い彼女らしいコメントを出している。

彼女のチームメイトで同じく褐色肌のリベロのスエレン・ピントもクラウジノの痛みがわかる一人だ。それは体型をからかわれたことがあるからだ。屈辱にも負けず、彼女は2013年には代表入りし、モントルー大会に出場。現在のスーパーリーグではディグ部門で2位の名レシーバーだ。「肥満に悩む女の子から『あなたのプレイを見て、私もバレーをやってみたいと思ったわ』という手紙をもらった時に、どれだけ励まされたか」と当時のつらさを今は笑顔で語ってくれた。

ミシャエウ・サントスを励ますチームメイト。17番はセッターのリカルド・ガルシア 撮影 Alexandre Arruda/CBV

ミシャエウ・サントスを励ますチームメイト。17番はセッターのリカルド・ガルシア
撮影 Alexandre Arruda/CBV

残念ながらバレーの試合で差別があったのは、今回だけではない。最もひどかったのは、2011年のスーパーリーグ準決勝Volei Futuroヴォレイ・フトゥーロ対 Sada Cruzeiroサダ・クルゼイロ戦だ。同性愛者であるヴォレイ・フトゥーロのMBミシャエウ・サントスが、「ゲイ野郎」と会場中がうなるようなバッシングをうけた。次のホームの試合では、「ミシャエウを支持する」というTシャツやバルーンスティックであふれ、リベロのペデレイラは同性愛者のシンボルカラーである虹色のユニフォームで登場。胸には「ヴォレイ・フトゥーロは偏見を許さない」と書かれていた。

彼らの受けた精神的苦痛は想像に余りある。しかし、そのことに不平を言ったりせずに、同じ悩みを持つ人に勇気を与えられればと、プロ選手として自分のやるべきことは何かを考え、バレーをしっかりやることに徹底している姿勢は見事としか言いようがない。

■代表チームへの影響は……

果たして今回の協会の騒動や処分は代表チームに悪影響がでるのだろうか。サアットカンプは「ないとはいいきれません。しかし、誰が代表に選ばれても、五輪の出場権があるなしにかかわらず、今年はW杯の優勝を目指す気持ちは変わらないし、むしろ騒動のせいで弱くなったと言われたくない気持ちが大きいです」と強い決意を持っている。

39歳のリベロ、サントス。試合中のガッツは以前と変わらず。スパイク部門2位のソウザ(写真奥)とサーブレシーブ部門2位のシルバ(右)。トリオでチームを引っ張る。 撮影 SESI-SP

39歳のリベロ、サントス。試合中のガッツは以前と変わらず。スパイク部門2位のソウザ(写真奥)とサーブレシーブ部門2位のシルバ(右)。トリオでチームを引っ張る。
撮影 SESI-SP

まだスーパーリーグの途中で代表チームの招集発表には間があるが、リベロのペデレイラが6試合の停止処分ということで、ロンドン五輪後に代表を退いたセルジオ・サントスの復帰があるのではないだろうか。五輪後の会見では「若い世代に交代する時がきたと思います。自分が代表に戻るのは緊急事態の時だけです」と言っていたが、今がその時なのだろうかと本人に聞いてみると、「代表にいるいないにかかわらず、常に最高の状態でプレーするために練習を積んでいます」と明言は避けた。

サントスの復帰の可能性はWSムリロ・エンドレスの肩の状態にもよるかもしれない。長年の肩の痛みから2013年末に手術をして、昨年は世界選手権に出場したが、手術した箇所をかばい続けたため別の場所を故障し、世界選手権後に再び手術を受けた。現在は、チームにベンチ入りし、途中出場もしくはワンポイントのレシーバーとして数試合に出る程度だ。回復の度合いによっては、代表チームでもレシーバーとしてベンチ入りする可能性もあるが、サントスに任せる方が適任といえるだろう。またSESI-SPセージ・サンパウロでWSのリカルド・ルカレリ・デ・ソウザとマウリシオ・ボルゲス・シルバと組んでいるレシーブ体制が、そのまま代表チームでも組める利点がある。

3月から始まるリオ五輪のチケット国内販売の登録が1月から始まった。今のところ、既に登録した人の27%がバレーボール観戦希望で1番人気だ。次いで、サッカー、水泳、陸上となっている。「何よりもファンの人たちが以前にも増して、私たちを支持して、応援してくれています。その気持ちに応えたいです」とサアットカンプは感謝の気持ちを表した。

3月からスーパーリーグは8チームで争う決勝リーグに入る。どの選手も協会の不祥事で落ちた信頼を戻すには、自分たちが最高の力を見せるしかないという思いが大きい。苦しい時にこそ這い上がる力があるのが、ブラジルの底力。選手もスタッフも一丸となり、乗り越えてほしい。

文責:唐木田真里子
在ブラジル18年。ブラジルの旅行や食べ物、日常のあれこれを雑誌やサイトで紹介しているフリーランスライター。

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