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2012-06-25 22:20 追加

ミーハー排球道場 第1回

国際大会をテレビで見て、バレーファンになった方や、バレーマンガを読んでバレーに興味を持った方の「こんなことがわからない!」にお答えするコーナー、第1回。

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国際大会をテレビで見て、バレーファンになった方や、バレーマンガを読んでバレーに興味を持った方の「こんなことがわからない!」にお答えするコーナーです。
バレーボールのルールや戦術について書かれた『バレーペディア』(日本バレー ボール学会編・日本文化出版)の編集・執筆者の一人である渡辺寿規先生がお答 えします。渡辺先生はツイッターの#vabotterでつぶやいています。

 

「先日のロンドンOQT男子大会の韓国vsプエルトリコ戦で、1試合に何度もポジショナルフォールトの反則があるという珍事がありましたが、ポジショナルフォールトというのはどんな反則なんでしょう。とられやすい配置などはありますか?」

【ポジショナル・フォールト】は、バレーボールの基本中の基本と言っても過言ではないルールです。比較的ルール改正の多いバレーボールにおいて、長年改正されていないルールなのですが、テレビなどできちんと解説されているのは目にしたことはなく、プレー経験のないファンの方にはわかりにくいルールの代表ではないかと思います。

まず、【ポジショナル・フォールト】とは何か? を知る前に、ローテーションのルールを確認しておきましょう。

バレーボールのゲームにおいては、各セットの開始前に、リベロを除くスターティング・メンバー6人をどの【コート・ポジション】(<図1>参照)に配するかを決定して、副審に提出します。これによってサーブ順が決まるので、この配置のことを日本では、野球の打順同様に「オーダー」と呼んでいますが、サーブ順だけでなくポジション2・3・4の選手が「前衛」、ポジション1・5・6の選手が「後衛」という意味も持ち合わせているため、「ラインナップ(Line-up)」と呼ぶ方が正確です。

<図1>

セット開始後、自チームが新たにサーブ権を得る毎に、このラインナップが時計回りに1つずつローテーションして、ポジション1の位置に来た選手がサーバーとなります。ラインナップは全部で6パターンできることになり、それぞれを表す表現として(通常コート上の6人のうちで1人だけがセッターの役割を果たすことが多いため)セッターが【コート・ポジション】のどの位置にいるかによって、例えばセッターがポジション1にいれば「S1(エス・イチ)」、ポジション6にいれば「S6(エス・ロク)」と表現することが定着しつつあります。テレビの中継などでも「○○チームはS1、一方□□チームはS6からのスタートです」というような実況を耳にされることがあるかと思いますが、これは各チームのスターティング・ラインナップを伝えてくれているのです。S1で開始したチームは、ローテーション毎にS1→S6→S5→S4→S3→S2へと、移り変わっていく形になります。

こうしたローテーションのルール自体は、体育の授業などでバレーボールをやった経験がある方なら覚えてらっしゃるでしょう。しかし、ラリーがひとたび始まってしまえば、コート上の各選手はどの【コート・ポジション】に入ってプレーしても構わないし、ラインナップ通りの位置関係を保たなければならないわけでもありません。しかし、「ラリーの開始時点」すなわち「サーブが打たれる瞬間」だけは、各選手がラインナップどおりに並んでいなければなりません。このルールに対する反則が【ポジショナル・フォールト】です。

具体的には<図2>のように、各【コート・ポジション】に位置する選手が、隣り合う【コート・ポジション】に位置する選手と前後・左右の位置関係を保っていなければなりません。しかし、隣り合わない【コート・ポジション】に位置する選手同士ではこのような制約がなく(<図3>)、例えば、ポジション6の選手は、ポジション2ならびに4の選手よりも前方(センター・ライン寄り)に位置しても構いません。【ポジショナル・フォールト】というルールの存在を知ってらっしゃる方でも、この事実は意外と知られていないように思います。

図2

図3

先日のOQTで、プエルトリコ男子ナショナル・チームが【ポジショナル・フォールト】を再三取られていた場面は、確かS1でのサーブ・レシーブの場面だったと記憶します。サーブが打たれる瞬間に、セッターはポジション2に位置する選手よりも後方(自チームのエンド・ライン寄り)に位置する必要がありますが、自チームの他の選手がサーブ・レシーブをする瞬間には、サーブ・レシーブの返球目標位置にいる方が余裕を持ってセット動作が行えるため、相手のサーブが打たれる瞬間に、セッターがポジション2に位置する選手の背後から、サーブ・レシーブの返球目標位置に向かってダッシュします。


[手前側のチームの背番号1の選手がセッターで、S1でのサーブ・レシーブのシーン。ポジション2に位置する背番号4の選手の背後から、サーブが打たれた瞬間に動き出している。]

このように、セッターが後衛(ポジション1・6・5)に位置する場面(S1・S6・S5)において、相手にサーブ権がある場面では【ポジショナル・フォールト】のルールの制約上、相手のサーブが打たれた直後に、セッターがサーブ・レシーブの返球目標位置に瞬時に移動する必要が生じます。相手のサーブのボール・スピードがそれほど速くない場合には、セッターが移動する時間的余裕がありますが、スパイク・サーブのようにボール・スピードが速いと、セッターが移動する時間的余裕がなくなるため、早く移動しようとするあまり、サーブが打たれるより前にセッターが動いてしまった場合に、【ポジショナル・フォールト】の反則を取られるケースが多いのです。

【ポジショナル・フォールト】の反則を取られないために、トップ・レベルのチームはサーブ・レシーブのフォーメーションを工夫します。<写真1>・<写真2>の手前側のコートの各選手のフォーメーションをご覧下さい。<写真1>はS5、<写真2>はS6におけるサーブ・レシーブのシーン(サーブが打たれる直前)です。

<写真1>図4

<写真2>図5

<写真1>のシーンにおけるラインナップは<図4>、<写真2>のシーンにおけるラインナップは<図5>のとおりで、<写真1>においては背番号8の選手、<写真2>においては(半身の体勢で背番号が見えませんが)背番号17の選手、いずれもセッターより前方に位置しなければならない選手をサーブ・レシーブのフォーメーションから外してアタック・ラインより前方に構えさせ、セッターの移動距離を極力短くしようという意図が受け取れます。一方S1では、現在のトップ・レベルにおいてもこうした工夫が見られないチームが多く、結果的にご質問のような【ポジショナル・フォールト】連発を招く結果につながったかもしれません。

質問内容からは少し外れますが、S6の<写真2>のシーンについて詳しく言及すると、セッターの前方に位置しなければならない選手は、セッターの対角に位置するオポジットの選手となります。女子ですとトップ・レベルでも、オポジットの選手がサーブ・レシーブに参加することは珍しくありませんが、男子ではまず見られません。その理由はいくつかあるのですが、その1つがこのS6におけるサーブ・レシーブのフォーメーションにあります。

<写真3>図6

S6において、オポジットの選手がサーブ・レシーブに参加する場合、<写真3>(ラインナップは<図6>のとおり)のように、オポジットの選手がコート中央に構えてサーブ・レシーブの役割の中心をになう形になります。この場面で、相手チームが強力なスパイク・サーブを駆使して、オポジットの選手を前後に揺さぶると、オポジットの選手がサーブ・レシーブ直後に攻撃に参加できなくなるだけでなく、セッターがサーブ・レシーブ返球目標位置へ移動するのに手間取ってしまい、たとえサーブ・レシーブがきちんと返っても、攻撃参加できるアタッカーの選択肢が限られてしまうケースがしばしば見受けられます。

女子は国内ではジャンプ・フローター・サーブが流行のため、そこまで問題にならないかもしれませんが、海外との対戦では致命的となる可能性があります。ましてや、強力なスパイク・サーブがあたりまえの男子では、オポジットがサーブ・レシーブに参加するチームはS6が盲点となって、サーブ・レシーブ直後の攻撃でサイドアウトを奪う「ファースト・サイドアウト」(※1)の確率が低くなり、連続失点をするチームが見られます。

男子のトップ・レベルはともかく、大学リーグやそれ以外の底辺カテゴリの試合を観戦される場合は、オポジットがサーブ・レシーブの要であるチームもまだまだ目立ちますので、そういったチームが、S6でのサーブ・レシーブの場面でどのような対応をしているのか? 観察してみるのも面白いでしょう。

最後に、クイズを♪

①    サーブが打たれる瞬間に、サーブ・レシーブ側のチームが【ポジショナル・フォールト】の反則を犯したとして、打たれたサーブがアウトになった場合は、どちらのチームの得点になるでしょう?
②    サーブが打たれる瞬間に、サーブ・レシーブ側のチームが【ポジショナル・フォールト】の反則を犯したとして、打ったサーバーがエンド・ラインを踏んでしまった場合は、どちらのチームの得点になるでしょう?

(※1)サーブ・レシーブ直後の攻撃でサイドアウトを奪うことを「ファースト・ブレイク」と表現する関係者もいるようですが、「ファースト・ブレイク」はもともとバスケットボールやハンドボールで用いられる用語で、ボールを奪った瞬間にすかさず攻撃に転じることを表しており、ここでの「ファースト」は “fast(素早い)” の意味です。「ファースト・サイドアウト」の「ファースト」は、サーブ・レシーブからの「最初の(=“first”)」攻撃機会でサイドアウトを奪う、という意味ですので、これは明らかな誤用です。また、バレーボールにおける「ブレイク(=“break”)」とは、サーブ権をもつチームが得点することを表しており、その意味でも「ファースト・ブレイク」という用語は誤解を招きやすい表現であり、望ましくありません。

 

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