2013-06-26 17:25 追加
Evidence-based Volleyball事始め 第3回 “普通“のアタック決定されない率とは
“普通“のアタック決定されない率とは
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はじめに
「明日の最高気温は30度です。」
という天気予報を聞いたときどう思われるのでしょうか?そろそろ夏が近づいてきたといったところでしょうか。それでは、
「明日の最高気温は86度です。」
という予報を聞いた場合はどうでしょうか。死んでしまうと慌てるよりは、何かの間違いだろうと感じる方が多いのではないかと思います。
実は、この二つの温度は、摂氏と華氏という計測の単位が異なるだけで温度としては同じです。日本では摂氏表示ですが、アメリカだと華氏で表示されていますので、お互い普段とは異なる単位で表示された場合は戸惑ってしまうわけです。
何を言いたいのかというと、“慣れないデータを出されると、数値だけ見てもピンと来ない”ということです。もっと言うと、慣れないデータを出されると、既存の感覚で数値を判断してしまうけれど、それが数値の読み間違いになってしまう危険性もあるということです。
アタック決定されない率の場合
ようやく本題に入りますが、前回データを分析した“アタック決定率”は公式記録ではありませんので、慣れないデータといって良いでしょう。こうしたデータは、数値だけ見ても、どれくらいの値になれば凄いのかどうかが良くわかりません。
このような状態でなんとなくデータを使用するのは危険です。データを読み間違えてしまうリスクが高いからです。こうしたリスクを避けるためには、そのデータの特徴をきちんと理解しておく必要があります。
というわけで、今回は日本国内の試合のデータと国際試合のデータを用いて、アタック決定されない率のデータの特徴を整理したいと思います。
国内の試合のデータは、Vプレミアリーグより男女ともに2006/07大会から2012/13大会のデータを用います。国際試合のデータは2009年から2012年までのワールドリーグとワールドグランプリのデータを用います。データは、1試合単位で集計しています。
まずは、各データの平均値と標準偏差、最小値と最大値を以下の表1に示します。
この表に示した平均値±標準偏差の範囲を普通の成績として、最大値と最小値を上限と下限と見ていただければ、アタック決定されない率の基本的な性質が見えてくると思います。そして平均値±標準偏差の範囲を見ると、男女間に差はありますが、国内と国際試合の間にはそれほど変わらないことがわかると思います。
さらに、データの分布をまとめたものを以下の表2に示します。
このデータをグラフ化したものを以下の図1に示します。
データを見ると、男子のデータの場合、国内の試合と国際試合の分布がほぼ重なることがわかります。これは男子の場合国内の試合でも国際試合でも、アタック決定されない率の傾向はさほど変わらないことを示しています。
一方、女子の場合は、国内の試合と国際試合を比較すると、60%以上65%未満のチームが最も多いことには変わりがありませんが、分布が少し違います。2つの分布を山と見立てると、国内の試合は頂上が高く、国際試合の場合は裾野が高くなっているというデータとなっています。これは国際試合のほうが平均からは離れた極端な結果が出やすいことを示しています。逆に、国内の試合では平均前後の成績になりやすいことを示しています。
アタック決定されない率にトレンドはあるか?
以上のデータよりアタック決定されない率の特徴を大体つかむことができたのではないかと思います。今回はこれに加えて、アタック決定されない率のトレンドを確認しておきたいと思います。
バレーボールにおけるルール上の大きな変更は近年ありませんが、それでも戦術的な志向性は日々進化しています。こうしたバレーボールの進化が結果に反映されている可能性というのは十分考えられます。したがって、少し昔のデータを見るような場合は、今でもそれが通用するかどうか確認しておく必要があります。
ここまでのデータは、国内のデータは2006/07大会から2012/13大会、国際試合のデータは2009年から2012年までのデータをまとめて分析しています。以降は、1大会ごとにデータを分けて、分布に変化(トレンド)を確認しておきたいと思います。
まずは、国内の試合のデータを以下の表3-1と表3-2に示します。
このデータをグラフ化したものを図2-1と図2-2に示します。
ごちゃごちゃとしたグラフだなぁという感想を持っていただければOKです。何かトレンドがあれば、暖色系のグループや寒色系のグループが右か左に寄ったりするのですが、そうした傾向は確認できませんでした。とりあえず、事の是非は別にして、この7年間で特に変化は無いとい判断してよいと思います。
続いて、国際試合のデータを表4に示します。
このデータをグラフ化したものを図3-1と図3-2に示します。
2009年のデータと比較すると、以降のデータは若干右寄りになっています。これは、アタック決定されない率が高くなりつつある可能性が考えられる一方で、2009年だけ何か特殊な要因が働いた可能性も考えられます。残念ながら今回のデータではこれ以上のことはわかりませんが、重要なのは今後も継続的にデータを集めてトレンドを確認しておくことです。
まとめ
前回は、アタック決定されない率が何を測定しているのかを検証しましたが、今回はその数値の基本的な特徴を検証した形です。これだけの情報が揃うことで、ようやく“アタック決定されない率とはなんぞや”という事が議論できるようになり、実際にその数値を見ていくことができるようになります。
こうした基本的なデータを揃えるだけでは勝利は近づいては来ませんが、こうしたデータは、いわば土台であり基礎工事といえるものです。安易に数値ばかりを追いかけては、砂上の楼閣を築いてしまうことにもなりかねません。
「こういうデータがある」
とデータを持ってこられたときには、その土台となるような基礎情報にも注目してもらえればと思います。
というわけで、アタック決定されない率の下準備はこれくらいにして、次回はアタック決定されない率と勝敗や他の成績との関係を分析してみたいと思います。
引用データ
- Vリーグオフィシャルサイト
- FIVB公式サイト
文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。
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