2014-02-17 20:40 追加
世界のバレー会場から 第3回 韓国リーグオールスター戦
海外バレー観戦コラム第3回
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エンターテイメント性抜群!! 韓国Vリーグ「オールスターゲーム」
もしも、リベロが試合中アタックを打つことができたら…もしも男子の試合で女子がサーブを打つことがあったら…もしも、バレー選手がステージで歌って躍ったら…そんな想像でしか描けない姿がすべて実現されるイベントがあるとしたら、どれだけのバレーファンが集まるでしょう?
実はこれは先日、韓国のバレー関連イベントで見られたシーンの数々だったのです。2005年Vリーグ開幕当初から、年に一度行われている韓国Vリーグ・オールスターゲームは毎年、奇想天外の内容でバレーファンを楽しませています。今年2014年は1月19日のゲームイベントに先駆け、前日の18日に「V-POP」と名づけられたエンターテイメントショーも開催され、Vリーグチームの中から男女十数名の選手が、アーティストとともにステージ上で本格的な歌やダンスなどを披露。普段の練習後、企画の練習に励む姿も映像で流れ、普段とは全く違う表情に観客も大喜びでした。
リーグ期間真只中に行われるオールスター戦は、年によって多少内容の違いがあるようですが、私が会場へ訪れた昨年2013年はメインの「オールスター戦」の前に「オールドスター戦」、すなわち監督など元プレイヤーである4、50代のOBと現役女子チームと対戦も実施されました。
普段指揮を執っていても実際のプレイとなると上手くいかず、ミスを連発する現役監督の方々。そんな紛乱するコート内の状況を見かね、控えの選手は監督の指示なくコートに乱入、強引に交代してゆきます。年下である解説者もこの日はチームの監督となり、やりたい放題。選手(OB)が監督(解説者)にコートから引っぱり出されるという、屈辱的な場面もありました。
試合が進んでいくと女子とはいえ現役選手には真っ向勝負してもかなわないと判断したOB軍団は、徐々にルール変更の要求が増えてゆきます。コート内6人のところを8人にし、自分たちのコートを狭くするためテープでマーキングしたり、挙げ句の果てにはアウトのところをインにするよう主審に切願したり。OBが立場を忘れ大奮闘する姿が、観客の笑いを誘い会場を盛り上げていきました。しかし、プライドを捨てたように見えても随所には、現役さながらのプレイも垣間見せてくれる芸達者なOBたち。笑いと感動の詰まったこのオールドスター戦は、前座としてはもったいないくらいのエンターテイメントでした。
それが終わるといよいよメインイベントのオールスター戦がスタートしました。ファン投票によって選ばれた人気選手、男女計24名がVスターチームとKスターチームに分かれ戦います。第1、3セットは女子、第2、4セットは男子の対戦。リーグの試合同様、外国人選手を中心に試合は展開してゆくのですが、印象に残るのはプレイよりもむしろ、その前後のパフォーマンスでした。
ナショナルチームのような豪華な選手の揃う2チームですが、代表と違ってそこに緊張感はなく、あるのは遊び心のみ。ゆえに点数が入れば、喜びを動きで表現します。世界選手権予選でも活躍したキム・ジョンファンはチームメイト、シェ・フォンソクとともに、K-POP音楽に合わせてダンスを披露。しかもエンドライン上の目立つ場所まで移動し、振りも毎回変えて観客を飽きさせません。人気選手ムン・ソンミンも、スパイクを決めれば相手コートまで走り込んで喜びを表現。スパイクアウトの判定を受けた際は、観客の反論の声「イン、イン、イン…」を聞いて欲しくて、主審の前で「ほら聞いて」と言わんばかりに手の平を耳の側にもっていき、主張する大胆な行動をとっていました。普段の試合では絶対にできないハメを外した選手の動きに、観客たちは大ウケでした。
後半は女子のリベロ選手が着ぐるみパジャマを着せられて、腕まくりを何度もしながら苦しみつつも楽しそうにプレイ。そんな女子の対戦のタイムアウト中、男子3人はモッパーとしてコートを駆け抜けます。床拭きの仕事も自ら率先して行う選手も。もちろん要所要所でコンビプレイやサービスエースなど見応えあるプレイも見せ、観客を沸かせていました。
お笑いだけではないのがこのイベントに引き込まれる要因のひとつです。オールスター戦、2、3セット間には、サーブの速度を競う「サーブスピードコンテスト」が実施されました。これは事前に選ばれた男女各6名の現役選手が順番に、練習1本、本番2本の計3本を打って速度の最も速い選手を決めるもの。ラインを踏んだり、ネットにかけたり、コート内に入らなければ無効となります。これはまでの記録、男子は117km/h、女子は95km/hが残されていました。
簡単に見えるこの競技、しかし、大きなプレッシャーもかかるようで記録を残すだけでも大変です。スピードにこだわるあまり、アウトになることも少なくありません。思うような数字を残せない選手が続く中、大とりはムン・ソンミン。練習をアウトに、1本目をネットにかけ追い込まれたところから、見事、2本目122km/hの歴代新記録をマーク。これには観客も思わず立ち上がり、この日最大の歓声に包まれていました。
国歌斉唱からはじまり、OB戦、現役の人気選手チームの試合にサーブコンテスト、合間にはパフォーマーの本格的なダンスや表彰式後には人気アーティストのライブ。約4時間の昨年のオールスター戦は、チケット料金15,000ウォン~60,000ウォン(当時約1,200円~4,800円)で、日曜の午後、収容人数7,500人の会場を満員にしていました(東京体育館・収容人数10,000人)。通常のリーグ観戦チケット7000ウォン(当時560円)という価格からすると、値は張るものの客入りは上々。今や韓国では選手も監督も技術だけではなく、エンターテイメント性も求められているのかもしれません。筋書きのないドラマであるリアルな試合に加え、企画力の高いイベント、両方を兼ね備える韓国のバレー界は今後、どのようなアイディアを打ち出してくるのでしょう?
文責・写真:宮﨑治美
長崎県生まれ。2007年ワールドカップをきっかけにバレー観戦を始め、2009年頃から徐々に海外へも観戦に行くように。海外観戦数はヨーロッパを中心に4年間で計50試合以上。競技経験はないながらも、コートの中で繰り広げられるドラマ、選手の人間性に魅了され観戦し続けている。
第一回 ロシアリーグ
http://vbw.jp/5161/
第二回 イタリアセリエA1
http://vbw.jp/5267/
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