2025-01-04 09:30 追加
埼玉上尾メディックス・権田寛奈 強く優しいミドルブロッカー”ゴンちゃん”がコートに立つ理由 SV女子
埼玉上尾 大久保茂和監督・権田寛奈 コメント
SV女子
「誰かのために頑張るタイプなのかな」
12月29日、東レアローズ滋賀戦後の記者会見でのことだ。
埼玉上尾メディックス・大久保茂和監督はこの日スタメンに起用したミドルブロッカー権田寛奈選手の人柄について感想を求められ、そう答えた。
権田寛奈、2001年1月11日生まれの23歳。細田学園高校から内定期間を経て2019年に埼玉上尾メディックスに入団。今季6シーズン目。この日対角を組んだ日本代表の山中宏予は高校の1年先輩にあたる。
身長187センチ。バレーボール選手として恵まれた体格を持つ権田だが、Vリーグデビューには時間がかかった。
出場記録を遡ってみると、2020-21シーズンに4試合の登録があるも出場セットは0。
2021-22シーズンで33試合に登録され、16セットに出場した。
同期はチームの人気者、仁井田桃子(下北沢成徳高)。その仁井田は入団年の2019-20シーズンにすでに22試合に登録されている。
「おそらくね」
大久保監督はそれが自分の推測を含む発言であることを事前に断りながら話を続けた。
「身長も大きくて周りから期待をかけられてきたのでしょうけれども、それがプレッシャーになっていたのかな、と。だからね、あんまり期待、期待って言わないようにして待ってたんですよね。そうしたら芽が出てきた」
大久保監督は続ける。
「いつも奮起するきっかけがね、人のためというか。内瀬戸真実が引退した年の黒鷲旗で権田はベスト6に選ばれています。今季もね、山岸あかねがラストイヤー宣言していますし」
権田はみんなから愛されてるからね、と大久保監督は微笑した。
「でもね、権田の成長のために毎年誰かを引退させるわけにはいかないし、そういうきっかけがなくても”自分がこの世界で飯を食っていくんだ”という気持ちがね、今季を通じて彼女の中にしっかりと根を張ってくれればいいなと」
埼玉上尾メディックスは2024年末の東レ戦、28日のGAME1をフルセットで落とし、29日のGAME2を3-1で勝利した。
権田はGAME1には出場せず、GAME2でフル出場。高さを武器にチームを勝利へ導いた。
「皇后杯では攻撃面であまり貢献ができなかった。今日の試合では自分でも良い形でスパイクを決めることができたと思う。反面、ブロックでは手には当ててはいるけれども得点にできなかったり、ミスも多かった。次の試合はそこを頑張りたい」
GAME2、試合後の会見に参加した権田は自身のプレーを振り返って、そう話した。
会見に慣れていないせいか、流暢に受け答えが進むわけではない。しかし、一つひとつ噛み締めるように話す権田の言葉には真摯さがある。
「自分のためにではなく、人のために奮起するタイプなのか?」
かなりストレートな質問であったが、あえてその問いを権田にぶつけてみた。
権田はかなり困惑したであろう。少し考えながら、でも笑みは絶やさずに答えてくれた。
「高校生の時から…試合に出れなかった人たちのために頑張ろうって、そういう気持ちでプレーすることが多かったです。だから誰かのために頑張ろうという気持ちでプレーしています」
権田寛奈、愛称ゴン。彼女がサーブに向かうと、エンドラインから、アリーナサイドから、そしてスタンドから
「ゴンちゃん頑張れ!」
という声援が飛ぶ。
彼女の「誰かのために頑張る」という気持ちは自然と観客にも伝わり、観客が権田のプレーを後押しする。
「今季は自分のためにポジションを取る気持ちになれる?」
最後に権田にそう聞いた。これは記者の質問としては不適切だったと言わざるを得ない。
「はい、頑張ります」
という答えが返ってくることをどこかで期待していたのだ。大久保監督の想いと通じるところがあったとはいえ、フェアな問いではない。
しかし、権田は迷うことなく回答した。
「ライバルを意識しながらも、誰かのために頑張るっていう気持ちをこれからも持ってやっていきたいと思います」
権田寛奈は真っすぐで、少し不器用で、でも芯の強いプレーヤーなのだと実感した。
戦う理由は「誰かのため」。
そう決めたのなら、つまるところそれが彼女の「自分のため」ということになるのであろう。
大久保監督も
「3シーズン見てきたけれども、今季は自立というか自分が欲して試合に出たいという気持ちが以前より感じられる」
と話している。自分の強さを見つけた権田寛奈がコートで更なる存在感を発揮する日は近い。
取材、撮影 堀江丈
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