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トピックス

2025-05-15 12:00 追加

Astemoリヴァーレ茨城・野中瑠衣の旅立ち。「今季の戦術は野中がいて成り立っていた」 SV女子

Astemoリヴァーレ茨城・野中瑠衣

SV女子

野中瑠衣、退団。
その報はバレーボールファンの間に大きな衝撃として伝わった。

Astemoリヴァーレ茨城で5年。
去就は明らかではないが、本人のコメントを読む限り現役続行は間違いないようだ。現に日本代表として合宿に参加している。

気になる移籍先は国内か、海外か。
あくまで推測であるが、一か八かの大きな賭けというより、実直に学び直しをする環境に身を置きたいのではないかと筆者は想像している。

退団に際してのメッセージを引用する。

「私はまだ23歳という視野と、人間力と、実力と、経験値と、まだまだ積み上げるべきものが多く、挑戦してレベルアップしたい!という気持ちが一層強くなりました」

これが野中の心境であるならば、実績のある国内上位チーム、あるいはこれからのキャリアの模範になるような中堅、ベテラン選手を多く抱えるチームこそ野中の新天地としては最適解なのではないだろうか。

Astemoリヴァーレ茨城の中にあって、野中瑠衣はオピニオンリーダーを目指していた節がある。
昨季まで監督を務めた中谷宏大氏も、その前任の多治見麻子氏も野中の性格について、ほぼ同様のことを話していた。

「うちは真面目で大人しい選手が多いのですが、その中で先頭に立って発言をしてくれています。チームに対しての思いを言葉で表現できる選手です。野中の”自分がリーダーになってやっていくんだ”という自覚は日を追うごとに強くなっています。昔は少し言葉が先行していたのかもしれませんが、そこに力が追いついてきています」
(中谷宏大氏)

早い時期から、もしかしたら新人の頃から野中には
「自分がリヴァーレを変える」「一段上に引き上げる」
という思いが強くあったのかもしれない。
しかし、それは順位の上では成らなかった。

Astemoリヴァーレ茨城は今季、レギュラーシーズン8位に沈んだ。例年の定位置である7位。そこからの脱却を掲げた年だった。
同情すべきさまざまな理由はある。しかし、結果は結果である。
これまでの努力が水泡に帰したわけではないが、野中瑠衣はあらためて力の足りなさを感じたのかもしれない。
この5年間、選手として「生き急いだ」わけではないが、ふと振り返って「もう一度学び直したい」と思ったとしてもなんら不思議ではないだろう。

「空回りして日頃の練習から…自分で変えなきゃ、とか、気を張りすぎてた部分がありました。それで、ちょっと疲れちゃった部分があって」
いまにして思えば、シーズン中のこの発言は現在の結論に至る黄色信号だったといえる。

女子選手にとって5年のキャリアは短いものではない。
しかし、野中は高校を卒業してすぐにVリーグに身を置いた。彼女が大卒選手だとすれば1年目が終了したと同じである。
本人も言うようにまだ23歳。大学で経験することをVリーグで経験したと思えば、一旦リセットをかけるタイミングとしても納得がいく。

レギュラーシーズンの最終戦後に、Astemoリヴァーレ茨城を指揮していた中谷宏大監督は、来るべきチャンピオンシップに向けての構想を話してくれた。
弊社も記事として掲載したが、実は伏せた言葉もある。一つ前提条件があったのだ。

「すべては野中がいて成り立つ」
ということだ。

「攻撃力が高い選手を4人ずっとサイドで打たせることができるMB1、あれに関してはうちの特色を一番出せる戦術だと思います。でも、正直、野中がいて成り立つところが大きいのです。それ以外にも…例えばマッケンジーがバックアタックで貢献できるのも、野中がサーブレシーブに入ってくれているからです。野中がいて成り立つところが大いにあるんです」

今季のAstemoリヴァーレ茨城にとって野中瑠衣は全てのキーであり、スイッチでもあった。

野中はコートのバランサーとしてだけではなく、個人としても何かを掴みかけていた。2月9日のクインシーズ刈谷戦で野中は決定率9割という驚異的な数字を叩き出した。

「最近の感触の悪さに、これは”やばいかも”と。昨シーズンだったらもうリーグが終わっている時期ですし、疲労で体が動かないとかそういった悩みは今までなかったのですが、今シーズン初めて”おやっ?”と自分に違和感を覚えたんです。でも、これは逃げちゃいけないことだな、って。これまでも自分と向き合ってきたつもりでしたが、自分自身ではわからないこともある。コーチにアドバイスを貰ったり、同じポジションの選手と話したり、いろんな意見も聞きました」

「上半身と下半身のバランスが崩れているな、と感じていて。トスにも思うように合わせられていない。この状況を何とかしようと下半身にポイントを置くトレーニングをしました。土台の部分を安定させたんです。そのおかげて今日は体がピシッとしたというか、ふわふわ浮かない感じでしっかりプレーができました。何事も常に新しい学びがあるというか、上手くいかなかった時には、それはそれでいろんなやり方があるんだなっていうことを勉強しました」

しかし、終盤戦に向かって野中はコンディションを崩したのか、試合の欠場が増えた。
この間の野中については正確な情報が伝わっておらず、ファンも心配を募らせていたが、なんとかチャンピオンシップには間に合い、野中はAstemoリヴァーレ茨城での戦いを全うした。

完調ではなかっただろう。それでも、リヴァーレの支柱として首位の大阪マーヴェラスに挑み、リヴァーレの13番としてファンの声援を背に戦い、敗れた。

チームの象徴、バンディエラとしての期待もあったであろう野中を失ったAstemoリヴァーレ茨城は今後どういう戦いをしていくのだろうか。
指揮官も変わる。チームスタッフもほぼ総入れ替えとなった。

攻撃的なオポジットとしてチームには日本代表でもあるオクム大庭冬美ハウィという優秀な選手がいる。また、新人の岡部詩音も成長著しい。
しかし、チームは伝統的にライトサイドに遠井萌仁、窪田美侑といったディフェンスに長けた選手を配してきた。
野中瑠衣もこの伝統的な流れを汲む選手として位置付けられる。

野中瑠衣が次のステップとしてどのチームを選び、どんな選手に成長することを目指すのか。
同時に、Astemoリヴァーレ茨城はこのポジションに誰を据えるのか。それは中から育てるのか、外から獲得するのか。
今オフの動向の目玉の一つでもある。大いに注目したい。

Astemo茨城の本拠地であるひたちなか市。
そのターミナルである勝田駅のロータリーに立つ柱にはリヴァーレの各選手がデコレーションされている。
電車を利用してひたちなかの体育館に赴くファンにはおなじみの風景だろう。
その中から野中瑠衣の姿が消えると思うと、やはり少し寂しいというか、どこか不思議な気持ちはある。

むろん、一番悩み、葛藤したのは野中自身に違いない。
しかし、よりプロフェショナルな世界を目指すSVリーグにおいてはアグレッシブに自身のキャリア形成を求めていくことが当然の姿でもある。

選手もファンも越えなければならない痛み、その先にこそ次の展開が待っている。
決断をもって新たな一歩を踏み出す野中瑠衣の未来が輝かしい光に満ちることを信じてこの文を記した。

撮影 堀江丈

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