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コラム

2014-07-05 20:41 追加

Evidence-based Volleyball事始め 第11回 サーブの得失点を考える

バレーボールを「分析」という視点から読み解く連載

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はじめに

アタック効果率というデータがあります。「アタック効果率=(得点-失点)÷ 打数」 という計算によって算出されるデータです。得点しか考慮しないアタック決定率よりもアタックを多面的に評価できる指標です。

サーブにも同じように効果率と呼ばれるデータがあります。改めて計算式を示すと以下のようになります。

サーブ効果率={(100 × ノータッチエース + 80 × サービスエース + 25 × 効果)} ÷ 打数

このサーブの効果率の計算式には“失点が含まれない”というのが今回のテーマになります。

サーブミスは考慮すべきか?

アタック効果率とサーブ効果率、別に名前が一緒だからといって同じ計算方法である必要はありません。しかし、データを計算に含まないということは、サーブの良し悪しを評価するうえで、サーブによる失点を丸ごと無視するということになります。サーブの評価において、サーブミスは評価に含む必要の無いデータなのでしょうか?

個人的には必要が無ければ評価から除いてしまっても構わないと思います。しかし、その“必要かどうか”ということがはっきりとわかっていない(エビデンスとして報告されていない)のが現状です。

今回は、サーブの得失点の性質を分析していくことで、サーブミスの必要性について考えたいと思います。

サーブの得失点の関係

まずは以下の図1-1と図1-2のデータを見てください。

z1_1z1_2

これはVプレミアリーグ2006/07大会から2013/14大会までのレギュラーラウンド全試合(男子852試合1704チーム、女子929試合1858チーム)のサーブの得失点の関係を示したものです。右に行くほど失点(サーブミス率)が多く、上にいくほど得点(サービスエース率)が多いことを示します。

さて、この図が示すサーブの得失点の関係ですが、相関係数の示すように特に関連があるとは言えないものです。サーブの得点が高かろうが低かろうが、失点とは関連がないという意味です。

しかし、これは1試合というごく短い時間に、出場した選手全員のサーブ成績を合計したデータで分析をしたものです。データとしては誤差の大きい者になるので、同様のデータを今度は個人のレギュラーラウンド通算成績で見てみたいと思います。データを以下の図2-1と図2-2に示します。

z2_1z2_2

個人のデータで見た場合、サーブの得失点の間に男女とも相関関係があることが確認できます。これは、サーブの得点の多い選手は失点も多いということを示しています。

改めて言うまでもないことかもしれませんが、サーブにおいて理想的なのは「失点せずに得点する」ことだと思います。しかし、現実のサーブにおいてそれ理想に過ぎず、得点には失点もセットでついてくることをデータは示しています。

したがって、サーブの失点は単なるミスというよりも、サービスエースのための必要経費と考えることができます。ある程度のミスを出しながらも、得点を狙っていくというのがサーブには求められるということです。

こうしたサーブの性質を考えると、サーブの評価において「サーブの失点は必要か?」と問われれば、必要だと答えることができます。ただし、それは単なるミスというよりも、得点を狙ってチャレンジできているか?という意味のデータということなります。サーブにおける得失点はあわせて評価をすべきでしょう。

サーブの得失点をどのように評価すべきか

それではこのサーブの失点をどのように評価に組み込むか、ということは少々厄介な問題です。アタックのように単純な得失点差を計算するのは難しいからです。以下の図3-1と図3-2にアタックの得点(決定)率と失点率の関係を示します。

z3_1z3_2

Vリーグのデータ(JVIS)には、アタックの失点に被ブロックが含まれていないために、このデータは2009年から2013年までのワールドリーグ(男子)とワールドグランプリ(女子)のデータ(VIS)を用いています(男子530試合1060チーム、女子418試合836チーム)。

このデータは、男女ともにアタックの得点(決定)率が高いチームは失点率が低いことを示しています。このような関係においては、「得点-失点=失点せずに得点すること」を良い成績として評価することができます。

この結果は、図2-1と図2-2に示したサーブの得失点の関係とは異なるものです。アタックとは得失点の関係性という前提が異なるわけで、アタックと同じような得失点差(得点-失点)という値の計算では問題があるのではないかと考えられます。そこで、今回は試験的に「得失点」比という値を計算してみました。計算式は以下のようになります。

サーブ得失点比(得点:失点)=得点÷失点

ある程度のミスを出しながらも得点できているかを評価するためのデータです。得失点比の目安となる値を以下の表1に示します。

h1

この得失点比がVリーグにおいてどのように分布しているかをまとめたものが以下の表2になります。

h2

このデータをグラフ化したものが図4になります。

z4

図中の破線が得点=失点のラインになります。失点の少ない女子であっても、大半の試合で得点<失点という関係になっていることを確認できると思います。

まとめ

長くなってきたので今回はこれくらいにして、次回はこのサーブの得失点比が変化することで、試合の勝敗がどのように変わってくるかを分析してみたいと思います。

とりあえず今回のポイントは、サーブミス(失点)は単なるミスというよりは、得点のための必要経費だというところだと思います。ミスを減らさなくてはという思考では、得点まで減ってしまいます。

それでは、サービスエース(得点)のためには、いくらでもミスをしても構わないかといわれると、そういうわけでもないと思います。世の中には経費倒れという言葉もあるように、得失点の適正なバランスがあると思うので次回はそのあたりを分析できればと思います。

第1回 Evidence-based Volleyball事始め
第2回 ”アタック決定されない率”
第3回 ”普通”のアタック決定されない率とは
第4回 アタック決定されない率と勝敗の関係
第5回 アタック決定されない率の質
第6回 アイディア募集
第7回 サービスエース考
第8回 続・サービスエース考
第9回 サーブ効果の効果
第10回 続・サーブ効果の効果-サービスエースの影響

文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。

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