2014-10-18 20:01 追加
五輪までの時間を考える ブラジル代表にみるB代表の重要性
ブラジル育成システムを参考にした提言
Others
■ブラジルの強さを支えるもの
ブラジル代表はなぜ強いのか? そしてどうしてその力を維持できるのか? その答えの一つとして、「B代表のシステムがしっかりしており、基盤と経験ができているから」ということが挙げられる。
セレソン・デ・ノヴォと呼ばれる若手代表は、シニアの代表とジュニアの代表の間の様な位置にあり、いわゆるB代表である。若手と名がついていても特に年齢の決まりはない。年間のスケジュールを見て、A代表(シニアの本チーム)とB代表の割り振りを考え、招集をかけ試合に臨む。B代表だけで試合に出る時もあれば、AとBを混ぜ、出番が少ないA代表の控えの充実を図り、A代表12人の力を均一にする狙いもある。
「B代表の目的は第一に継続性。ジュニアからA代表に入るまでにブランクをつくらないこと」という男子B代表のロベルレイ・レオナルド監督はA代表ではアシスタントコーチを務める。
B代表といっても、単に経験のためのチームではない。「競争力があり、試合に勝てるチームでなくてはいけない」と目標も高い。重点を置いているのは、サーブ&ブロック、ブロック&レシーブである。サーブでどこを崩すかで、次にどこにブロックにつくか的が絞れる。そのブロックの位置で後方のレシーブがどこにはいるのか。ブロックの穴をレシーブで補強する形、つまりブロックとレシーブのポジションでコート内をすべてカバーできるかどうか。あとは攻守の切り替え。ブロックに飛んで着地した後に、いかに早くベストのポジションで攻撃に入れるか。サーブレシーブが崩れて尻もちをついたり、左右にバランスが崩れても、そこから攻撃に向かうステップに入る。ここでテンポが遅れたり、攻撃が一人減れば、相手にブロックにつく余裕を与えることになる。すべては基本的なことだが、その精度をより高めなければいけない。
■B代表の豊富な実戦経験
ブラジル国内のスーパーリーグは、昨年は9月に開幕し、今年の3月から8チームによる決勝リーグに入り、決勝は4月の末になった。決勝リーグに進めなかったチームやその後敗退したチームはすぐ休暇に入る。そこで利用したいのが休暇明けの4月である。この時期にすでに、A、B代表の招集をまず8人、次に3人、また追加で4人という様に都合のつく選手から順に練習に入る。代表のレギュラー陣がスーパーリーグの決勝を戦っている間に、他のメンバーが既に準備に入るということだ。
男子は今年4月にアルゼンチンで3試合強化試合を行うことで、ワールドリーグ前に実戦で調子を整えている。いつもポジションの4、5番手としてA代表に呼ばれても出場機会がなかったり、B代表に甘んじていたMBのグスターボ・ボナットはワールドリーグに、OP/MBのレナン・ブイアッチやリベロのフェリペ・シルバは世界選手権に出場を果たした。世界選手権ではリベロを二人にして、サーブレシーブはベテランのマリオ・ペデレイラ・ジュニオール、そしてレセプションはシルバと分担し、初のA代表にして大役を果たしている。
初の世界選手権で銀メダル、個人賞も獲得したWSリカルド・ルカレリ・デ・ソウザは、「大きな大会でメダルや賞が取れ自信になりました。だからといってA代表での位置が保障された訳ではありません。いつでもB代表の選手がすぐ後ろに控えているのですから、これからも努力して技を磨かなくては」と帰国後に語っている。自身の経験をもとに、B代表の力を理解しているからこその発言だ。
女子も4月には練習に入る。5月のモントルー大会や6月(または7月)のエリツィン杯にA、B代表を混ぜて参加しているが、これは各国同じようなものだ。女子はグランプリまでに男子に比べ時間があるので、この時期をB代表の強化に充てることができる。また8月にリオデジャネイロで行われた軍隊の世界選手権に出場した選手もいる。軍隊の大会であるから、選手はまず軍隊に入り、軍人としての訓練も積まなくてはいけない。アテネ五輪金、元NECのアンデルソン・ロドリゲスは代表を退いた後、軍隊の代表チームで長年キャプテンを務め、今年は軍隊女子代表の監督を務めた。
軍代表に参加したMBナターシャ・ファリアネは2012年にグランプリに出場したが、その後はA代表から外れている。「どんな大会でもブラジルを代表することは誇りであり、モチベーションがあがります。親善試合にはない緊張感や決勝までの体力の配分など、技術以外のことも学べます。軍隊のしごきではないですが、ロドリゲス監督は厳しかったです。でも皆で金メダルを取れてミソンクンプリーダ(任務完了)です」と大会参加に満足している。
男女とも他には、南米選手権やパンアメリカ大会、パンアメリカ杯などにB代表をうまく取り入れ、常にA代表と並行して経験を積み、準備ができている。
彼らのようにB代表からA代表に入った時に「国際経験がなく」「初めてのことで」というコメントは出てこない。代わりに出てくるのは「B代表でしっかり準備できているから大丈夫」、「今までの経験を生かして、A代表のレギュラーを目指したい」という頼もしい言葉だ。
■日本との違いはどこか
では、日本もB代表強化を進められるかと言えば、簡単ではない。
まずは南米とアジアの参加国の実力の差がある。ブラジルでは南米の国々の中に、特に女子では、ブラジルほどの強豪国がいないので、B代表が参加しやすいという利点がある。これがアジアの大会でメダルを目指すとなれば、中韓の他に男子ではイランやオーストラリア、女子のタイといった国々と戦うには、B代表では厳しい面がある。
また、ブラジルはサクァレマ(リオデジャネイロ郊外)に宿泊施設を備えたバレーボール専用のトレーニングセンターがあり、少人数でばらばらに集っても、すぐに練習を開始できる。また外国のナショナルチームや大学チームの合宿に施設の提供も行っており、そういったチームとブラジルB代表が練習試合を組むこともできる。日本では数人でも練習を貸し切ってできる場所があるのか、社会人と学生の日程の違いも大きな壁となるだろう。
■プロジェクト・コアに望むもの
日本でプロジェクト・コアが発表された時、やっとブラジルのB代表に近づく計画が出たという気がした。しかし、ふたを開けてみれば、メンバーは東京五輪に向けての若手選抜だった。上述のようなブラジルB代表のシステムを念頭に置いて、若手のエリート選抜以外にも、現代表に次ぐメンバーにも幅を広げられないだろうか。
例えば、少し前にさかのぼり、2011年のパンアメリカ大会(4年に一度の北中米大会。アジア大会に相当)は、リオ五輪を5年後に控え、東京五輪を控えた現在の日本と同じような状況だった。男子はB代表が参加し金メダルを獲得したが、メンバーの平均年齢は26歳だった。若手というよりは中堅、ベテランに入るくらいである。あまり先ばかり見ず、毎年いつでもA代表に入れるだけの力をそなえた人材を育てなければ、選手層の厚さにつながりにくい。2013年のパンアメリカ杯に参加した男子B代表は、平均24歳。198cmと199cmのセッター、2m以上が7人とかつて“A代表より背が高いジュニアチーム”と言われたメンバーが確実に力をつけ、あがってきている。最年長のリベロ、アラン・ドミンゴスは33歳。若手の強化に限らず、一度代表を外れた20代半ば以降の選手が世界の感覚を失くさず、若手をひっぱる意味でも、実力があればベテランの参加にも門戸を広げることは大切だ。
またA代表との連携がしっかりできているかも大きな課題だ。特に女子は、ハイブリッド6ではMBの人数が減らされているが、選ばれなかったMB選手たちのモチベーションを保つことも重要だ。グランプリの後、ブラジルのMBファビアーナ・クラウジノは「誰がどこから打ってくるかわからないというほどの印象はありませんでした。ミドルから打ってこないとブロックが楽ですが、他の攻撃にスピードがある時は、ミドルなしでもブロックにつくのは難しいです」、またセッターのダニエリ・リンスも「当たっている1番(長岡)を止めれば、残りが絞られてくる」と言ったように、ハイブリッド6も未知数といってよい。国内ではいない190㎝台の海外の大型選手との対戦機会を維持しなければ、ますますMBが廃れてしまう。
世界選手権男子大会では、優勝したポーランドのマリウシュ・ブラズウィ、ブラジルのワラセ・デ・ソウザ、フランスのアントニン・ロージエル、イタリアのイヴァン・ザイツェフ、アメリカのマシュー・アンダーソンなどOP がチームをけん引しているのが目立った。日本ではVリーグでOPに外国人選手が多く、長年、強化が遅れているのではないだろうか。東京五輪を見据えてではなく、急務の課題である。
ブラジルでは代表チームに心理カウンセラーがつき、大会に同行することもある。これはチームのマネージャーやOB、OGなどのアドバイザー的存在ではなく、精神科医である。ここ数年、女子チームで監督に特別休暇を申し出る選手がいる。なぜかというと、胸のシリコン注入のために、1~1ヶ月半通常の練習ができないという。「病気やけが、個人的な悩みなどで自分に自信が持てなければ、全てがネガティブになってしまう。本人が本当に望むことでプラスになるなら」とジョゼ・ロベルト・ギマラエス監督は練習参加の遅れを許可している。この場合は監督に相談しているが、人それぞれ悩みは多様であり、チームのスタッフや選手同士に相談しにくいこともあるだろう。そこにカウンセラーがいることで選手が安心し集中できることが、何よりの力になると考えられている。日本では、体罰やセクハラがスポーツ界でも問題になっているが、第三者に相談できる体制も必要だろう。
■「時間がなかった」と言わないために
「ミスしても我慢して使っている」「新しく○○選手を試してみたかった」という監督のコメントをよく聞くが、A代表は戦う場であり、経験をつむ、慣れるといった場ではない。それはその前の段階で済ませておくべき事で、A代表とはさらに上を目指すチームでなくては勝ちにつながらない。
今年は世界選手権の日程の関係で、欧州南米遠征を組んだり、アジアカップ、アジア大会へと若手を送りだすことができた。来年のワールドカップは、従来の11月から女子は8月下旬、男子は9月初旬と開催が早まり、ますます強化の時間が短くなる。5月に集合してからではすべてが遅すぎる。
「時間がなかった」とばかり言っていては、永遠に世界のトップには追いつけない。1年365日、五輪までの日数は世界共通だ。時間がないのであれば、A、B代表を並行して育て、同じ時間を倍に使えばいい。ぜひプロジェクト・コアのメンバー選出を東京五輪に向けた若手に限らず柔軟に拡大し、外国勢との対戦をしっかり組み、A代表へのステップにつながる道を開いていってもらいたい。
唐木田真理子
在ブラジル18年 フリーランスライター。ブラジルの旅行や食べ物、日常のあれこれを雑誌やサイトで紹介。
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