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コラム

2014-12-22 19:28 追加

2014世界選手権女子総括(その2)

世界選手権イタリア大会の全日本についての分析

全日本代表 女子

イタリアで開催された 2014世界選手権。初戦のアゼルバイジャンをはじめ、1次ラウンドで対戦した各国は、直前のワールド・グランプリのファイナル・ラウンドで戦ったブラジル以外の各国同様、日本相手にスプレッド・シフトを主に採用していた。それゆえ、日本のスパイクに対してブロックが割れるシーンが見られる一方、(その1)で書いた不安が的中するかのように、日本のアタッカー陣は各自の最高到達点よりもかなり低い位置から、窮屈なフォームでスパイクを打つシーンが頻繁に見られた。

Japan Saori Kimura spikes Sakoda(アゼルバイジャン戦)

佐藤文彦氏の解析によると、今大会の日本のサーブ・レシーブ成功率は、出場全チーム中ならびに全試合中でも屈指の高さであり(左下<図3>*図は元記事より引用)、1次ラウンドにおける日本のRunning Set率(※1)(右下<図2-1>*図は元記事より引用)も比較的高い数値となっていた。一方、1セットあたりの被ブロック数(被Kill Blocks/セット)も全試合通じて3.0本を越えており、1次ラウンドにおける日本のレセプション・アタック(※2)は、狙いどおりに1枚にした相手のブロックを「かわすことができずにシャット・アウトされる」ケースが多かったことが想像できる。

グラフ1 グラフ2

実際1次ラウンドは、中国を除いて格下と見込まれる相手との連戦にも関わらず、日本は必ずしも高いスパイク決定率を残すことができず、勝ち点を目論見どおりには稼げなかった。

では、トランジション・アタック(※3)はどうだったか? それにはまず、今大会の日本のディグ・フォーメーションに関して、踏み込んで言及する必要があるだろう。 2000年代にバンチ・リード・ブロック・システムが世界標準となって以降、ディグ・フォーメーションは<図1>に示すように、両サイドのスロット5やスロットCからの相手のスパイクに2枚のブロッカーが割れずに揃うという前提で、すべてのディガー(①・④・⑤・⑥の各選手)はブロッカーの影に隠れる部位から外れた位置で構える陣形が、男子では一般的である。

スライド1

女子はアジアで主流の戦術が今でも幅を利かせている部分があり、ディグ・フォーメーションはその代表と言えるが、ヨーロッパ勢には男子の世界標準を踏襲している国が比較的多い。 こうしたバンチ・リード・ブロック・システムを前提としたディグ・フォーメーションに対抗するため、ブロックを「かわす(=横を抜く)」のではなくブロックの「上を抜く」コンセプトで、<図2>の☆の位置に打ち込むのがスパイクの王道である。

スライド2

また、セッターが後衛の場面で1本目のディグを上げた際には、後衛レフト(コート・ポジション5)を守る選手(リベロであることが多い)がセット・アップを行うというのが、トランジション・アタックにおける現在の世界標準システムとなっている。

スライド3スライド4

それに対して今大会の日本は、セッターが1本目のディグを行った場面では、木村・新鍋両選手ないしは、大会後半スタメン出場することが多かった高田選手らWS陣が、セット・アップの役割を果たすシステムを採用していた。

私は、このシステムの採用こそが、今大会における日本の2次ラウンド敗退につながる主要因となった、と考えている。それはなぜか・・・?

まずディグ局面において、セッターが後衛の場面ではWS陣は後衛センター(コート・ポジション6)を守るケースが多かったが、上述のシステムの採用のためかエンド・ラインよりもかなり前に位置取りしているケースが多く、エンド・ライン際へ打ち込まれたスパイクをノー・タッチで決められる、あるいは、上半身を弾き飛ばされて決められるシーンが目立った。

スライド5-1スライド5-2

佐藤文彦氏の解析「ブロックから見たハイブリッド6」によれば、今大会の日本のディグ成功本数は、過去の国際大会と比して、決して少なくはなかったようだが、後衛センター(コート・ポジション6)の守備位置がエンド・ラインよりもかなり前であるがゆえに、せっかくワン・タッチしたボールをつなぐことができず、今大会における日本の Rebounds (※4)本数の少なさ(図3-2 *図は元記事より引用)の一因となっていた可能性は、十分に想定できる。

グラフ3

さらに問題なのは、トランジション局面において、助走動作に参加できるアタッカーが「限定されてしまう」点である。2次ラウンドで日本が対戦した各国は、ラリーの要所要所で効果的に、フェイントを<図6>の☆の位置に落としてきた。フェイント自体が決まらなかったとしても、それをセッターがディグすれば<図7>のように、直後のトランジション・アタックで助走動作に参加できるアタッカーが、前衛両サイドの2人に限られてしまうのである。

スライド6スライド7

(その1)でも引用したが、大事なことなのでもう一度、『ミーハー排球道場 第6回』で解説した内容を引用してみよう。

…『ハイブリッド6』では、この状況は「4-2システム」となり、セッターは前衛センター(コート・ポジション3)の位置でプレイします。前衛のアタッカーは両サイドに位置してプレイしますから、レシーブ返球位置が意図せずネットから離れたとしても、セッターがセット・アップ位置まで移動する動きと助走路が交錯するアタッカーがいません。

<図6-2>

結果として、サーブ・レシーブ返球位置がネットから離れた場面であっても、ディグ直後の【トランジション】の場面であっても、高い確率でスロット5、スロットCならびに、スロット1付近の3ヶ所から、スパイクを繰り出すことが容易になります。この点が実は、今回の『ハイブリッド6』の最大のメリットであると、私は考えています。

このように「ハイブリッド6」の最大のメリットは「トランジション・アタックにおいて、高い確率で3ヶ所からスパイクを繰り出すことが可能」な点にある。フェイントを<図6>の☆の位置に落とす戦略は、こうした「ハイブリッド6」のメリットを、いとも簡単に無力化してしまったのである。

<動画1>

<動画1>は2次ラウンドのドイツ戦における1ラリーであるが、日本はレセプション・アタックの後、計3回のトランジション・アタックを繰り出しており、最初のトランジション・アタックで木村選手がセットしているのが<図7>の状況に相当する。残り2回のトランジション・アタックの場面では、後衛レフト(コート・ポジション5)を守るリベロがセットしているにも関わらず、木村選手は助走動作に参加できていない ・・・ 2つめのトランジション・アタックは、相手のフェイントをディグしようとダイブしたセッターの宮下選手が、結果的に木村選手の助走路を邪魔する形となっている。一方、最後の場面は、セッターの宮下選手の守備範囲に返球されたボールを、エンド・ラインよりもかなり前に位置取りした木村選手が触ろうとしたがゆえに、直後に助走動作に参加できない結果に陥っているのである。

日本が得点したラリーではあるが、最初のレセプション・アタックを含め日本が繰り出した計4本のスパイク全てに、ドイツのブロックが割れずに2枚揃っている。最後にスロットCから決めた新鍋選手のスパイクも、ブロックをかわして放たれたコースにドイツのディガーがきちんと位置取りしており、日本が繰り出せるスパイクの選択肢を限定することに終始成功したドイツの、思う壺であったラリーと言えるだろう。1次ラウンドと違い、実力の拮抗した対戦相手との連戦となった2次ラウンドでは、このように「WS陣がセット・アップを行う」システムの弱点を相手チームに用意周到につかれ、日本は2次ラウンド敗退という結果に終わったのである。

そもそも、なぜこのようなシステムを採用したのか? … 振り返ると2010年のワールド・グランプリから眞鍋ジャパンは、セッターが1本目のディグを行った場面で「リベロがセット・アップを行うシステム」を採用した経緯がある。それを今大会で変えた理由としては、テレビ・メディアによると「リベロの佐野選手がセットするより、木村選手や新鍋選手がセットした方が、アタック効果率が高かった」という、過去のデータに基づいた判断であるらしい。

リベロのセットによるアタック効果率に関して私は、『深層真相排球塾9限目』(『月刊バレーボール2011年10月号』日本文化出版)の中で、2010年世界選手権において佐野選手が上げた全セットのデータを独自に検証しており、それによると「セット・アップからボールを打つまでの経過時間」が相対的に長い場面、つまり佐野選手がハイ・セットを上げた場面における木村選手のアタック効果率が高かったことが、32年振りの銅メダル獲得の大きな要因となった可能性が示唆された。

「リベロがセット・アップを行うシステム」の下で、WSがセットを上げざるを得ない状況というのは想定外の苦しい場面であるはずで、そうした状況で木村選手や新鍋選手は、丁寧なハイ・セットを上げていたことが容易に想像できる。「リベロがセットするよりWS陣がセットした方が、アタック効果率が高かった」というデータが事実なら、それは「セット・アップからボールを打つまでの経過時間」の短縮を意図してセットするより、丁寧にハイ・セットを上げた方が、アタック効果率は高くなるという真実を、暗に示唆しているのではないだろうか?

「WS陣がセット・アップを行う」システムを採用した今大会において、WS陣に課せられた役割は、2010年世界選手権においてリベロに課せられた役割と、同じであったはずである。「セット・アップからボールを打つまでの経過時間」を短縮しようとプレイする限りは、セットする選手が変わったところで、トランジション・アタックの効果率を上げるという目的を達成するのは難しい。ましてや上述の通り、セットを上げる時点で助走動作に参加できるアタッカーが限られているとなれば、相手のブロッカーにとっては、待ち構えた網にかかる格好の餌食のようなものであろう。

同じことがセッターにも当てはまる。サーブ・レシーブがネット際のセッター定位置に返球され、3人のアタッカー誰に対してもセットできる理想的な状況ですら、<動画1>における最初のレセプション・アタックのように、自コートのライト側にセットする際に上半身が反ってしまい、誰にセットするかを相手のブロッカーに見抜かれているようなケースが、2次ラウンドで特に目立った。

Japan Haruka Miyashita sets a ball

こうしたことの積み重ねが、2次ラウンドにおける日本のRunning Set率の低下につながった、と考えるのが妥当であろう。「リベロの佐野選手がセットするより、木村選手や新鍋選手がセットする方が、アタック効果率が高い」という過去のデータを重視し、「WS陣がセット・アップを行う」システムで今大会に臨んだ日本だったが、逆にそのシステムの弱点を相手につかれ、想定外の結果を招いてしまった。現状で日本のアナリストが収集しているデータは、基本的に「ボールの動き」ならびに「ボールに触る選手の評価」であるため、例えば<動画1>のラリーにおいて「日本が繰り出せるスパイクの選択肢が限定されていた」事実ならびに、それが「宮下選手のディグ後の体勢ならびに、ボールに触っていない木村選手の守備位置や動き」に起因している事実を、収集したデータから読み解くのが困難なのは想像に難くない。データから得られた分析結果を今後もチームの戦術システムに反映させていくのであれば、データとして本当に収集すべき項目は何なのか?を、検討しなおす必要があるのではないだろうか?

以上、2014世界選手権における全日本女子の敗因を解説してきたが、今大会で露呈した日本の弱点を、Vリーグ開幕後もそのまま引きずっているのが東レアローズ(女子)である。スタメンのうちWS陣2人(木村・高田両選手)とセッター(中道選手)、さらにはOPに入る迫田選手の計4人を全日本メンバーが占め、優勝候補の一角に挙げられながら1レグで1勝6敗と低迷。12月6・7日に滋賀県立体育館で開催されたホーム・ゲームを観戦した限り、WS陣の後衛守備での位置取りやセッターのセット・アップ動作などは、世界選手権での日本の戦い方をまるで再現しているかのようであった。

眞鍋監督らスタッフは、世界選手権の敗因を「諸外国の大型化」と結論づけていた(※5)が、国内リーグでも再現されている以上、「大型化」が理由と言うには無理があるだろう。日本がさらに上を目指すためには、アナリストが収集すべきデータの再検討とともに、首脳陣の分析能力の向上が今後益々、必要とされるに違いない。

その一方、大会終了後に少し明るい兆しもあった。セッターの宮下選手が、インタビュー記事(※6)の中で以下のように語っている。

「(ハイブリッド6の)手応えは、条件がついちゃうんですけど、攻撃を中心に考えている戦術なので、良い時 … のっている時やパスが入った時は、3人から4人の選手が同時に攻撃できるというのはすごく良かったですし、それによって相手のブロックも1枚とかにできるケースが多かったので、そこは手応えとしてありました」

何度も言うように「ハイブリッド6」のメリットは、「サーブ・レシーブ返球位置がネットから離れた場面であっても、トランジション・アタックにおいても、高い確率で3ヶ所からスパイクを繰り出すことが可能」な点にある。宮下選手の言葉の中には誤解はまだあるものの、追求すべきは「セット・アップからボールを打つまでの経過時間」の短縮ではなく、アタッカーの「選択肢の確保」である、という真実(※7)に対する「気づき」が伺える。今後のV・プレミアリーグでの彼女のプレイにどのような変化が伺えるか? ・・・ に要注目である。

 

文責:渡辺寿規

日本バレーボール学会 バレーペディア編集委員。 『月刊バレーボール』(日本文化出版)2011年2月号~2012年2月号にわたり、『深層真相排球塾』を執筆。

2014年5月に、『バレーペディア』完全準拠の初の指導DVD「『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる!! 世界標準のバレーボール」(ジャパンライム)を発売。

________

(※1)FIVB主催の国際大会における公式帳票において、ブロックが1枚もしくは、ノー・マークとなったセット本数が、Running Set(s)として記録される。セット総本数(Total Attempts)のうちでRunning Setの本数の占める割合を、Running Set率と呼ぶ。

(※2)相手のサーブをレシーブして攻め返すアタック

(※3)相手のアタックをディグして攻め返すアタック

(※4)FIVB主催の国際大会における公式帳票において、ブロッカーの手(腕)にボールが当たった後ラリーが継続した本数が、Rebound(s)として記録される。

(※5)「荒木田氏語る 敗因は大型化と調整失敗」(nikkansports.com) http://www.nikkansports.com/sports/news/f-sp-tp6-20141008-1379201.html

(※6)「ハイブリッド6のキーマン、宮下遥の心意気」(中西美雁『スポルティーバ』より) http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/otherballgame/2014/11/04/post_342/

(※7)リード・ブロックで反応するブロッカーは、実際にボールを打つアタッカーを確認してからブロック動作を開始するが、セットが上がる「アタッカーの選択肢」が複数ある場合、セット・アップからブロッカーが動き出すまでの反応時間は「選択反応時間」となる。「選択反応時間」は選択肢の数が多ければ多いほど長くなるため、相手のリード・ブロックの反応時間を遅らせるには、アタッカーの選択肢をできるだけ多く確保することが重要となる。詳しくは、こちらを参照(『e-Volleypedia』より)。

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