2016-01-13 17:49 追加
天皇杯男子決勝レポート 豊田合成vsJT
天皇杯決勝の様子
SV男子
2015天皇杯決勝は安定した戦いぶりで決勝に進んだ豊田合成トレフェルサと、準決勝で堺ブレイザーズに逆転勝ちをしたJTサンダーズとの対戦となりましたがセットカウント3-1(25-20, 25-22, 21-25, 25-21)で豊田合成が初優勝となりました。
簡単に両チームの紹介をします。
豊田合成はVプレミアリーグでも好調で1位となっています。攻撃面はOPのイゴール選手が中心で全スパイクの4割~5割強が集まります。守備では規律が非常にとれています。
JTは昨年度の天皇杯覇者でVプレミアリーグも制しました。今シーズンはなかなか調子が出ずVプレミアリーグでは6位となっています。天皇杯の準決勝では堺ブレイザーズに2セット先取され、越川選手がアクシデントで出場できなくなるという非常に苦しい展開となりましたが、交代した選手が活躍をし逆転勝利で決勝に進んできました。
ローテーションは豊田合成、JT共にS6(セッターが後衛センターで始まる)が基本でした。今シーズンのVリーグの試合の傾向から見ると両チームの監督ともに試合によりローテーションを代えるタイプですが、豊田合成は比較的多いローテーション、JTはセッターが最初にサーブを打つローテーションが多いので今まででは少ないパターンでした。結果的に両OPが前衛となるローテが重なることになりました。
攻撃面では豊田合成はイゴール選手に普段よりセットを集め71/116(61.2%)と非常に多くなりましたが、適度に近選手と傳田選手のMB陣に散りばめ存在感を演出していました。JTはOPのヴィソット選手が中心でしたが、越川選手に代わり出場した安井選手が準決勝に続き高いパフォーマンスを続けカバーをしました。
守備面では豊田合成はブロックはバンチ・リードブロックが主体で、MBに対してコミットブロックをしかけるケースは少なかったです。またフロアディフェンスとの連携も取れており組織的にまとまっている印象でした。JTはここ数年来一緒でブロックはMBは自己判断で動き、サイドブロッカーは両サイドをケアする形に見えました。ただ普段よりサイドヘの決め打ちは少なくリードブロックが主体でした。クリスティアンソン、ヴコヴィッチ両監督のカラーが出ていると思います。また前述の通り両外国人OPの前衛ローテが重なることになったためか、OPが前衛でサーブの時は、ブロックのポジションチェンジをし外国人選手同士をぶつける戦術を両チームともに取っていました。
各セットを簡単に振り返ります。
第1セットは序盤のサイドアウトの応酬で互角の展開でしたが、中盤のJTヴィソット選手の連続スパイクミスから均衡が崩れ、豊田合成がブロックのワンタッチからつかんだトランジションをイゴール選手に集めブレイクするなどもあり豊田合成が取りました。
第2セットも序盤はサイドアウトの応酬となりました。中盤はJTがワンタッチからのトランジションで八子選手が決めブレイクをし先行する一方、豊田合成はサーブの狙いを定め、JTのレセプションを崩し、トランジションでイゴール選手に集め決める展開となり競り合いの形が続きます。この状況が崩れたのは終盤でした。ヴィソット選手のきわどいスパイクミスがきっかけとなり、豊田合成の交代した井上選手のブロック、ラリーを制し、一気に豊田合成がセットを奪取しました。
第3セットはJTがセッターを井上選手から深津(旭)選手に代えると序盤からMBを使うようになり、これが効果を発揮しました。八子選手がアクシデントで交代しましたが、代わった吉岡選手がカバーをしました。展開としてはJTが中盤にラリーを静し連続ブレイクで奪ったリードをキープし続け、危なげなくセットを取りました。豊田合成は前の2セットに比べ、サーブミスが多い印象でしたが出来は悪くないように見えたのでこのセットはJTが上回ったといえるでしょう。
第4セットはお互いにサービスエースをとるなど拮抗した序盤となりました。また、ディフェンスが機能し始め長いラリーの展開が多くなりましたが、イゴール選手にボールを集めた豊田合成がラリーを制するようになりました。JTは第3セットから良く使うようになったMB陣がスパイクを決め追いすがりますが、イゴール選手の決め手が勝り、ジリジリを豊田合成が点差を離していきます。終盤、JTがMBをコミットブロックで止める場面はありましたが単発に留まり、ミスなどがあり点差がさらに広がりました。チャンピオンシップポイントとなり豊田合成に堅さが見られ、差を詰められましたが、最後はこの試合を象徴するイゴール選手のクロスのスパイクが決まり、豊田合成の勝利となりました。
JTはこの試合、終盤勝負どころでのスパイクミス、ジャッジミスなどの記録に残るミスのほかに、チャンスボールとなるはずのボールを相手コートに返してしまったり、トランジションアタック時のセットが低くなるなど記録に残らないミスもあり、試合の流れを相手に渡してしまった印象がありました。また数字的にはほぼイゴール選手が打つ状況の中でしたが、豊田合成が適度に混ぜてくるMBの攻撃もケアをしようとし対応が中途半端になった面があり、イゴール選手により多く決められるひとつの要因になったと思います。第2セット迄の状況を見てセッターをスパッと交代させるなど鮮やかなヴコヴィッチ監督の采配がありましたが、試合の状況を変えるまでには至りませんでした。
一方収穫もありました。準決勝で越川選手、決勝の第3セットで八子選手と2人の主力選手がアクシデントで出場できなくなり非常に苦しい状況でしたが、交代した安井選手、吉岡選手が力を発揮し、カバーをしたことです。JTは昨シーズンで主力だった小澤選手が引退をし、リザーバーの経験値が下がっている状況です。越川選手と八子選手をなかなか交代させられず、負担がかかっていますが、目処が立ってくると交代などのオプションが可能になってきます。今後に向けてのプラス材料ではないでしょうか。
※写真は主に準決勝のもの
豊田合成はこの試合に限ってはイゴール選手の活躍に尽きるのではないかと思います。特に豊田合成に入ってから円熟味が増し、ミスが少なくなった印象です。ストレート、クロスの打ち分けがうまく、またブロックアウトに関する技術が長けています。打数が多いので2枚ブロック、3枚ブロックに付かれるケースが当然多くなるのですが状況に応じて上記の技術を使い分け、なかなか崩れません。この安定感が攻撃の軸としての強みになっています。これを支えているのがセッターの内山選手です。アタッカーの持ち味を発揮できるフワッとしたセットを上げ続けています。これはイゴール選手だけではなく他のプレイヤーに対しても同様です。特にMBの近選手、傳田選手に対するセットが柔らかく、スパイクが高い位置からズドンと気持ちよく決まるので打数はそれほど多くないながらもMBの攻撃を印象付けることに成功しています。
また、クリスティアンソン監督の下鍛えた、バンチ・リードブロックを主体とするブロックとフロアディフェンスの関係性を高めたトータルディフェンスも光りました。決勝戦でも良く機能しており、決められた場合でもプレイヤーがボールに触る状況が多く簡単に攻撃を決めさせませんでした。これを支えているのは各選手のオフ・ザ・ボールでの状況判断と動きです。攻撃参加をしていない場合でもサボらずブロックフォローに入るなど自分の役割を理解し遂行しています。
このようにイゴール選手の安定した攻撃力を軸としたシステムが出来上がっているのが豊田合成の強みです。しかし出来上がり過ぎているのは、柔軟性に欠ける可能性も孕んでいます。特に今後控えているVリーグのファイナルのような一発勝負では、例えばイゴール選手の調子が上がらないなどの状況が出てくると思います。シーズン前の事前準備やリーグ中の戦いを通じて二の手三の手をどれだけ蓄えているかがポイントになってくるのではないでしょうか。
※以下の写真はいずれも準決勝でのもの
天皇杯が終わり、執筆時点ではVリーグの後半戦が始まっています。両チームとも天皇杯での反省点と収穫を生かしどのような戦いぶりを見せるのか注目をしています。
文・写真:黒羽白
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