2016-12-16 12:28 追加
海外女子バレーのすゝめ 第6回 海外バレーから学ぶ”THIS IS VOLLEYBALL”(世界クラブ選手権・マニラ)
海外バレーコラム
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2016年10月、フィリピンの首都マニラで行われた世界クラブ選手権は、トルコのエジザージュバシュが連覇を果たし閉幕した。そしてこの大会は、来年5月に日本に初上陸することが決まっている。既に各国リーグでは、この大会への出場を狙う強豪チームが火花を散らしている。
今大会の会場となったモール・オブ・アジア・アリーナ(Mall Of Asia Arena)は、フィリピン最大級の商業施設、SMモール・オブ・アジアの一角にある。歌手マドンナのコンサートも行われた、最大2万人を収容可能な大型アリーナだ。マニラ湾に面した巨大な建造物は、どこか周囲から孤立した要塞のようにも見える。この場所で本当に世界クラブ選手権が行われるのかと、会場に入りコートを見るまで確信が持てなかった。
今大会のマニラ開催が発表されたときに浮かんだ、「十分な集客・収益が見込めないのではないか」という懸念は的中した。チケットの価格が割高で、現地住民の生活水準と比較すると、決して楽に買えるようなものではなかったのだ。マニラ首都圏における月額最低賃金の12025ペソ(約26000円)に対し、1日(4試合)をアリーナ席で観戦した場合のチケットの価格は5200ペソ。日本円に換算すると1万円を超える。月額最低賃金との比較ではあるが、一ヶ月の賃金の3分の1以上というのはとても大きなハードルだったのではないかと思う。アジア初開催ということもあり、FIVBが価格設定を冒険しすぎたのだろうか。世界クラブ選手権という最高の舞台で空席が目立ったことは寂しく感じた。
それでも、フィリピンのバレーボール・ファンを見くびっていたと気づかされるまで時間はかからなかった。日本国内の試合会場のように満員にはならなくとも、観客は思うままにバレーボールを楽しんでいる。
国籍・国境の壁を取り払え!
会場へ足を運んだファンがこれだけの額を払ってでも試合を見ようとするのには理由があった。この世界クラブ選手権とは、各国クラブチームに所属するトップ選手が一堂に会する、いわばオールスター戦なのだ。ともするとオリンピックやワールドカップよりもハイレベルかもしれない。
例えば、日本で開催されるワールドカップを想像してみてほしい。
ヨーロッパのいくつかのチームを応援しているあなたは、会場へ行こうと思い大会のウェブサイトを開いて愕然とする。お気に入りのチームが全てヨーロッパ予選で敗退し、本戦に出場しないというのだ。次にそのチームが来日するのはいつになるのか、そのときあの選手も来るのだろうか…そう考えると、心が痛むことだろう。
世界クラブ選手権なら、お気に入りの選手を一人も見られない!と悲観的になる必要はない。様々な国籍の選手が入り混じっているクラブチームなら、興味のある選手を見られる可能性はぐっと高くなる。
海外バレーにおいては、もはや国籍や国境は何の意味も持たない。選手が世界中のクラブを次々と渡り歩く海外で、国籍など気にしている暇はないからだ。特にヨーロッパでは地形的要因もあって、非常に多くの選手が自国を出てプレーしている(外国籍選手の登録人数がある程度制限されることはあるが、その点においてもヨーロッパは非常に寛容)。ある国に行けばその国の人のように振る舞い、自然にチームへ馴染んでいく。
全ての選手が溶け込んだ世界クラブ選手権の空間からは、国境を明確に線引きしてしまういつもの国際大会とは異なる、独特の雰囲気を感じられるはずだ。
【今大会の出場チーム・最終順位】
優勝 エジザージュバシュ・ヴィトラ・イスタンブル(トルコ)
2位 ポミ・カザルマッジョーレ(イタリア)
3位 ワクフバンク・イスタンブル(トルコ)
4位 ヴォレロ・チューリヒ(スイス)
5位 レクソーナ・セスク・リオ(ブラジル)
6位 久光製薬スプリングス(日本)
7位 バンコク・グラス(タイ)
8位 フィリピン・スーパーリーガ・オールスターズ(フィリピン)
今大会、最も注目を集めたのが優勝したエジザージュバシュ・ヴィトラだった。トルコのイスタンブルを本拠地とするこのチームは、タイーザ(ブラジル)、コシェレワ(ロシア)、ラーソン、アダムズ(アメリカ)、ボシュコビッチ、オグニェノビッチ(セルビア)といった、多国籍で豪華な面々を呼び寄せ、夢の共演を実現させた。
観客を魅了するもの
トルコのエジザージュバシュとイタリアのポミ・カザルマッジョーレが激突した決勝戦は、この大会の締めくくりに相応しい大激戦だった。どちらかが突き放しては追い付く。ただでは絶対に決めさせない。意地のぶつかり合いの中にも、緻密に練られた戦術が垣間見える。それは決して精神論だけで片付けられるバレーボールではない。観客動員数は今大会最高の6700人を記録し、それまで空席の目立ったアリーナも熱気で溢れていた。
また、最下位のフィリピン・スーパーリーガ・オールスターズは予選リーグから全敗という結果に終わったが、優勝のエジザージュバシュから1セットを奪ってみせた。エジザージュバシュが控えメンバー中心だったことを鑑みても、大健闘と言える結果だ。20点を超えたあたりから会場のボルテージは急上昇。観客は飛び上がったり周囲の人と抱き合ったりのどんちゃん騒ぎで、まるでディスコにでも来たかのような感覚になった。
第三者によるショーアップなど必要ない。リアルタイムで展開される真剣勝負、それを創り上げる選手こそ見る者を魅了する。思わずため息が出るようなプレーの応酬を目の当たりにし、観客は知らず知らずのうちにその世界へ入り込んでいった。ひとたび会場に巻き上がった興奮の渦は収まらず、観客は良いプレーに対して立ち上がって称賛を送る。エンターテインメントとしてのバレーボールのあるべき姿が、この南国の地にあった。
ファンに対する海外選手のプロ意識。そこから日本バレー界が学ぶべきこと
連日、試合が終わるとアリーナ出入り口付近に通路が設けられ、プレスへの対応を終えた選手たちはここを通って会場を後にした。選手とファンが触れ合う機会を作る意図だ。海外バレーでは、選手とファンの距離の近さが特長の一つでもある。両者の接触のしやすさがバレーボール振興のエッセンスとなっている。
10月とはいえ、ここはフィリピン。一歩会場を出ると、降り注ぐ日光と猛暑に見舞われる。しかし、会場外の猛暑の下でも丁寧にファンサービスを続ける海外の選手たち。一人ひとりのファンと向き合い、写真撮影やサインに応じていた。
一方、大部分の選手が現地のファンを置いて足早に帰ってしまった日本のチームについては少し残念な気持ちになった。日本国外で開催される大会は、国内の既存のファンに加えて海外のファンを獲得するチャンスでもある。世界に倣ったプロリーグ構想を明言している日本バレー界は、こうした部分の意識改革にも取り組む必要があるのではないかと思う。
海外の選手やスタッフの多くは、自然な形でファンを増やす方法を熟知している。彼らはファンサービスについて聞かれると、決まって「ファンはいつも応援してくれる。それに対してファンサービスで返すのは当たり前のこと」と答える。勝とうが負けようが、会場へ足を運んでくれた熱心なファンに対する気配りを決して忘れない。ファンサービスを「当たり前」と言ってしまうプロ意識には脱帽だ。
とりわけ、サッカーを中心とする他競技の人気が高いヨーロッパでは、バレーボール一筋に情熱を注ぐファンはそれほど多くない。だから、自分たちの競技により関心を持ってもらいたい、また会場へ来てほしいと思う気持ちがより一層強いのかもしれない。「当たり前」とまでは言わないまでも、選手とファンの触れ合いが競技の発展に重要な要素であることには違いない。ファンを大切にしたいという選手の気持ちを会場設営という形で具現化するための運営側の工夫も、同様に大切だ。
初の日本開催、夢の舞台をぜひ会場で
来る2017年5月8日〜14日、世界クラブ選手権がグリーンアリーナ神戸で開催される。同大会の日本開催は初。
日本からはNECレッドロケッツ、久光製薬スプリングスが出場する。日本勢は、数多のスターが籠もる世界の牙城を崩せるか。海外バレーのファンはもちろん、国内バレーのファンとしてもこれを見逃さない手はないだろう。少し気が早いが、ぜひグリーンアリーナ神戸に足を運び、最高のバレーボールを堪能していただきたいと強く思う。
写真:FIVB
第1回 バレー新興国トルコに見る、選手と観客の関係
http://vbm.link/11284/
第2回 ありがとう、監督!― ニエムチェク監督がポーランド・バレー界に遺したもの
http://vbm.link/11779/
第3回 リオ五輪直前!因縁渦巻くA組、混戦必至のB組
http://vbm.link/11910/
第4回 コートを去る、一時代を築いたヒロインたち
http://vbm.link/12032/
第5回 オレンジ・センセーション―復活のオランダ
http://vbm.link/12132/
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