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コラム

2016-04-11 09:31 追加

海外女子バレーのすゝめ 第1回 バレー新興国トルコに見る、選手と観客の関係

海外女子バレー事情

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東京開催のリオ五輪世界最終予選(WOQT)が1ヶ月後に迫っている。既に各大陸では予選が終了し、残す大陸予選はアジアのみ。そこで、今年1月に行われたヨーロッパ大陸予選の開催地トルコから、現地のバレーボールのリアルを伝える。

首都アンカラ。中心市街地のクズライ地区から地下鉄で10分ほどのバフチェリエブレル駅近くにあるバシュケント・ヴォレイボル・サロヌ(Baskent Voleybol Salonu)は、名前の通りバレーボール専用のアリーナである。

このアリーナが完成したのは2010年。バシュケントはトルコ語で「首都」という意味で、アンカラでは街の至る所で目にする。

トルコ・バレーボールリーグは言わずと知れた世界トップリーグの一つであり、トルコ国内ではバレー人気が非常に高い。出会ったトルコ人女性は「全くバレーは見ない」ということだったが、それでもネスリハン・デミルやギョズデ・クルダルという名前を出すと「知ってるわ。彼女たちは本当に有名」と話した。ファンでなくとも、皆が知っているスターのような存在なのだろう。世界的に有名なのは女子リーグだが、男子リーグも各国から力のある選手が集結し、近年は国をあげてバレーボール強化に取り組んできた。

maskot

某日本人選手にも見える?マスコットキャラクターたち

バフチェリエブレル駅を出ると、すぐにトルコ・バレーボール協会が見える。そこへ向かって7、8分ほど並木道を歩いていくと、バシュケントアリーナに到着。このアリーナはトルコ・バレーボール協会の所有する敷地内に建てられており、バレー・ホテルも併設されている。各種大会用としてだけでなく、合宿にも最適。トルコ・バレーボール協会には、トルコ・バレー界の歩んできた道のりが残されている。

日本には、合宿用として作られたオガールスペースこそあれ、国際大会を開催するキャパシティを備え持ったバレーボール専用体育館は存在しない。バシュケント・アリーナでは、全日本女子チームも何度か試合を行っている。

会場内には大きなスクリーンや電光掲示板が設置されており、選手名、誰が何得点を挙げたのか、タイムアウトが残り何秒なのかといった情報が全て表示される。知らない選手がいても即座に情報を得られるため、観客が選手を認識しやすくなる。バレーボールに力を注いでいるからこそできる細かい工夫なのだろう。

会場内の片側には代表選手の写真が

燃え上がるような赤い熱気に包まれる会場

トルコ戦の試合前、会場の外には夜店が出される。売られているのはトルコ料理のケバブ。その周囲でケバブを頬張る観客たちにカメラを持って近づくと、待ってましたとばかりに写り込んだ。しばらく会話をしたあと「日本は好き?」と尋ねると、満面の笑みで「もちろんさ!」

そんな穏やかな観客たちも、いざ自国の試合が始まった途端にガラリと豹変する。
トルコ国歌には絶対的権威があるようで、国歌斉唱時の会場の雰囲気は圧巻。会場入口で売られているトルコ国旗を大勢の観客が買い求め、会場を真紅に染める。

燃え上がるような赤い熱気に包まれる会場

小さな子どもも国旗を振って自国を応援

 

試合中は、若い女の子集団も進んでブーイングに参加。会場全体から発せられる轟音と圧力で、相手の集中力を削ぎ落とそうとする。クロアチア代表コーチは「会場の熱に圧倒される。すさまじい大声援で、タイムアウト中は会話もまともにできなかったよ」と笑う。

昨年夏に日本で開催されたワールド・カップで、ロシア代表キャプテンのコシアネンコが「日本の会場では、渦のような声援とも戦わなければならない」と話していたが、トルコの観客たちは日本よりもはるかに大きな渦を巻き起こしていた。この雰囲気の中で、誰が平常心を保ったままプレーできるだろうか。海外スポーツにおいてブーイングが文化の一つであるということを認識していても、想像を絶するようなその圧力に動揺を隠せなかった。

自国を応援する気持ちは、相手チームへのブーイングの他にも様々な形となって表される。時には自国の選手に対して、気の抜けたプレーをした選手には容赦ないブーイングを浴びせたり、ハリセンを叩きつけたりする観客も。
日本では考えられないかもしれないが、熱しやすく冷めやすい観客の多いトルコでは、そうすることで会場のボルテージが保たれているようにも見えた。ワンプレーごとに立ち上がったり飛び上がったりして、それぞれが思い思いの応援を繰り広げる。

悪いプレーをただ受け流し、勝敗にかかわらず試合が終われば「よくやった」と讃える。それでも良いのかもしれない。が、トルコでは、選手のみならず観客席にも同様に張り詰めた空気が流れている。トルコの観客は、決して生ぬるい空気を作り出さないのだ。ただ、それは決して選手への敬意を失っているという意味ではないことに留意しておきたい。

今大会の開催期間中、会場は厳戒態勢。入場後すぐに、重装備をした警備員による手荷物検査が行われた。この大会のアンカラ開催を巡っては、直前まで様々な議論がなされいた。現在のトルコ情勢が芳しくなく、テロや他国との軍事的問題が発生していたからである。

それでも「安全安心な大会運営」を保証し、セキュリティの確保に尽力したトルコ。選手が宿泊するホテルのフロアにも多くの警備員を配置し、盤石の態勢を敷いていたという。バレーボールという競技にかけるこの国の熱意が伝わってきた。

トルコは3位決定戦でイタリアに敗れリオ五輪出場の夢は絶たれたが、観客は選手への敬意を忘れない。国内情勢がぐらついている中で死力を尽くして戦い、国民に希望を与えたトルコ代表に対して、観客は惜しみない拍手を送り続けていた。

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