2017-02-16 08:00 追加
新監督に聞く 多治見麻子監督(トヨタ車体クインシーズ)
トヨタ車体 多治見麻子監督インタビュー
SV女子
今シーズンからトヨタ車体で采配を振るっている多治見麻子監督。V・プレミアリーグでは中田久美さん、吉原知子さんに次ぐ3人目の女性監督だ。全日本選手としては3度の五輪出場を果たし、Vリーガーとしては39歳まで現役を続けた多治見監督。その豊富な経験をチーム作りにどう還元していくのか語ってもらった。
何もかもが初めての「監督1年生」
――弊誌では2年前、早稲田大学大学院修了を間近に控えた時期に多治見さんにお話を伺ったことがありました。当時は、大学の講師の道に進まれる予定でしたよね?
多治見:そうです。実際、2015年度から3つの大学で体育の授業を担当していました。トヨタ車体の監督に内定後もまだ授業が残っていたため、しばらくは愛知と東京を行ったり来たりの生活をしていました。
――監督のオファーが来た時はどう思われましたか?
多治見:指導者としての経験をこれから積んでいくつもりでしたので、いきなりV、それもプレミアの監督は難しいのではないかと…。私はまだ選手の感覚に近く、気持ちがわかりすぎてしまうというか。私の中での「監督」いうのは、新卒で入った日立の山田重雄先生や、パイオニアでお世話になったアリー・セリンジャーさんのイメージ。「無理でしょ!」と思いました。
――同じ女性監督の道を歩んでいる中田さんや吉原さんには事前に話しましたか?
多治見:はい。「大変だよ」「覚悟を持ってやらないと」と言われました。女性監督ということで久美(中田)さんや、トモ(吉原)さんと同じようなイメージで見られているかもしれないんですけど、私は口下手でお二人とはタイプも違うし、女性監督以前に監督というもの自体が初めての経験なので、試行錯誤しながら、選手と一緒に私自身も監督として成長できるようにやっていくしかないと思っています。引退後は、大学の授業もそうですが、ママさんや子どもたちにバレー教室で教えたりして、どちらかというと「楽しんでするバレー」に携わっていたので、「ああ、また勝負の世界に戻ってきたんだな」と実感しています。
――そのような状況の中で、印東(玄弥)、内田(役子)両コーチが同時にスタッフに就任したことは大きかったのでは?
多治見:選手たちには私の経験値だけではどうしても伝えられない部分があります。だから、二人には私にできないことを手伝ってほしいとお願いしました。印東さんは監督経験がありますし、身体づくりなどの面でも知識が豊富で、海外事情にも詳しいので、頼りになります。また、正セッターが交代したばかりのチームなので、ユキ(内田)さんには、セッターの育成をお願いしています。
――3人ともパイオニアで一緒だったので、セリンジャーさんから影響を受けた集団というイメージも強いと思いますが、セリンジャーさんから学んだことを生かしたチーム作りになるのでしょうか?
多治見:もちろん、そこもありますけど、それぞれ、他の経験もして、それぞれ違う場所から再度集合していますから、また違う色も出せるのではないでしょうか。
選手にもバレーボールを長く続けてほしい
――合流直後のチームはどんな印象でしたか?
多治見:このチームは、まだ現役を続けられそうな選手が若いうちに引退してるケースが多いんです。早くに引退して社業に専念する道を選ぶ選手も見かけますが、長く続けた私からしたら、「本当にそれでいいの?」と感じました。せっかくプレミアのチームに入れる実力があったのに、バレーボールという競技の本当の面白さを実感しないまま辞めてしまってるんじゃないかと。
――そういう意味ではベテランの荒木(絵里香)選手が加入したことは大きかったのでは?
多治見:本当に、気持ちの面やプレーの両方からチームを引っ張ってくれています。練習の取り組み方や周囲への気遣いなども、若い選手には見て学んでほしいですね。ゲーム中は「ここで点数を取りに行くんだ」という勝負どころをよくわかっているし、やはりミドルのトップ選手としての経験値がすごいと思います。勝ち方を知ってる選手が入ってきてくれたな、と。
――荒木選手は竹田(沙希)選手、平松(美有紀)選手がしっかりチームを支えてくれていると言っていましたが、二人の印象はどうですか?
多治見:純粋に、自分を犠牲にしてもチームのためにと考えられる選手たちです。二人が頑張ってくれていたから、昨年は入れ替え戦を回避できていたのではないかと思います。他の選手たちも、人数が少ないので、とにかく「誰もが即戦力」という気持ちでやってくれています。1戦1戦、戦いながら選手たちも成長しているのではないでしょうか。
――夏場はトレーニングにも力を入れたのでしょうか?
多治見:食事の見直しや走り込みなど、印東コーチを中心に改善をはかっていきました。長く選手を続けるためには、身体づくりが必須です。どんなに技術があっても、身体ができてなければベストなパフォーマンスはできませんから。引退する時は「やりきった」と納得してできるような選手になってほしい。そのためには身体が動くようにならなければ。
「車体のバレーっていいな」と思ってもらえるように
――会社の印象はどうでしたか? 荒木選手は環境が整っているとおっしゃっていましたが…。
多治見:選手たちはそれぞれ会社の中でも所属部署があり、上司や同僚の方から激励を受けています。会社の方々がホームゲームに応援に来てくださったりして、選手たちを応援してくれているので、とても感謝しています。
――これからはどんなチーム作りをしていきたいと考えていますか?
多治見:まだVでは優勝したことのないチームですが、やるからには優勝が目指せるチームを作らなければならないと思っています。そのためには選手がバレーをやりやすい環境を整えてあげなければ、と。先ほども話しましたように、すべてが初めてなので、監督としてはまだまだわからないことも多いけれど、プレイヤーとしてプレミアリーグを経験してきてリーグで戦うために必要なことはわかっているので…。今季は時間がなかったので、まだベースを作り上げている段階で、選手たちも戸惑うことが多かったと思うのですが、一人ひとり、変わろうとしてくれているのが伝わってきています。
――選手たちには、どんなふうに成長してほしいと考えていますか?
多治見:チームのためにというのはもちろんなのですが、私はそれだけではなく自分のためにバレーボールをしてほしいと考えています。自分が選手としてどうなりたいかという考えをしっかり持ってほしい。人から言われてするのではなく、自分がどうしたいか。やらされるバレーではなく、自らの考えで動けるようになってほしいと思っています。そういう選手になれれば、周りの人も自然に応援してくれるようになるのではないでしょうか。そういう選手たちの姿を見て、「車体のバレーっていいな」と思ってもらえたら、嬉しいですね。
――今季の目標は?
多治見:まずはファイナル6をしっかり戦うことです。昨シーズンよりも上の成績を目指して頑張りたいと思っています。
聞き手:高井みわ
写真提供:トヨタ車体クインシーズ
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