2014-09-15 13:11 追加
WGP2014の考察 ロンドン五輪からの2年間-世界選手権を前に
ワールドグランプリ2014をデータから考察
全日本代表 女子
はじめに
2014年のワールドグランプリは過去最高の2位という結果で終えることができました。これに加えて、今大会は好成績もさることながら、新戦術「Hybrid6(以下ハイブリッド6)」も話題となりました。
新戦術が導入されると、私たちはつい“新”の部分に注目してしまいます。しかし、バレーボールの目的は勝つことであって、新しいことをすることではありません。何番煎じの戦術であっても、勝つために有効な戦術であれば問題はないはずです。本当に重要なことは、何のためにその戦術は導入されたのかという“目的”であり、戦術を導入したことによる“効果”です。
今回はロンドン五輪以降のチームの変遷の中で新戦術が必要となった目的とその背景、そして今大会の内容と結果について、アタックの配分に注目してデータを見ていきたいと思います。
ロンドン五輪のデータに見る全日本チームの課題
銅メダルの獲得に沸いたロンドン五輪でしたが、よくよくデータを見ていくと、ロンドン以降の戦術変更の発端となった課題を見つけることができます。
以下の表1はロンドン五輪三位決定戦の日本対韓国戦の日本のアタック成績です。上から打数(Total Attempts)の多い順に並べています。
表中の%はアタックの全多数に対する各選手の打数の割合を示したものです。この割合のをロンドン五輪8試合分計算し、各順位の平均値を求めたものを以下の図1に示します。
比較用に同様の計算をしたブラジルのデータも添えています。日本の特徴としては、
- 上位2人の打数が多い(2人で全体の60%弱)
- 4から6位の選手の打数が少ない
ということがわかります。この上位2人は試合によって異なりますが、木村・迫田・江畑の3人のウイングスパイカー(WS)のいずれかが該当しています。
以上のデータは、ロンドン五輪での銅メダルの背景として特定の2人のWSのアタックに依存していたことを示すものです。
特定の選手にアタックが集中すると、相手のブロックからしてみればマークがしやすく、アタッカーの負担は大きくなります。そんな中で銅メダルを獲得できたことは見事というほかないですが、銅メダルからさらに上を目指すのであれば、これは改善すべき課題であると思います。
このような傾向は、おそらく全日本チームも確認していたのではないかと思います(ここで示したデータはFIVBに公開されている帳票を分析したもので、全日本チームはアナリストが収集したデータをもっと詳細に分析していると思います)。ロンドン五輪以降のチームは、この課題を改善していく方向で新しい戦術を導入していくことになります。
グラチャン2013:MB1の導入
一年後のグラチャンでは、ミドルブロッカー(MB)のポジションに本来WSの迫田選手を配置するという「MB1」という戦術を採用しました。MBに迫田選手を置き、攻撃に参加する人数を増やすことで、2人のWSへの依存を解消することが狙いであると考えられます。
このMB1を導入することで、日本のアタックの配分がどのように変化したのか、データを見ていきたいと思います。以下の図2-1にグラチャン2013の日本の5試合分のアタック配分のデータをブラジルと比較したものを示します。
日本のデータを見るとブラジルと同程度の配分になっていることを確認できます。次に、ロンドン五輪とグラチャン2013の日本のデータを比較したものを以下の図2-2に示します。
上位2人へのアタックの配分が減少し、4位の選手への配分が増加していることを確認できます。ロンドン五輪の課題はグラチャン2013の時点である程度改善されていることがわかります。
ワールドグランプリ2014:ハイブリッド6の導入
前置きが長くなってしまいましたが、以上のロンドン五輪以降の経過を踏まえて、今回のワールドグランプリのデータを見ていきたいと思います。
まずは予選ラウンド(Preliminary)のアタックの配分をロンドン五輪、グラチャン(2013)と比較したものを以下の図3-1に示します。
ロンドン五輪ほどではないのですが、1位の選手のアタックの配分が高くなっていることが確認できます。データ的にはグラチャン2013と比較すると1歩後退といった結果ですが、これは選手が新しい戦術に十分慣れていなかったことが影響していると考えられます。
続いて、ファイナルラウンド(Finals)のデータを以下の図3-2に示します。
予選ラウンドと比較すると、グラチャン2013の成績に近づいていることがわかります。ハイブリッド6を導入後、実践経験を積むことで戦術が機能したことを示しているといえます。
以上、ロンドン五輪での2人のWSへの依存という課題を解消するという目的は、グラチャン2013、ワールドグランプリ2014と新戦術を導入していくことである程度は解消されたといって良いと思います。
個人的には、アタックの配分については現状程度で問題ないのではないかと思います。アタッカーが5人いれば1人20%が理想なのかもしれませんが、グラチャン2013の時点でブラジルと同程度の配分となっていますし、グラチャン2013とワールドグランプリ2014のファイナルラウンドでは大きな差が無いことから、この辺りが上限ではないかと考えられるからです。無理をしてこれ以上均質な配分を目指すよりは、現状程度の配分でより質の高い攻撃を目指すべきではないかと思います。
ブラジルの壁
最後に、ファイナルラウンドの最終戦で土をつけられたブラジル戦のアタックの配分のデータを、ファイナルラウンド全体のデータと比較したものを以下の図4に示します。
ブラジル戦での7から9位の配分が多いのは、メンバーチェンジで起用した選手が多いことが原因です。ここで注目してもらいたいのは、アタックの配分が1位の選手(この試合は木村選手)の配分が特別多くないということです。
したがって、ブラジル戦では特定の選手に依存することなくアタックを配分できていたといえます。崩されて思うような攻撃ができなかったわけではなく、セットを配分するまでは攻撃は機能していたといえます。それでも勝てなかったというのがブラジルの強さであり、「なぜ勝てなかったのか」、「ブラジルに何をやられたのか」を分析し対策することが、今後のハイブリット6の進化につながるのではないかと思います。
まとめ
以上、アタックの配分という限定的なデータではありますが、ロンドン五輪以降のチームを語るうえでは重要なポイントを見てきました。
文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。
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