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インタビュー

2015-08-06 12:37 追加

GMにきく 久光製薬スプリングス萱嶋章さん

久光製薬の歴史や企業チームとしてのあり方など

SV女子

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 スポーツに理解と関心の深い企業、久光製薬

今回の「GMに聞く」は、久光製薬スプリングス部長・萱嶋章さん。チームの歴史や、独特の「世界戦略」、「企業チームならではの取り組み」など、目指すところをうかがった。

―まずは、久光製薬スプリングスの沿革からお聞かせください。

創立は1948年と女子の実業団バレーボールチームの中では最も古い歴史があります。もともとは鳥栖工場で福利厚生の一環としてスタートしましたが、そこから脱却して会社の資産として強いチームを作ろうという方向性となり、現在に至っています。Vリーグが発足した時に「スプリングス」という名前になりましたが、これは「春」とサロンパスの「貼る」、それに躍動感を掛け合わせたイメージで名付けられました。久光製薬はもともとスポーツに対して理解と関心が深い会社で、2011年に106歳の天寿を全うした中冨正義前会長は「サロンパスおじさん」としてスポーツの会場でサロンパスを配ったり、自らも91歳までホノルルマラソンに出場し、完走するほどの方でした。

この精神は現在も我が社に脈々と受け継がれています。そのような風土がありましたので、バレーボールチームを大きな資産であると捉え、世界をマーケットに社内外に貢献させようというのは自然の流れだったのです。実際にスプリングスは国体優勝5回、天皇皇后杯4回、Vリーグ優勝4回、アジアクラブ選手権2回など、プロに近いトップリーグとして実績を残してきました。

―萱嶋GMが部長に就任されたのはいつからですか? また、就任のいきさつを教えてください。

5年前に就任しました。当時は監督だった眞鍋政義が全日本の監督になり、それに伴い、久光のスタッフも全日本のスタッフに選ばれ、新しい人材が必要となる時期でした。そんな時、東京支店長だった私がバレーボール部の部長となり、さまざまな意味での改革をするように会長からお話をいただいたのです。私はもともと、ゴルフも好きですし、スポーツには深い関心がありました。また、これまでの経営的視点も活かせるのではないかとも思いましたね。そして、やるからには世界に通じる強いチームを作りたいと。

弊社では2001年からブラジルで開催されている「サロンパスカップ」という大会に協賛しています。それにより各国と交流したり、サロンパスという商品のブランドアップにもつながっています。こうした世界に目を向けたチーム作りを受け継いでいきたいと考えた時、監督として、中田久美に来てほしいと思ったのです。

 

中田久美監督が成功した背景

 

プレミア初の女性監督として活躍する中田久美さん

プレミア初の女性監督として活躍する中田久美さん

―萱嶋GMは中田久美さんのどのような点がスプリングスの監督としてふさわしいと評価されたのでしょうか?

世界に通じるバレーを教えられる人だという点です。選手時代はバルセロナ五輪で女性初の旗手を務めており、国旗、社旗を背負い、女性に夢を与えることのできる人だと思います。また、イタリアでコーチ修行を経験するなど、日本バレー界に貢献するための「覚悟」ができている人だと思います。また、同じ女性ですから、選手との距離感の近さも魅力のひとつです。ただ、経営的視点で見た時に中田はリーダーとしても資質があり、「女性だから」ではなく、「中田久美だから」成功したのだと私は捉えています。

―V・プレミアにおいては第1号の女性監督ですから、その成功はそれに続く吉原知子さんのJT監督就任にもつながったのではないでしょうか?

確かにそういう面はあると思います。男性だからとか女性だからとかではなく、優秀な指導者が育つ環境をつくることが大事ですね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA―世界に目を向けた指導者という意味では、加藤陽一コーチも同様の理由から選ばれたのでしょうか?

加藤もイタリアでプレイヤーとしての経験があり、つくばユナイテッドでは資金がない中で地域密着型のチームの運営にも携わり、地域貢献するなど、トップ選手としてやるべきことを知っているという点に着目していました。そこで、中田と相談し、コーチとしてチームに来てもらうことにしたのです。加藤には男子バレーにはない女子バレーのよいところも吸収してほしいと思っています。

また、久光製薬スプリングスでは毎年、監督の片腕としてスタッフを強化するためにコーチにサマーリーグの監督を任せていますので、今年は加藤が監督を経験しました。サマーリーグはプレミアとチャレンジが交流できることや運営など手作りの大会であることのよさがあります。

リーグ以外の大会はほかに皇后杯、アジアクラブ選手権などがありますが、それぞれの大会にただ参加するだけではなく、テーマを持って参加するようにしています。サマーリーグは控え選手が主体でチームを組みますが、こういう場合、逆に普段レギュラーの新鍋(理沙)や岩坂(名奈)が洗濯なども引き受けてチームをバックアップしたりしています。チームは一人の力だけでは絶対に勝てません。全員の力でチームを支えていく必要があるのです。

 

データに出ないところを大切にする中田バレー

世界クラブ選手権勝利後の笑顔

世界クラブ選手権勝利後の笑顔

―先ほどのお話の中で、男子バレーにはない女子バレーの良さというコメントがありましたが、それはどんなところだとお考えですか?

女子は本気になると練習以上の結果を出して、火事場の馬鹿力を発揮します。チーム力、チームワーク、自己犠牲の精神…こういった女子の特性を引き出せるのが中田ではないかと思っています。女子は男子に比べ、体力が弱く、筋力が落ちやすいというハンデがありますが、それを補い、奥底にあるものを引き出せる監督ですね。一人ひとりに考えさせ、自立させて個性を活かしたバレーをしています。トップから社員までが個性を大事に磨くというのは会社の経営においても大切なことです。ただバレーボールのスキルを教えるだけでは勝てるチームにはなりません。

中田は明るさ、礼儀正しさ、結束力などデータには表れない部分を大切にする監督です。そして、自分に足りないものは思い切ってコーチに任せています。コーチ、スタッフに対するリーダーとしての仕事は会社と同じです。彼女の現役時代はセッターで、戦略に長けるポジションですし、人と人とのあうんの呼吸でボールをつなげていくバレーの面白さを熟知していますね。私も彼女の人の育て方を見て、社員教育に生かしていきたいと思いました。

 

経営感覚を持ったチーム運営を

OLYMPUS DIGITAL CAMERA―普段、GMとして心がけていることを教えてください。

費用対効果など、経営感覚を持ったチーム運営を考えています。私は現在、Vリーグ機構の理事も務めているので、先陣を切って社内、社外、業界的にメディア戦略をしっかりとやっていきたいですね。バレー界全体のことを考えながらやっていきたい。スター選手の発掘も大切ですね。会場に会社の人が応援に来るのはもちろんですが、ファンクラブの人数を増やし、どこのチームも応援席がファンで埋まるようになるといいですね。

うちは練習拠点が神戸ですが、本拠地ではないので、ホームゲームに応援に来る社員は30人くらい。残りはすべてファンクラブの会員や一般のお客様です。これは神戸でバレーボール教室を行うなど、社外努力をしているためです。バレーに限らず、野球やサッカーなど、他の競技もそうですが、チームを持つ企業はその資産価値を株主に伝えていくことが大事ですね。この資産価値をどう活用するのかを考えていかなければならないと思います。

―企業スポーツとしての取り組みについて、現在行っていることを教えてください。

地域貢献として、先ほど申し上げたバレーボール教室や、夏祭りなどのイベント参加、郵便局とのタイアップでグッズをプレゼントしたり、企業としての本拠地である佐賀では図書館に選手が読んで感銘を受けた本を並べたりしています。全日本の大会、春高、インターハイ、ママさんバレーなど、バレーボールの各種大会にも協賛し、インターハイでは新鍋と岩坂がプレゼンターを行うなど、選手にも協力してもらっています。

―今後のビジョンをお聞かせください。

1回勝つことと勝ち続けることは違うので、引き続き、チーム強化についてスタッフや選手の人選等を考えていきたいと思います。チームと会社が一体となって取り組んでいくことが重要なのではないでしょうか。

聞き手:高井みわ
写真:FIVB

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