2016-05-12 12:02 追加
久光製薬優勝インタビュー 中田久美監督(前編)
SV女子
――監督は何度も優勝されていますが、今回の優勝は今までと比べていかがでしたか?
たぶん現役のときを含めて一番嬉しい優勝だと思います。なぜならこういう勝ち方をしたことがないから。こういうパターンのときは負けるんですよね、普通。勝つときっていうのはこういう勝ち方はしない。私の中で経験したことのない優勝。だから一番嬉しいです。
――昨シーズンのような感じが今までの勝ち方ですよね?
そう。だから、最高と最悪をこの2シーズンで経験したというか。昨シーズンはトップを走ってファイナル6でも1位で、でも負けちゃうんだとすごくショックでした。今回は他力、人の力がないとファイナル3に上がれないというところで、なぜかそういう環境が整って最後つかまなきゃいけないものをがっちりつかんで離さないっていう。そういう強さだった。こういうのは経験したことがなかったのでびっくりでした。
――チャンスの神様の前髪をちゃんとつかみましたね。
前髪つかむつかむ。(ファイナル3の前に)「チャンスの神様には後ろ髪はないから、通り過ぎる前に両手で前髪をつかみなさい」と選手たちに言って。みんながっちりつかんでくれました。よかったです。
――感覚的にですが、「個」がすごいチームが「チーム力」も上がってきたというか、後半になるにつれ、「一体感」とか「まとまって」という言葉が選手のみなさんからも出ていました。監督の実感ではいかがですか?
車体みたいな感じのまとまりとはちょっと違うけど、まとまろうとしているようなところは見えてきたかな。みんなエースなんですよ、うちは。そのエースがなんとなく人のためにお膳立てするということがどういうことなのかをわかり始めてきた。4番バッターばっかり集めても女子は勝てないし、1番ばっかりでも勝てないし、若い選手を集めればいいかというとそうでもない。バレーボールはすごくバランスが大事だと思う。
うちはどちらかというと4番バッターが多くて、そういう選手たちがいろんなことを経験することによって人に活かされ人を活かすことを覚えて、そういう部分が人としても選手としてもすごく成長したところなのかなと。自分が人に活かしてもらっているということを知る。人を活かすことに徹することができる選手ってなかなかいないですよね。特にセッターはそういう素質がないとダメだと思う。それは「気づくこと」だと思うし、「相手を認めること」だと思う。それが強さであり、強くないと人には優しくできないから。そういうところが4年前の久光とは一番違う。 かといってやはり自分の人生や自分の立ち位置、それを、しっかりと自立して確立させるというところはぶれてはいけないと思う。
そういう点では「個」がブレず強くなくてはならない。それでも「自分が自分が」ばっかりでは、このスポーツは難しい。どんなにいいものを持っていたとしても。そういうことをなんとなく理解してくれ始めてきた。「久光製薬スプリングス」という枠とか方向性の土台がこの4年間でできあがってきたのかなと思います。
――「人のためにも」という思いや、「人を活かしたい」「人に活かしてもらっている」という思いはこれまでもみんな持っていたと思うんですね。表に出ていないだけで。
うん、そうね。思ってはいるんだけど、その表現方法がわからないという。
――「だから言葉に出していかないと」と、監督はよく言われていました。
だって何を考えているかはわからないですよ、人なんて。つなぎのスポーツなので何でボールを繋ぐのかというと、その一つとして「言葉を発する」っていう方法があって、それはすごく大事なことだと思うんですね。いろんな伝え方があると思うけど、「言葉で伝えるってことをもっとやってはどうか、それで解決することはいっぱいあるんじゃないの」とはよく言っていますね。プレーで見せるんだっていうのもありですが、それじゃわからない、親子じゃないので。
――4番の多いチームですから。
そう、4番ばっかりだから(笑)セッターのアヤノだって4番バッターっぽいから(笑)なかなかそんな……チームは単純なものではないし日々変わっていくものなので、難しいです。
――監督になられて、まずは4年でチームを作るとおっしゃっていました。ここまで監督の想像通りに来ていますか?
思い通りにいっているところもあるし、いってないところもあるし、変更せざるをえなかったところもありますね。ぴったり自分の型にははまらないですよね。でも、大事なのは日々形が変わっていく中で、そんな状態にあっても、解決方法だったり指示だったり言葉で、私がブレないこと。私がブレたらチームがブレてしまうので。なので、そこはブレずに、でも変化するので臨機応変に。そういう意味では思い通りなのかな。間違った方向には進んでいない。選手にもいろんな感情があるから難しい。真っ赤とか真っ黒とかといった原色には絶対にならない。それに近い色にはなるけど。うまくいっているところは「勝ち続けている」ということかな。人がある程度変わっても、先発6人以外、野本らを使いながらも勝っている。ただ勝てばいいっていうことでもないので、育てながら。一人でも多く出してあげたいし、チャンスを与えてあげたいと思っています。
――1年目から「長岡、石井を育てる」と宣言して、使い続けて育てながら勝ってきました。そこはブレていないですね。
それぞれのチームの考え方だと思いますが、久光は1年目から石井、長岡をずっと使い続けて、もちろん毎年違うことを要求しながら。彼女たちもまだまだ成長段階、頑張ってほしいと思う。ただチーム作りはそれだけではダメで、野本を使ったり栄(絵里香)を入れたり。戦力としてどういうふうに使っていくことがその選手にとっていちばんいいことなのか、そういうことはすごく考えます。中大路みたいにぱっとチャンスがきてやっちゃうような選手もいる。すごいですよ、それは。でもそうできたのはアヤノの頑張りだと思うし、リベロの戸江(真奈)も今季途中から先発リベロになった。そういうふうに新しい選手が出て活躍してくれるのも嬉しい限りです。
――監督としてはどうですか? ご自身から見た中田監督のよいところは?
何がいいんだかさっぱりわからないですね(笑)女性同士というのもメリットもあればデメリットもありますし。「距離感」そこは一番神経を使っているところかな。あとは「差別区別」がごちゃ混ぜにならないように。差別は全然しないですが、差別って思われては困るし、でもレギュラーとレギュラーじゃない人の「区別」はしないといけないので。そこは気を遣います。行動などで誤解を招かないようにしないといけない。見逃してもいけないし、見て見ぬふりもしなければならない。そのあたりは難しい。追い込もうと思えばいくらでも追い込める。涙流していても嘘か本当かはすぐにわかる、ごまかされないので。それでも全体的な練習でダメなときなどには怒鳴ったこともありますが、私は個人的な感情だけでそういうことをしたことは一度もない。選手たちとは対等でありたいと思っているので。みんな一人の人格者、他人なので。
ただ、いい加減というか、サボるとか、チャレンジしない、自分で自分の限界を決めてしまっている、みたいなときには言いますけどね。それで自分の弱いところをつかれて選手が泣いちゃうことはあります。泣きたいのは私なんですけどね(笑)
――そういうふうに声をかけてもらえるのは嬉しいと思いますよ。そういうところは中田監督ならではの観察力だと思います。
(選手たちのことは)見逃さないので、絶対。でも何がいい指導法なのかというのはわからないですよね。勝てばいいのか、勝つ監督がいい監督なのかといったら、またそれは…
――結果だけ見ればそうですよね。でも、勝っていても全員が監督にそっぽ向いているみたいなのはちょっと……
いいとは思わないよね。
――理想とする監督像は? わりと周りに任せる方ですか?
理想とするのは「決断判断が早い監督」ですね。任せられるところは任せていますね、分担性にしています。そして自分が素朴に疑問に思うことには「?」を投げかける。本当にわからなかったり、なんでそういうふうに思うのか知りたいときは聞く。聞くとだいたい出てきますね。それでそうなんだと。そういうことを頭に入れながら試合に入るわけですが、試合ではそれ以外のことが起きたりします。そのときにはすかさず「これでほんとにいいの?」「こうなんじゃないの?」って言います。
――それでも最終判断は、やはり監督が。
それが仕事ですからね。決断し責任を取るのが監督。そこはきっちりやりながらあとは任せる。ただ選手の成長のスピードがとっても早いので、それにコーチ陣、スタッフ陣が追いついていかないと、その先を行かないといけないから。うちは世界を目標とし、いろんな経験を体感して欲しい。スタッフ陣もきついと思います。でも、そういう経験はすごく大きいし、マネジャーも含めてスタッフ全員にとってよいことです。スタッフも成長していかなければならないので、本当に日々たいへん。コーチングとは果たして何なのかの答えはなかなか出ないですし。
(続く)
写真:久光製薬スプリングス提供
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