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コラム

2017-12-30 10:00 追加

海外女子バレーのすゝめ 第8回 観客も主役。「火の国」が教えてくれた、スポーツの楽しみ方(欧州選手権・バクー)

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海外のバレーボール会場では、テロや犯罪対策などのため手荷物検査が行われることが多い。フレンドリーな警官たちに「どこから来たの?」などと質問を浴びせられながらゲートをくぐる。
約7000人を収容するアリーナへ入ると、選手はもちろん、観客もいるだけで楽しくなる明るいデザインが異国人を迎えてくれた。炎をイメージしたフレイムタワーやザハ・ハディド氏によって設計されたヘイダル・アリエフ・センターなど、都市のランドマークが盛り込まれている。このデザインはアゼルバイジャン・バレーボール協会がCEVとともに考案したそうだ。
海外では試合を中継する際、都市のランドマークを映すことが多いように思う。大会がどこで開催され、その都市にどういったバックグラウンドがあるのかといったことを蔑ろにしない。

 

高揚感を引き出させる会場のデザイン

トルコと大の仲良しなアゼルバイジャンでは、同胞トルコを応援する観客が非常に多かった。同じ民族である両国は言語がよく似ており、声援を送るのも容易い。トルコ国旗とアゼルバイジャン国旗を一緒に持ち、仲の良さをアピールしつつ応援するファンも会場に多く見られた。

 

会場前で頬にトルコ国旗とアゼルバイジャン国旗をペイントしてもらう女性。快く写真撮影に応じてくれた

今大会、地元の大観衆の前で2005年大会以来のベスト4入りを果たしたアゼルバイジャン。会場にはイルハム・アリエフ大統領も連日のように駆けつけ、国を盛り上げる選手に声援を送った。
決勝進出をかけオランダと対戦した準決勝、セットカウント1-2でビハインドの状況。第4セットも9-16とオランダがリードし、会場がやや重苦しいムードになり始めたが、そこからが今大会一番の見どころとなった。わずかなことがきっかけで、会場と選手は一体感を取り戻す。国旗を掲げた女の子二人組は最前列で飛び跳ね、強面のおじさんも拳を突き出して喜びを露わにする。
唸りのような大歓声に乗って、オランダコートに突き刺さる強烈なサーブとスパイク。絶対にボールを落とさないアゼルバイジャン。その執念は観客も同じだった。選手と観客が共有する感情は、時にゲームの流れをガラリと変える。雰囲気に呑まれたオランダは次第にミスを連発。一時は7点もの差がついた第4セットを奪ったのはアゼルバイジャンだった。間違いなく、これは観客の後押しがあったからだろう。

決まりきった応援に乗る必要はない。それぞれ思い思いの応援をすればよいのだ。前列の人が立ち上がって邪魔と思ったら、自分も立ち上がってしまおう。そうして皆が立ち上がればスタンディング・オベーションの出来上がりだ。真の一体感はDJによる統制でもBGMでもなく、観客の自由な応援から生まれる。

昼食で立ち寄ったアゼルバイジャン料理店の一家もその夜の試合を観戦に来ていた。店内で娘さんが「アゼルバイジャン!」と連呼し注目を集めていたが、まさかバレーボールの応援練習だったとは。
海外のバレーボールを観戦していて驚くのは、小さな子どもも当たり前のように国旗を持ち、右に左に大きく掲げて声援を送ることだ。スポーツを観て楽しむという行為が根付いているため、物心ついたころにはその文化にすっかり馴染んでいるのだろう。彼らを見ていると、観客も決して脇役などではなく、選手と一緒に雰囲気を作り上げる主役なのだということに気付かされる。

「スポーツ」はラテン語の”deportare”に語源を持ち、「楽しみ」や「娯楽」を意味するそうだ。単に運動競技の総称だと思い続けてきた者としては、それを知った時に少なからず意外性を感じたのを覚えている。
アゼルバイジャン国歌に「三色の国旗とともに、幸せに生きよ」という一節がある。フルセットで惜敗したオランダ戦、完敗した3位決定戦のトルコ戦―彼らの国歌にあるように、観客たちはそれらの時間を楽しく過ごしたのだろうと思う。スポーツは自由に楽しむものなのだと、火の国が改めて教えてくれた。

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