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ゲームレポート

2012-08-19 02:41 追加

ロンドン五輪女子 3位決定戦 日本vs韓国

ロンドン五輪女子3位決定戦、日本vs韓国のゲームレポート。

全日本代表 女子

祝!全日本女子バレーボール ロンドン五輪 銅メダル獲得!

いやー、正直メダルなんて取れると思ってなかったロンドン五輪です。
神懸かり的な棚からボタ餅がたくさん降ってきたのは否めませんが、きっちりモノにしたのは、2010年世界選手権3位、2011年W杯4位という実績を考えればあり得る結果でした。

そんな中でも北京五輪から際立って強化された「ブロック」は大きな勝因でしょう。銅メダルマッチの韓国戦でもいかんなく発揮された「ブロック」を中心に見てみましょう。

両国のスターティングメンバーとフォーメーションは以下のとおり。

竹下 大友 迫田   リベロ 佐野
木村 荒木 新鍋
========
ヒジン ヤンヒョジン ヨンギョン
ハンソンイ チョンデヨン サネ  リベロ ヘラン

惨敗したロンドン五輪世界最終予選(以下、OQT)との違いは、日本はS1ローテでスタートしたことです。これはオポジットに山口から新鍋に変えたことが大きいですね。山口は所属の岡山シーガルスではミドルブロッカーですが、新鍋は所属の久光製薬スプリングスでサイドアタッカー。レシーブが崩れてもハイセットでレフトとライトの2ヶ所で勝負ができます。さらに、もともと守備型サイドアタッカーの新鍋がいる分、木村のレセプションの負担を軽減できます。ちなみに、快勝したワールドカップ2011では、新鍋がオポジットでスタメンでした。

一方、韓国はOQTで、第1セット途中出場で大活躍し、勝利の立役者となったキムヒジンが先発。それ以外はOQTと同じ顔ぶれです。

試合の映像はIOCの公式チャンネルからご覧になれます。http://www.youtube.com/user/olympic
そして、当日のスタッツはこちら。
http://www.fivb.org/vis_web/volley/WOG2012/pdf/P2-037.pdf
http://www.fivb.org/vis_web/volley/WOG2012/pdf/P3-037.pdf

このスタッツを見た一部の解説者からは、「韓国のブロック8、日本のブロック0で勝ったのはすごい。持ち前のレシーブで粘り勝ち」というコメントもありましたが、このスタッツ(特に下段のP3帳票のBlock)をよく見ると、日本は30/45のrebounds+killsに対して、韓国は29/53のrebounds+killsで、有効なブロックタッチの割合は日本の方が多いことがスタッツにも現れていますし、block faults(ブロック失敗による失点)は日本は韓国より9点少ない。つまり、キルブロックで8点失っている分以上に、 block faultsによる失点を防いでいることが分かります。

また、それ以上に「数字に出ない部分」で日本のブロックは韓国を圧倒していることが分かります。

この試合、序盤から日本は徹底したある「ブロック戦術」を取ります。

例えばある場面で、日本は木村のサーブ。ボールはハンソンイが体勢をやや横にしながらもほぼ完璧なレセプション。だがしかし、何故かちっとも助走しないハンソンイ。これでバックアタックはありません。ちなみに、木村のサーブは低い弾道でコートセンタに飛びました。この時のネット近辺の様子は

photo courtesy of FIVB

コートセンターに低い弾道で入ったサーブに動線を邪魔されたキムヒジンは出遅れます。新鍋は釣られたのか、はたまたレフトデディケートからのリリースが約束だったのか、ここは分かりませんが、荒木は微動だにせず。キムサネのセットはヤンヒョジンが31(Bクイック)おとりのヨンギョンの51(レフト平行)。これも荒木がヤンちょっと反応し掛けますが、すぐに立て直してヨンギョンに。迫田ときっちり2枚ブロック。結果はヨンギョンの足の長いアタックがわずかにエンドラインを割りますが、序盤からブロック面で日本に有利な展開です。
また、ほかの場面でで、ちょっと韓国が攻撃パターンを変えてきます。

キムヒジンがブロードをやめてヤンの11おとりの32(いわゆるBセミ)に入ります。ちっとも攻撃参加しないハンソンイが後衛いる以上、荒木のヨンギョンへのブロック参加を少しでも遅らせようという意図があったのでしょう。ヨンギョンは高くて早い51(レフト平行)を打ってくるので、荒木がヤンのAクイック(11)にフロントして構える(アタッカーの正面に入ってブロックを待つこと)ので、やや割れたレフト2枚のブロックになったところをヨンギョンが打ち抜きました。とはいえほぼ完璧な高くて早いヨンギョンの51に対してタッチできる位に荒木のブロック横移動は早く、しかもスイングブロックなので十分にプレッシャーがかかっていました。

この2つのように、ヨンギョンが前衛の場合、レフト側にブロックを集中させる「レフトデディケート」を徹底していました。ヨンギョンが後衛に回った場合は、バンチシフトを引いて、出現率の高いヨンギョンのバックセンターからのbick(ファースト・テンポのバックアタック)に備えます。

また、OQTでやられたキムヒジンのブロードに対して、Aパスが返った場合は、セットアップの前にウイングスパイカーである木村や、ブロックはレフトに入っていたオポジットの新鍋が早めにバンチシフトから離れる「リリース」で対応し、ミドルブロッカーである大友や荒木は、なるべくコミットブロックやヤマ勘による反応をせず、リードブロックで遅れてもしつこく対応していました。

それに対して韓国のブロックはというと例えばこんな場面。

photo courtesy of FIVB

韓国のヤンヒョジンは即座にリードブロックで荒木のクイック(11)に反応しますが、キムヒジンは完全に棒立ち。キムヨンギョンはレフトの端っこ、つまり木村のライト攻撃に備えていました。それも竹下のセットが上がる前に移動開始してます。

この時のネット近辺の様子を見るとこんな感じ

もちろん、日本のポイントゲッターである木村を抑えるという目的もあったでしょう。一方で、ちょうどヨンギョンの正面から猛然と助走し突っ込んでくる迫田。それとすぐに立ち上がって助走を開始してライトへ走る木村。ボールとセッターを見ている周辺視野からヨンギョンの目に入っているはずです。そうなると、やはり遠い荒木の11(スロット1からのAクイック)には対応できません。キムヒジンの「サボり」が目に付きます。

他にもこんな場面

photo courtesy of FIVB

この時の竹下の選択は、大友ショートブロード(A1)おとりの新鍋ライト(C1)。で韓国のブロックの反応はというと
大友A1に2枚。いや、チョンデヨンはコミットっぽいけど、ソンイは教科書のようなゲスブロック(ヤマ勘ブロック)。
当然、新鍋が余裕でコートに叩きつけるかと思った、のですがヨンギョンのスーパーディグ!で繋がれてしまいます。直後のラリーは

大友にせっかくゲスってくれてたのに中に切り込む新鍋。しかも木村とスロットかぶってセンターごちゃごちゃ。
いや、きっとスロット1~Aに攻撃をオーバーロードさせて、迫田で仕留めるんだよと思ったら、竹下のセットは

新鍋!

だけど韓国、また大友にゲスブロック。今度はチョンとソンイ共に!またしても新鍋ノーマーク!だがしかし、新鍋のスパイクはキムサネにディグされてしまいます。

さらに衝撃的なのが、この場面。

ヒジンのティップは定石通り、竹下へ。竹下も定石通りコートセンターへ。
佐野不在のため、荒木が決して上手とは言えないもののオーバーハンドでセット。
竹下がファーストタッチを高く上げてくれたおかげで新鍋、迫田、木村は助走スタンバイ完了。荒木がセットするその時、ネット付近の様子はというと

いやいや、韓国のブロックおかしすぎるって!
キムヒジンがもう荒木がセットしようかというとき、ヤンの後方をノソノソ歩いているのもおかしい。

何でこんなことになったか?
この前のラリーで、レフトにオーバーロード(複数のアタッカーが同じサイドから攻撃を仕掛けてくること。この時、最もレフト寄りから攻撃参加したのがキムヒジンでした)した後なら、移動距離を考えて、ヤンが新鍋の方に移動して、ヒジンにセンターブロックのマークを受け渡さないと間に合わないだろ。というか実際間に合ってないし。

結果は、荒木のセットの精度が低くて、木村のスパイクはネットに掛かって韓国の得点になったけど、どーみても韓国のブロックは個人の思いつきでやってる。組織ブロック? なにそれ美味しいの? な感じ。一方、日本のブロックは破綻せず、かつヨンギョンを中心としたセンターからレフト攻撃にデディケートする意識が明白。

それなのに、韓国の攻撃は、日本の組織ブロックに対して、オープニングエリア(特にライト側の攻撃、あるいはヨンギョンのファーサイドからの攻撃)を作ろうという意識がなさすぎる。

photo courtesy of FIVB

日本の攻撃は、シンプルながらも両サイドからの力強い攻撃、特に迫田は見ていて気持ちいい位に全力で助走に入っている事が多くの場面で見られました。そのことが、「個人の思いつき」でやっている韓国のブロックの注意を引きつけていました。

大友も帳票上のスパイク効果率がマイナスになるほど止められていましたが、常に韓国のブロッカー陣の視界に入り、サイドへ流れる動きによってブロックを呼び込んだ結果、他のアタッカーがより生きる状態を作り出していたことも忘れてはいけません。実際、第2セットで井上と交代したときには、井上にはあまりブロックが付いてきませんでした。

これらの上記で挙げた現象はほんの一例であり、この試合を通じて「個人でブロックをやっている韓国」と「チームとして意思を持ち、3人が連動して動くブロックが出来ていた日本」のブロック力の差がいたるところで散見されました。また「組織的ブロック」が出来ていない韓国が、組織化された日本のブロックを打ち破る「組織的な攻撃」を繰り出すことが出来なかった点も、また興味深いところだと思います。

文責:午坊 健司

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