2012-09-16 17:40 追加
ロンドン五輪・ブラジル女子総括 その2
ロンドンオリンピックブラジル女子総括第2回目。決勝の様子を解説。
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http://www.youtube.com/watch?v=CW0mQbgYlF4&feature=youtu.be&a
ブラジル対アメリカの女子決勝戦。
第1セット、ブラジルのサーブから開始で、ブラジルはS6・アメリカはS2でスタート(図1〜3参照)。
序盤早々1-2の場面(0:09:58頃〜)。タイーザの11にアキンラデウォが1枚のリード・ブロックでプレッシャーをかけ、結果ボールはサイド・ラインを割って1-3。その直後のレセプション・アタックも、ダニエル・リンスはやはりタイーザの11を選択したが、アメリカのベンチでは、タイーザのクイックが決まらなかった直後のレセプション・アタックでは彼女に再びセットされる確率が高いことが、恐らくはじき出されていたであろう … だからこそ、今度はアキンラデウォだけでなく、ライト側のフッカーもバンチで構えてタイーザの11に2枚リードで対応して決めさせず、そのラリーをアキンラデウォが決めて1-4。
タイーザのクイックを使い難い状況に追い込むことに成功したアメリカは、以降執拗にサーブでガライを狙う。彼女のスパイクの助走動作はそれにより開始が遅れ、ダニエル・リンスが両サイドにボールを振っても、アメリカのバンチ・リードのブロックがことごとく揃い、ガライだけでなくシェイラもジャケリネも全く決まらない。スタートのS6のラインナップで5連続ブレイクを献上して、一気に1-6。バーグのサーブ・ミスでようやくローテーションが回るも、アメリカのブロック網にプレッシャーを感じたブラジルのアタッカー陣は、その後もスパイク・ミスを連発。5-12(0:18:37頃〜)からダニエル・リンスが久々に頼ったタイーザのクイック(スロット3からテンポ1の助走動作で繰り出す「31」いわゆるBクイック)も、再びサイド・ラインを割って5-13。7-15となって(0:21:38頃〜)回ってきたS6のラインナップで、ガライ及びシェイラが決まらずに2連続ブレイクを喫し、こうなるとダニエル・リンスが頼れるところはタイーザしかないとわかっているアメリカは、トム・ローガンとアキンラデウォの2枚がリードで待ち構えて狙い通りにワン・タッチを取り、トランジションでフッカーが決めて7-18。ギマラエス監督がたまらず、ガライをパウラに代えるも事態は何も変わらず、1本をシャットされ1本をスパイク・ミスで終えて、再びガライがコートへ。
終わってみれば、11-25。特にS6のレセプションで9失点しており、サイドアウト率がたったの18.2%。タイーザも4本のスパイクを打って、決定0本・被シャット0本・ミス2本で、決定率0%・効果率はマイナス50%という数字をはじき出してしまった。
この状況で、第2セットのスターティング・ラインナップをギマラエス監督はどう仕掛けてくるか? … 私はてっきり、S6でのレセプション機会を最小限にするためにS5からスタートすることを想定したが、セッターのバーグのサーブから開始(つまりアメリカはS1スタート)となった第2セット(0:33:30頃〜)、ブラジルはS1からスタートしてきた。ジャケリネのレセプション・アタックでサイドアウトを無事に奪うと、フッカーのレフトからのスパイクをファビとジャケリネが立て続けにナイス・ディグでつないで、3-0と願ってもないスタート。しかし、ここでトム・ローガンがきっちり決め返して、ブラジルに流れを渡さない。直後の彼女自身のサーブで迎えたのが、ブラジルのS6でのレセプションだった。懸念したとおり、ここでアメリカが連続ブレイクして、あっという間に3-3の振り出しへ。
再びこの場面でアメリカの連続ブレイクが続くのかと思われたが、幸いにもトム・ローガンのサーブ・ミスで4-3。タイーザのジャンピング・フローターがラーソンのレセプションを乱して、7-3とリードを奪うと、ファースト・テクニカル・タイムアウトも8-5でブラジルが奪うが、アメリカは慌てた様子はない。タイムアウト明けにブラジルが走って5点差をつけるも、アメリカがじわじわと追い上げ、気づけば12-12の同点。
第1セットの中盤以降ここまで、ダニエル・リンスはタイーザのクイックを1本も使わず。アメリカとしては、第1セットの序盤にブラジルの「決め球」であるタイーザの11を2本続けて押さえ込んだことで、恐らくここまでは思い通りの展開であっただろう。それゆえ、たとえブラジルにリードを奪われたタイムアウトの場面を見ても、選手・スタッフの表情には決して慌てた様子は見受けられず、逆に追い上げられているブラジルは常に劣勢の雰囲気。
しかし、12-12の中盤の競り合いの場面(0:48:50頃〜)から、重苦しいムードを切り裂いたのがブラジルのサイド・アタッカー陣。まずはジャケリネが、アキンラデウォの高いブロックをものともせず、しかもコースで待ち構えていたアメリカのWS陣2人のディグをはじく見事なインナー・スパイクで、13-12。続くラリーは、ブラジルのダニエル・リンスのサーブで、アメリカは攻撃型WS(※1)のラーソンがコート中央でレセプションするS2のラインナップ。レセプション・アタックでセッターのバーグはアキンラデウォのブロードを選択するが、それが決まらず、続くトランジションでダニエル・リンスは、アキンラデウォがブラジルのライト側の攻撃へのブロック参加が遅れることを見越して、セオリーどおりにシェイラにセット。それが見事にはまってシェイラが決めて、14-12。さらにシェイラがお得意のコート隅へのプッシュを決めて、15-12。ジャケリネのやや苦し紛れのフェイントが幸運にも決まって、16-12。
セカンド・テクニカル・タイムアウトでも、アメリカは慌てた風ではなかったが、直後のラリーでバーグが選択したのは、フッカーの11(bick)。タイーザのファースト・テンポがブラジルの「決め球」なら、アメリカの「決め球」はフッカーのファースト・テンポだとブラジルもきちんとわかっていて、シェイラとタイーザが待ち構えて2枚ブロックが揃い、そのプレッシャーに負けてボールはサイド・ラインを割って17-12。これで、S2のレセプションで4連続ブレイクを奪われた形になり、それを嫌ってかマッカーチョン監督はコート中央でレセプションするラーソンをホッジへ代えるが、事態は変わらずジャケリネがまたまたインナーへ決めて、5連続ブレイクとなり、まるで第1セットのブラジルのS6状態。
フッカーが苦し紛れにプッシュを決めてようやくサイドアウトとなるが、続くラリーのレセプション・アタックで遂にダニエル・リンスはタイーザの11を選択し、それがアメリカのコートに突き刺さって19-13。トム・ローガンが決め返して、19-14。直後のラリーで、ブラジルはS6のレセプションを迎えたが、トム・ローガンがダイビング・ディグでボールを必死につなぎ、何とか食い下がろうとする姿をまるであざ笑うかのように、トランジションでタイーザの11を繰り出すブラジル。バンチで構えていたアメリカのブロック陣の上を悠々とボールが抜けて、この試合で初めて、S6のレセプション場面で失点せずにサイドアウト。これでブラジルは「平常の」ブラジルに、完全に戻ってしまった。第1セット全く決まらなかったガライがハイ・セットを打ち切って、22-15。今度はファビアナがブロードを決めて、23-15。誰が打っても決まる状態となったブラジル。25-17の完勝でセットを取り返し、セット・カウント1-1。
ギマラエス監督が、第2セットをS5からスタートしなかったのはなぜか? … これについて、自分がプレス席にもし入れたなら是非とも聞いてみたかった質問だが、この決勝戦をまず最初に見た後にブラジルの準々決勝・準決勝の戦いぶりを見ての、私なりの解釈はこうだ。もしS5で第2セットをスタートしたとすると、実はタイーザのサーブからセットが開始する形になり、彼女が前衛でプレーする機会が最小となってしまう … 第1セットあれだけ悲惨なスパイク決定率ならびに効果率をはじき出した彼女とは言え、彼女のあの11を抜きには今大会は戦えないという、ギマラエス監督の苦肉の選択ではなかったか? ということ。逆に言えば、彼女の11がそれだけ、絶対的な信頼を置く「決め球」だったのだろう。
一方のアメリカはどうか? … 第2セットの勝敗を決する連続失点を喫したS2でのレセプションをどう打開しようとするか? が問われた第3セット。レセプションからスタートのアメリカは、S1のラインナップでスタートしてきた。同じレセプションからスタートした第1セットからはラインナップを変えて(S2→S1)おり、S2のレセプション場面を可能な限り回避しようという意図だと受け取れた。
マッカーチョン監督は、あくまで私の印象だが、アメリカ男子ナショナル・チームの監督時代の戦いを見ていても、スターティング・ラインナップについては比較的オーソドックスな戦術を採る監督だった。北京オリンピックでの決勝戦もそうだった。準決勝の韓国戦では、自チームのサーブから始まるセットでもレセプションから始まるセットでも、一貫してS1スタートだった今大会のアメリカが、この決勝戦の第1セットをあえてS2でスタートしたのは、明らかに何かを意図した戦略だったと感じさせる。北京オリンピックでの決勝戦での戦い方を思い出せば、第1セットでブラジルの「決め球」であるタイーザのファースト・テンポのクイックを潰した上で、その後にギマラエス監督が仕掛けてくるであろう「先の手」まで、想定していないはずはない … そう考えるとギマラエス監督が、サイドアウト率が18.2%に沈んだS6のラインナップを、選手すら1人も代えずにそのまま挑んでくるとは、マッカーチョン監督も想定していなかったのではないかと思う。
結果として第2セットを奪い返され、第3セットからS2のレセプション場面を回避するスターティング・ラインナップを採り、さらにはそのS2でコート中央に構えてレセプションするラーソンをホッジに交代させるなど、後手後手の対応にならざるを得なくなったアメリカは第3セット以降、ブラジルのファイン・ディグ連発ならびに、トランジションでジャケリネ及びガライのWS陣が渾身でハイ・セットを打ち切る気迫に押されるかのように、たったの一度もリードすることなく、セット・カウント3-1。第1セットの大敗がまるで嘘のような、ブラジルの完勝だった。
今大会が始まる前、私はロシアとアメリカが決勝を争うという予想をしていた。予想が外れるとすれば、ロシアがトーナメントに入ってからヨーロッパ勢相手(トルコなど)に「不覚を取る」という形を想定していたが、実際には準々決勝でブラジルに敗れる形となった。一方アメリカについては、決勝戦までは勝ち上がって来ると確信していて、要はアメリカが「3大大会での初の優勝を成し遂げられるかどうか?」だけに焦点を絞っていた。
上述のとおり、この決勝戦を見た後に準々決勝のブラジル対ロシアを目にしたが、まさに死闘であり、この試合が決勝戦でも全く不思議はない素晴らしい試合内容だった。敗れたロシアが「不覚を取った」わけでは毛頭なく、この試合を勝ちきったブラジルだからこそ、この決勝戦の戦いぶりが納得いくものだった。(後日報道された、ロシアのオフチニコフ監督の自殺?! というのも、ブラジルとの死闘を見た直後だったからこそ、その事実があまりにも衝撃的だった。)
http://www.youtube.com/watch?v=60EAzrLNEP4&feature=youtu.be&a
予選ラウンドでも何度も予選落ちの危機に瀕しながらも、それでもフルセットの試合は必ず勝ちきって、そしてこの舞台に上がってきたブラジルに対して、直前のワールド・グランプリでも優勝を成し遂げ、ロンドンでもこの決勝戦まで危なげなく勝ち上がってきたアメリカ。特に、直前のワールド・グランプリを控えメンバーだけで最後まで戦い抜いたことが、オリンピックの決勝戦という大舞台で「控えメンバーの層の厚さ」を発揮できるという意味で吉と出るか? それとも、「主力メンバーの調整不足」に繋がるという意味で凶と出るか? … それがアメリカ悲願の金メダル獲得の運命を握っていたとすれば、決勝の相手が(勝ち上がってきたとすれば順当で危なげないと言える)ロシアでなく、ブラジルだったのが不運だったのかもしれない。さらに言えば、連日の連戦で「控えメンバーの層の厚さ」が問われるワールド・カップや世界選手権と違って、試合数も少ない上に男女交互で1日おきに試合が開かれた今回のオリンピックでは、メンバーのモチベーションの維持においても、日々崖っぷちで戦い抜いたブラジルの方に有利な面があったのかもしれない。
これで、ブラジルのギマラエス監督は、バルセロナ(男子)・北京(女子)に続いて、3回目のオリンピックの舞台での金メダル獲得となった。男子のレゼンデ監督が、2002年〜2011年頃まであれだけ無類の強さを世界中に見せつけたにも関わらず、オリンピックの舞台では金メダルはアテネの1回のみであり、改めて、オリンピックで勝つというのは実力だけでない何かが必要なのだと実感させられた、ロンドンの女子決勝戦だった。
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(※1)攻撃型WS:
トップ・レベルにおいて一般的なバック・オーダーのラインナップにおいては、ポジション1にセッターが位置するS1のラインナップで、ポジション2とポジション5に配される選手がWS対角を組み、後衛のMBが交代するリベロとWS2人の3人でレセプションを行うのが主流である。その3人のうち、レセプション・フォーメーション上でコート中央を守る機会が6つあるラインナップのうちで、リベロが3回、ポジション2のWSが2回、ポジション5のWSが1回となる。コート中央を守る機会が多いポジション2のWSを「守備型WS」と呼び、コート中央を守る機会が1回しかないポジション5のWSを「攻撃型WS」と呼ぶ。
文責:渡辺寿規
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