2013-04-01 21:18 追加
V・チャレンジリーグ男子2012/13シーズン総括
熱戦が続いた2012/13V・チャレンジリーグ男子総括。チャレンジマッチを目前に控え、あらためて戦いを振り返る。
V男子
一方、私個人が選ぶV・チャレンジリーグ男子 2012/13シーズンのベスト7は、以下のとおり。
(なお、参考までに昨シーズンはこちら)
岩井、中道、椿山、李、中川、淡田、石川
まず今シーズンをざっと振り返ると、ジェイテクト・つくば・富士通の「3強」が直接対決のみで星をわけあうという、ここ数年続いていた「3強三つ巴」の状況が崩れたのが、最も大きな変化だったと言える。つくばと富士通は「3強」以外のチームからの負けを喫し、特に富士通は順位でも警視庁に抜かれて文字通り「3強」の座から滑り落ちた。ジェイテクトも優勝したとは言え、最終的に勝率で並んだ2位のつくばとの直接対決では2戦とも試合内容で完敗。例年になく勝負弱さを露呈したシーズンとなった。
なぜ「3強三つ巴」の状況が崩れたのか? … チャレンジリーグは、プレミアリーグに比して戦術トレンドの変化が激しい(※1)という特徴がある。私がチャレンジリーグを見始めた2009/10シーズン頃は、どのチームもコミットブロック主体であったが、昨シーズンあたりからリードブロックが主体になりつつある。バックアタックについても、昨シーズンまではセカンドテンポのパイプ攻撃がほとんどだったが、今シーズンはファーストテンポのbickを打つ選手が増えた。そうした中にあって、バレースタイルが経年的に進化していないチームは、実力的には相手に勝っていても何シーズンか戦っていくうちに攻略されてしまう、という現実が露呈したシーズンであったと言えるだろう。その典型例がまさに今シーズンの富士通であった。
ジェイテクトも、チームとしてのピークは入れ替え戦が震災で中止となった2010/11シーズンであり、昨シーズン・今シーズンと2年続けてピーク時より劣化している。その理由は、プレミア昇格を意識しすぎるあまり「自分たちの良さを見失っているから」という言葉に集約できるだろう。ジェイテクトがここ数年チャレンジリーグで圧倒的な力を誇ってきたのは、「4人のアタッカーがファーストテンポの助走動作でシンクロする」世界標準の同時多発位置差(シンクロ)攻撃を、日本の男子バレー界で最も理想に近い形で実践できていたからに他ならない。ところが、プレミアの舞台で戦うにはサイドアタッカー陣の身長が弱点と考えたためか、昨シーズンはつくばから安井を(※2)、今シーズンはプレミアリーグの堺からエンダキを獲得。その結果、自分たちの長所であったはずの「4人のアタッカーがファーストテンポの助走動作でシンクロする」ことは忘れ去られ、劣勢に追い込まれるとWSはAパスを返すことに執着して、直後に自身がスパイク助走に参加するのをサボる結果に陥った。
同時多発位置差攻撃だからこそ相手チームのブロック陣をスプレッドにすることが可能で、それを前提に前衛MB陣が相手のブロッカー陣の間隙を縫うように「打点の低いマイナステンポのクイック」をターン打ちで決める、というのがジェイテクトの十八番である。WSがスパイクの助走動作をサボれば相手のブロッカー陣がスプレッドになる前提は崩れ、「打点の低いマイナステンポのクイック」は途端に決まらなくなるのだ。勝負所でクイックが使えない理由はそこにあるのに、Aパス至上主義に陥ってレセプション直後にWSがスパイク助走をサボるようになると、セッターはその助走しないWSに向けて「低くて速いセット」を苦し紛れに上げる形となってスパイクミスや被シャットが多くなり、結局はOPのエンダキに頼らざるを得なくなるという、まるでプレミアチームの劣化版のような戦いぶりで、つくばにあっさりと2連敗を喫した。チームとしての目標はリーグ優勝ではなく、あくまでプレミアリーグとの入れ替え戦であるチャレンジマッチを勝ち抜くことであろうが、OPの外国人選手に頼るバレースタイルを露呈してしまえば、プレミアチームと戦術面でも全く同じ土俵で戦う形になってしまうため、ジェイテクトとしては不利であろう。選手層自体はプレミアチームに引けを取らないほど充実しているだけに、中止となった入れ替え戦の直後の黒鷲旗でサントリーをフルセットのギリギリのところまで追い詰めて会場を沸かせた「あの時の自分たちのプレー」に立ち返って、エンダキをMBで起用するぐらいの思い切った戦術変更を期待したい。
同じくチャレンジマッチ出場権を獲得したつくばは、インターンシップの筑波大生がチームに合流してベストメンバーとなった年明け以降、ジェイテクトに完勝した2試合を含め破竹の16連勝(チームとしては17連勝)でシーズンを終えた。メンバーが昨シーズンと大きく入れ替わった中でも安定した戦いを続けることができた要因は、シーズン序盤のうちに珍しくスターティングラインナップを固定できたことにあるだろう。これは、守備型WSとして1シーズンを戦い抜くことができる選手に成長した、インターンシップ3年目の久原によるところが大きい。さらには、ケガでシーズン開幕に間に合わなかった新加入の丸山が、2レグ以降スタメンに定着できたことも非常に大きかった。彼は攻撃面では決して「打点の低いマイナステンポのクイック」を打たないため、1レグではセットが低くなりがちで(昨シーズンの私個人が選ぶMVPだった)椿山を全く活かせなかったセッターの前田にとっては、丸山がスタメンに定着したことでシーズン途中にセット軌道を修正する良いきっかけに繋がった。一方守備面でも、地味ながらにブロックの要の役割をしっかりと果たしていた。例年になく組織的なリードブロック戦術が採れるようになったことで、シーズン序盤はコート上で居場所を見失いかけていたリベロの吉野が、2レグ以降すっかり本来のプレーぶりに甦った。
しかし、昨シーズン果たせなかった悲願のプレミア昇格を達成できるだけの実力が備わっているかどうか? は断言しかねるところである。昨年の入れ替え戦では先勝して臨んだ2戦目に、スカウティングとベンチワークの面でプレミアとチャレンジの〝格の違い〟を見せつけられたわけだが、昨シーズンの反省点をチームとしてきちんと修正してこられたのかどうか? … チャレンジマッチの舞台で再び、チームスタッフの真価が問われることになるだろう。
3強の一角に食い込み、黒鷲旗の出場権を獲得した警視庁。元来、勝負勘を持った選手が多いチームではあるが、昨年まで正セッターを務めた岩知道がシーズン直前にチームへの帯同から外れたため、開幕前の下馬評は決して高くはなかった。しかし、ふたを開けてみればリーグを代表する屈指のWSである中田(学)をセッターに据えて、卒なく1シーズンを戦い抜いた。大学時代にツーセッターとしての経験があるとは言え、間違いなく今シーズンの立役者の一人と言って良いだろう。
但しチームとしての戦いぶりは、必ずしも感心できるものではなかった。前衛MBのクイックは「打点の低いマイナステンポ」ゆえに勝負所で使えず、WS陣の特に中道へ「低い速いセット」を上げて彼が打ち切れずにミスないしは被シャットを食らい、あとはOPの金丸に頼るしかなくなるという、ジェイテクトの負けパターンの生き写しであった。それゆえ1レグでは、下位チームの近畿クラブや兵庫との対戦でもフルセットに追い込まれるような状況であったが、その2試合を含めて1レグのフルセットの4試合をすべて勝ちきれたのは、紛れもなくOPの金丸の力によるものである。その意味でエンダキや出耒田ら、他にも活躍したOPは確かにいたが、彼をベスト7のOPとして選出した。
大同特殊鋼は、昨シーズンまでは実力的には「3強」に最も近いところに位置していた(大同特殊鋼を含めて「4強」と言っても過言ではなかった)が、今シーズンは1レグで早々に躓いた。このチームは実は何年来、WSの倉田の対角が固定できない弱点を抱えている。倉田と並んでこのチームの得点源であって、本来はライトからの攻撃力が高い辰巳(佳)をOPに配すべきか、それとも倉田の対角のWSに配すべきか … スターティングラインナップにおけるベストの答えを、今シーズンも最後まで見つけられないままに終了した印象である。倉田・辰巳(佳)以外にもMBの平野やセッターの淡田など、役者は揃っているチームではあるが、富士通同様バレースタイルが変わらないが故に苦しんだ今シーズンだったと言えるだろう。
東京ヴェルディはつくば同様、選手の入れ替わりが毎年激しいが故に、特定の個人に依存したバレースタイルになることが多いチームだが、今シーズンは攻撃型WSとしての根布屋の加入が大きかった。彼自身が得点を直接稼ぐシーンが印象として目立つが、ファーストテンポのbickや組織的なリードブロックシステムなど、現在の世界標準戦術を彼が(恐らく本能的に)理解してプレーしていることが周りの選手たちに良い刺激を与え、結果的に随所で組織的なプレーや戦術が見られるようになった。ここ数年善戦することすら少なかったジェイテクトを相手に、あわやと思わせた1レグの福井での試合では、各チームがついつい意識してしまいがちなエンダキへのマークを敢えて外して、ジェイテクトのレフト側へデディケートする戦略が功を奏し、それまで無双であったエンダキの調子が狂い始めるきっかけになった。
根布屋以外にも、椿山と最後までスパイク賞を争ったMBの間瀬が、 『レゼンデが目指したバレーボールの姿 第2回』で解説されているように北京五輪以降の世界標準である「相手ブロックの上を抜くようなコンセプトで打つクイック」で、今シーズン活躍を見せた。残念ながらそれ以外のプレー面で課題が多いため、最後まで悩んだ末にベスト7からは外したが、来シーズン以降も要注目の選手である。
上位6チームの実力差が拮抗してきたのに対し、7位以下の下位チーム(近畿クラブ・兵庫・きんでん・トヨタ自動車・トヨペット)は、星勘定で6位の大同特殊鋼(10勝)から4勝以上の差をつけられ、上位チームとの差を埋めることは今シーズンもできなかった。チャレンジ下位チーム勢は、木曜日に会場入りするプレミア勢や、試合前日入りは何とかできる環境にあることが多いチャレンジ上位チーム勢と比べると、当日会場入りすることも多いうえにリーグ最中の練習確保もままならず、試合開始する前からハンデを背負っていると言えるだろう。しかし、チーム個々に見ていけば、前衛MBの「打点の低いマイナステンポのクイック」やWSへの「低くて速いセット」に代表されるような、世界のトレンドに逆流するプレミアチームの劣化版と化している上位チームが多い中、例えば近畿クラブは今シーズン、世界標準である「アタッカーの最高打点で打たせるクイック」をみせるシーンが多くなったし、兵庫はチャレンジリーグで唯一、スロットを意識したbick(A1など)をみせるチームである。1レグでは両チームとも警視庁をフルセットに追い詰め、兵庫はリーグで初めて大同特殊鋼に勝つなど、結果も少しずつだが出始めている。
要は問題なのは、下位チームの選手・スタッフに上位チームに対するコンプレックスがどうにも強すぎて、上位チームとの対戦の際に「目の前にいる相手チームと戦わずして負けている」印象の試合が多い点である。目の前の相手と戦わないなら戦わないで、きんでんのように「まるで点数すら見ていないような、勝っていようが負けていようが、自分たちがこの舞台で楽しくバレーができればそれで良い」的な良い意味での開き直りを下位チーム勢がすることが、チャレンジリーグ男子を今後盛り上げていくためには必要なことだろう。あるいは、本気で勝ちを狙いに行くなら、今シーズン上位チーム勢の間で「3強三つ巴」状態が崩れた要因を、下位チーム勢もきちんと分析すべきである。選手個々で見れば、上位チームよりもむしろ上を行くような世界標準のプレーもあるのだから、それをスタッフがきちんと消化して「チームとしての」戦術に昇華させること、さらには、何もデータバレーといった金銭的に負担の大きいハード面の整備を行わなくても、リーグ中に相手チームを地道にスカウティングさえしていれば、上位チーム勢の足元をすくうことは決して難しいことではないはずである。
「3強三つ巴」が崩れた2012/13シーズンのチャレンジリーグ男子だったが、来シーズンは是非とも「上位チーム勢と下位チーム勢に真っ二つに分かれる様相」が崩れて、なお一層盛り上がるリーグになることを期待したい。
文責:渡辺寿規
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(※1)インターンシップの選手を含め、各チームとも選手の入れ替わりが激しいことが影響しており、決してチームスタッフ主導で戦術トレンドが変化しているわけではない
(※2)今シーズンはプレミアリーグのJTに移籍した
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