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コラム

2019-03-29 08:00 追加

憧れのイチロー引退に奮起?東レ・高橋健太郎がブロックで活躍

V1リーグ男子ファイナル6東レ

SV男子

バレーボール男子V1リーグのプレーオフラウンド、レギュラーラウンド上位6チームによる総当たり戦「ファイナル6(F6)」は3月23日、東京・大田区総合体育館で行われた。東レアローズが、豊田合成トレフェルサを相手に3-2(20-25、25-17、27-25、25-27、15-8)で制した。F6の「ファイナル3」をかけた重要な一戦で輝いたのは、身長201センチのミドルブロッカー高橋健太郎(24歳)。前日22日に現役引退したシアトル・マリナーズのイチロー(45歳)に憧れた元野球少年が、ブロックでチームを勝利に導く活躍を見せた。

山形出身の高橋は中学時代まで野球少年。そして、イチローのファンだったという。

「父親にオリックス時代のイチローさんの51番のユニフォームを買ってもらって着ていました(笑)」

そんなイチローの引退を惜しむ元野球少年が、リードブロック(トスを見てから跳ぶブロック)の化身となって豊田合成の攻撃に立ちふさがり、東レをファイナル3へと導く大きな1勝をたぐり寄せた。

互いに1セットを取り合った第3セット。常に豊田合成が主導権を握る展開で、終盤まで進んだ。18−20、東レのアウン・トゥが強烈なジャンプサーブを打ったが、豊田合成の高松卓矢がきっちり返し、前衛真ん中から近裕崇がAクイック(1ー1)を強打した。しかし、東レのリベロ・井手智が見事に腕に当て、さらにこぼれた球をつないだ。相手コートにチャンスボールを返しただけなので、東レのピンチが続く。

豊田合成のセッター、前田一誠としては、前衛レフトに白岩直也、センターに近、前衛ライトにイゴール・オムルチェン、そして後衛真ん中には高松もパイプ(後衛からテンポの速いバックアタック)と攻撃の選択肢は4枚。東レのブロッカー陣にとっては不利ではあった。そんな状況でも冷静に待ち構えていたのがミドルブロッカーとして対峙する高橋だった。

高橋のブロックは、1度目の近のアタックは自身の左を抜けていった。再び豊田合成の攻撃が始まると、前衛真ん中よりやや右寄りに立ってはいたが、相手のレフト白岩、センター近、そして後衛の高松の動きを冷静に見ていた。そして前田が近に再びAクイック(1ー1)にトスを上げると、高橋はトスに反応し、半身になりながらも左手を精一杯伸ばすと、近の強打をブロックシャット。片手で抑えたその見事なプレーに会場が湧いた。このプレーが契機となって、東レは逆転し第3セットを奪った。

その時のシーンを高橋は振り返る。

「粘り強く待っていた。近さんが打ってくるのを待っていた。その中で、最後の最後に近さんが(助走で)回ってきたと思って、モーションが内側にきたと思った。Bクイックを打たれるより回ってこられる方がまだ楽というか、コースが限定されると思った。自信があったブロック。止まったと思った」

ただ、第4セットは再び大接戦となり、最後は高松のジャンプサーブが決まって豊田合成が取った。この勢いのまま、豊田合成が行くと思われたが、再び立ちはだかったのが高橋だった。

高松卓矢をブロックする高橋健太郎

第5セット、7−5と場面でアウン・トゥと2人でイゴールをブロックシャット。さらに、高橋はリードブロックで対応する。左に右にと 揺さぶってくる豊田合成の攻撃に、高橋はサボらず動き、プレッシャーをかけ続けた。そして、高橋とともに跳ぶルジェ・アントニンやアウン・トゥも次々とブロックシャットを決め、勝利を得た。

試合後の会見で小林敦監督は「ブロックはほぼ最後まで止まらなかった。5セット目だけですよね。(豊田合成の)高松選手が素晴らしかった」とは話してはいたが、3セット終盤以降、高橋のブロックが東レの勝利の要因だったのは間違いない。

高橋は3セット目中盤からコミットブロック(特定のアタッカーに合わせて跳ぶブロック)から、リードブロックに切り替えたことを明かした。

「3セット目の中盤くらい、ブロックで止めたあたりからはコミットからリードに切り替えた。(豊田合成の)内山さんが、両サイドが多かったというのもありますし、(相手の)ミドルをブロックしたというのはでかかったとは思ったので、そこからはリードで対応できるなと思ってリードで対応しました。(東レ側のサーブで)相手のレセプションが崩れて、(レセプションが)入ったらクイックいかなければならないかなという考えはあったけど、でもパイプがないという状況と、ルジェがいる、アウン・トゥもいると考えると気が楽で、簡単にいけるというか、あとは(ブロックの際の)ステップ、手の出し方とかを意識した」

高橋はリードブロックが得意ではなかったはずだが、改善の兆しは見えていた。レギュラーラウンドの3レグ、2月9日に静岡・三島市民体育館であったサントリー戦がきっかけだった。その試合の第4セット終盤、高橋がリードブロックでサントリーの攻撃に対応すると、レフト、ライト、真ん中と続いた攻撃を全てブロックシャット。そして、最後は自らのスパイクで勝利に導いた。

「リードは鍛えたら武器になるので、コミットよりも、キルブロック(ブロックシャット)はできないかもしれないけど、(相手スパイクから)タッチとって、そのままブレイクに繋げられる。そうしなきゃいけないと富松(崇彰)さんの動きを見て思った。だからしっかり練習した。三島でのサントリーとの試合で、リードブロックの自信がついた。それまで僕は全然ブロック(ポイントが)でてなくて、しっかり練習しないといけないと痛感した。練習しながら、形がどうだと富松さんとか篠田(歩コーチ)さんには言われてて、それを聞き入れてやったら、うまくいった」

イチローは稀代のヒットメーカーだったが、同時に「エリア51」と米国で評される、守備範囲の広さを見せる名手でもあった。リードブロックを身につけたこの日の高橋も、イチロー並みに守備範囲、ブロック範囲の広さを身につけるかもしれない。

ただ、翌24日の試合では、リードブロックでいくのかと思いきや、ブロックの判断ミスが多く、相手にノーブロックで打たせてしまっていた。リードブロックを完全に身につけるのはまだ先のようだ。しかし、身につけることができた時は、日本屈指のブロッカーになるのは間違いない。

文:大塚淳史
写真:黒羽白、大塚淳史

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