2019-10-14 13:22 追加
ヨーロッパ選手権アベック優勝!セルビア男子チーム・監督就任1ヶ月での金メダル
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8月の大陸間五輪予選敗退直後に監督グルビッチが辞任し、昨シーズンまでスロヴェニアの監督を務めていたコバチが急遽就任したセルビア代表。ユーロッパ選手権前に1ヶ月で何を変えられるのか…と疑問の声も上がっていましたが、蓋を開けるとそこには見違えるチームの姿が見て取れました。セッターヨボビッチのトスアップのスピードの変化や、リベロペコビッチをはじめ選手全体のディグ力、トスの正確さ。何といってもブロック力は、この大会で急激な成長を見せました。特定の選手だけではなくスタメン、控え選手共に、出れば必ずブロックを決めるという鉄壁ぶり。ファイナルでは14本(4セット)、セミファイナルでは16本(5セット)、出場チーム内ではロシアに次いで高い数字を記録しました。
一方でセルビアのサーブレシーブの悪さが露になった大会でもあったとも言えます。レセプション返球率エクセレントは10%代に落ち込むこともまれではなく、連続エースを奪われることも多くありました。しかし乱れたとしても、ブロック力の良さでワンタッチを取り、定評ある攻撃力でセルビアバレーを展開。劣勢の中でも立て直し自分たちのバレーができたのは、これまでの各選手の経験によるものが大きく影響していたといえるでしょう。セルビア選手のほとんどが自国を離れ他国のリーグ上位チームで、ファイナル争いや欧州リーグのアウェー戦などプレッシャーのかかる大会を多く経験していることが、最終的に立て直せなかったスロヴェニアとの差に表れたのかもしれません。セルビアのスタメンのほとんどが昨季、各クラブチームで何かしらのタイトルを獲得。コバチェビッチとリシナツの在籍するトレントは「世界クラブ選手権」、「CEV CUP(チェブカップ)」。アタナシエビッチとポドラスチャニンの在籍するペルージャは「コッパイタリア」。ペトリッチの在籍していたベルゴロドは「CEVチャレンジカップ」と、それぞれ優勝を経験しています。モデナ時代石川選手と共に控えだったコバチェビッチは、その後ヴェローナからトレントへステップアップし、今大会MVPを獲得するまでに成長。高いレベルのリーグで戦うことに加え、よりハードなメンタルを必要とする舞台に慣れてきたことは、優勝の大きな要因でした。
このようにもともと実力ある選手たちが先月の五輪予選で敗退し、これまでもトップにたどり着けなかったのには、今回の監督交代で一つの理由が見えてきます。選手時代の輝かしい実績をもつグルビッチは、監督として選手との距離感にこだわり、独自のプロフェッショナルな意識を貫いてきました。プロとして選手を尊重するが故、必要以上に選手と関わることを避け言動に口を挟まず、独特の空気を感じていたという選手もいました。しかし、そこへ選手との距離の近いコバッチが就任したことでチームの雰囲気が一転。イラン、スロヴェニアと代表監督を経験してきた彼は、セルビアは初監督であってもセルビア選手の在籍するクラブチームでは指揮を執ってきた経験があり、特にキャプテンであるペトリッチとは、昨季はロシアのベルゴロド、一昨季はトルコのアンカラ、それ以前にはペルージャで苦楽を共にしてきました。ペトリッチについて強みも弱みもよく熟知しているコバッチは、これまでスタメンで使われ続けていたイボビッチをペトリッチに替え、部分的にレセプションでイボビッチを起用。特に準決勝第5セットでローテーションを回し、ペトリッチのサーブからヌガペットをマークして稼いだ連続得点、あの使い方は勝敗を決定づけた采配といっても過言ではありません。
本来の力をようやく発揮できたセルビアですが、優勝への道のりは決して楽なものではありませんでした。鬼門となったのはウクライナ戦。1/8ファイナルでベルギーを倒し勢いづいたウクライナはセルビアにとって、今大会最も苦戦を強いられた相手でした。たとえランキング上位国でなくても、実力ある選手の多いヨーロッパのチームは、どこも油断できない相手で、必ずと言っていいほど毎大会番狂わせが起こります。監督交代により成功を収めたセルビアのように、一つのきっかけで頭角を現すチームがある事実。前回大会のフランスを破ったチェコ然り、今大会のウクライナ然り、それだけヨーロッパバレーのレベルの高さを物語っているともいえます。ワールドカップはおろか、ネーションズリーグや世界選手権に出られない力あるチームが埋もれているヨーロッパ、これらの国々のバレー選手たちはレベルの高いリーグでのチャレンジを経て国へと還元し、常に変化しています。次の大きな大会は年明け1月のオリンピック欧州予選。恐らくリベンジに燃えるフランスをはじめ7ヶ国は、セルビアを倒しにいくでしょう。そこで誰が王者となるのかは全く予想不能。だからこそ勝ち上がる難しさと共に可能性を秘めており、そこが世界のバレーファンを惹きつけるひとつの要素だともいえます。
過去の成績や世界ランキングではレベルを図りきれない欧州バレー、ひいては世界のバレー。自身の目で見て触れて今のバレーの傾向を掴むと、日本にはない常識が見え新たなバレーの魅力が見えてくるでしょう。
文責:宮崎治美
写真:CEV、宮崎治美
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