2014-01-07 22:01 追加
欧州戦線異状ありートルコに注目
近年目を見張る選手・スタッフを集めている男女トルコリーグについて
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先進工業国のスポーツを取り巻く環境が総じておもわしくない中で、新興工業国のスポーツは大変意気盛んである。バレーボールの世界で今最も元気のよい国の一つが新興工業国の一角を占めるトルコだろう。トルコに関する情報は我が国にはあまり伝わってこないが、ヨーロッパの自動車産業による直接投資が盛んであり、中国などと同様、高い経済成長率を謳歌する地域の一つである。
一昔前の話になるが日本サッカー代表チームの監督を務めたジーコがフェネルバフチェというクラブの監督に就任したり、稲本選手がガラタサライというクラブに移籍したり、トルコのサッカーリーグが話題を集めた時期があった。トルコでもクラブスポーツは非常に盛んである。これらのクラブの他トルコにはベシクタシュという有力クラブがあるのだが、これらはいずれもサッカー以外のスポーツも併営する総合スポーツクラブであり、いずれのクラブも女子バレーボールクラブを擁している。なかなか知る機会はないのだが、意外にもトルコはクラブスポーツの歴史が長く、地域スポーツの文化が根付いている国でもあるのだ。
最大の人気スポーツはご多分にもれずトルコにおいてもサッカーだが、近年はバレーボールの人気が高まっている。とりわけイスタンブールを本拠地とする女子チームは競うようにして世界中から超一流の選手を獲得しているので、有力チーム同士の対戦はさながら世界オールスターゲームの観を呈している。
新興国のクラブにとって先進国から招聘する選手に支払う年俸はかなりの負担になると思われるが、ガラタサライはロビアンコをイタリアから、フェネルバフチェはキム・ヨンギョンを韓国から、ローガン・トムをアメリカから、ファビアナをブラジルから呼び寄せるなど、かなり思い切った選手編成を行ってきたし、近年ではワクフバンクがセルビアのブラコシェビッチ、ドイツのフュルスト、イタリアのコスタグランデなど、惜しみなく資金を注ぎ込んで世界クラスの外国人選手の囲い込みを行っている。トルコリーグに集まるのは選手ばかりではない。女子のリーグでは2012/13シーズンの上位4チームの監督は優勝チームワクフバンクのジョバンニ・グイデッティ監督を始めとして、全てイタリア人監督であった。世界に活躍の舞台を求める一流の指導者たちにとっても、トルコリーグは有力な受け皿となっているのである。
トルコ女子チームは2010年の世界選手権において6位に食い込むなど強化活動の成果が上がりつつあるように見受けられたが、ロンドンオリンピックには欧州予選でロシアを下して初出場を果たし、外国選手頼みで国内リーグを盛り上げる時代は過去のものとなりつつある。国内リーグは内外の一流選手によって一段と活性化され、選手の技術レベルはさらに向上し、バレーイベントの人気は今後さらに高まってゆくことであろう。木村沙織選手のトルコリーグへの移籍により、我国でも欧州チャンピオンズリーグをテレビで観戦できる機会がもたらされることとなった。世界の女子バレーを牽引しているのは今やトルコであるといっても過言ではないだろう。
トルコ女子ナショナルチームが世界大会で表彰台に上るのもそれほど遠い先のことではないかもしれない。それが現実のものとなれば、スポンサーはさらに増加し、少年少女の関心を引き付け、競技人口はさらに増えることであろう。
トルコバレーの躍進は女子ばかりではない。女子の躍進の陰に隠れてはいるが、トルコの男子リーグもCEV(欧州バレーボール連盟)のランキングでイタリア、ポーランド、ロシア、ベルギーに次いで第5位の地位を占め、欧州チャンピオンズリーグとチャンピオンズカップへの出場枠をそれぞれ2つずつ確保している。
トルコ男子リーグは女子と異なり、国内選手を中心にチーム編成が行われてきたが、欧州債務危機で西欧のビッグクラブが経営難に苦しむ中、移籍先を求める選手や指導者の受け皿となり、女子と同様の好循環に向かう兆候がある。欧州にまた一つバレー強国が生まれつつあるのだ。
本稿の執筆時点で、トルコリーグ(TVF)男子はハルクバンクというクラブが勝ち点31で、同30のフェネルバフチェと首位争いを繰り広げている。クラブのスポンサーであるハルクバンクは首都アンカラに本店を置き、総資産の規模はワクフバンクに次いで国内第7位を占める国立銀行である。
クラブは1990年代の初頭から中盤にかけて5年連続でリーグ優勝を飾るなど黄金時代を謳歌したが、その後はフェネルバフチェやアルカス・イズミールなどの後塵を拝し、無冠に終わるシーズンが長く続くことになった。
しかしクラブは近年有力選手の獲得に成功し、スクデットにこそ届きはしないものの、2012年第3位、2013年第2位とプレーオフで上位に進出するようになり、黄金時代の再来を伺わせる動きが見られるようになった。
ここでクラブはスクデット獲得を確実なものとするべく、ドラスティックなチーム改造に乗り出した。欧州債務危機でスポンサーの経営内容が悪化し、チーム財政の危機を迎えていたイタリアのビッグクラブ、ディアテック・トレンティーノから監督とコーチ、主要選手の大量引き抜きを行ったのである。
ディアテック・トレンティーノはイタリア北部、オーストリアと国境を接するトレンティーノ・アルト・アディジェ州の州都トレントを本拠地とするクラブであるが、過去5年の成績はイタリアカップ優勝3回、イタリア選手権スクデット2回、世界クラブ選手権優勝4回、欧州チャンピオンズリーグ優勝3回という圧倒的な強さを誇ったドリームチームであった。
この黄金時代を現出させた監督はブルガリア人のラドスティン・ストイチエフ。ブルガリア代表チームの監督を挟み、2007年から2013年までこのクラブの監督を務め、クラブを常勝軍団に育て上げた名将である。彼に続き4名の選手がトレンティーノを去り、ハルクバンクのロスターに名を連ねることとなった。
移籍した選手は2012/13年、トレンティーノのポイントゲッターであったカジースキー(ブルガリア)とファントレナ(キューバ)、ミドルブロッカー部門4位にランクインしたジューリッチ(ボスニア)、正セッターのデ・オリベイラ(ブラジル)など、そうそうたる顔ぶれである。
名将と有力選手の大量放出を余儀なくされたトレンティーノは本稿執筆時点でイタリアセリエA第1部レギュラーシーズン第3位につけているが、首位のマチェラータには勝ち点7差と苦戦を強いられており、戦力ダウンによる影響が否めない結果となっている。
ハルクバンクの躍進がスポンサー同士のライバル意識に火をつけることとなれば、トルコ男子も女子と同様に戦力の補強合戦が始まり、トルコ男子が人気・実力ともに飛躍を遂げる端緒となることだろう。
ハルクバンクが投じた一石はどのような波紋を広げるのだろうか。欧州戦線異状あり。トルコリーグ男子の動きに要注意である。
写真:CEV
文責:佐藤直司
Vリーグ機構理事。著書にイタリアのバレー事情を詳細に紹介した『コートの中のイタリア』がある。
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