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コラム

2014-01-31 22:13 追加

トータルディフェンスを見て楽しもう 第3回 スライドフォーメーションで楽しもう

トータルディフェンスについてのコラム第3回

Others / V女子

 こんにちは。萬和臣(よろずかずおみ)です。

前回はサーブで攻めてブロックとディグで相手サイドアタッカーを追い込んでいくことが現代バレーボールで流れを制するために必要だということを書きました。Vリーグも開幕しましたし、トータルディフェンスというものを頭の片隅に置いて試合を観戦してみるのはいかがでしょうか。

観戦でトータルディフェンスが構造的に見えやすいのは戦術再現能力の高い男子バレーなのですが、女子バレーファンにも楽しみながらトータルディフェンスがわかりやすいチームが今季プレミアリーグに復活しました。

 

日立リヴァーレ チャレンジ降格の頃

女子プレミアリーグが一足早く開幕し、日立リヴァーレは昇格早々2連勝と好調な出足を見せています。このチームはトータルディフェンスが整ったが故に昇格に成功し現在があるという見方ができます。

 

リヴァーレがチャレンジに降格する前、ブロック時の動きの速い飯田香里選手がコートに入っている時には、相手サイド攻撃に対してしつこく2枚ブロックを整え、ブロックに跳ばない前衛プレイヤーがブロックのすぐ近くに詰め寄ってワンタッチボールやフェイントに対処していました。

こうしたブロックに跳ばない前衛サイドのプレイヤーがブロックに詰め寄るフォーメーションを「スライドフォーメーション」といいます。ワンタッチを大きく弾き飛ばすことのできない非力な女子バレーの世界では有効です。

相手のセッターが速いトスでブロックを振ろうとしても、低くなったトスやアタッカーの体勢不十分なスパイクなら、遅れてもしつこく跳び付いてくるミドルブロッカーはクロスコースのボールにワンタッチをかけることもできます。

 

日本の女子バレーにリードブロックの意識…いやリードブロックという言葉も広まる前の時代でしたが、それでも降格前のリヴァーレにはスライドフォーメーションを使ったトータルディフェンスが見られました。

 

どのようなフォーメーションでも同じですが、当然このスライドフォーメーションにもデメリットがあります。ディグからの反撃、トラジション攻撃の時にブロックに詰め寄った前衛サイドのアタッカーは、ボールが繋がった直後にスパイク助走の準備のため、全力でコートの外まで走って戻らなくてはなりません。スパイクが決まらずラリーが続けば何度も何度もコート内外を駆け回ります。

それでも楽をしようとして助走距離を減らそうとは絶対にしないリヴァーレのサイドアタッカーたちを見て、ゲラゲラ笑いながら喜んでいました。人があまり気付かないところでゼイゼイ言いながら全力で戦っているプレイヤーは大好物です。結果として得点に絡めなければ絡めないほど愛おしくなります。

 

しかし身長の高いセンターを入れておけば、日本国内仕様の低いブロックには出会い頭のキルブロックも度々出ることから、監督が代わった頃から大型センターを優先して起用するようになっていきました。

チャレンジリーグ降格後、相手のレフト攻撃に対し、レフトの石田小枝選手が3枚ブロックを仕掛けようとして、動かないミドルブロッカーを押しながらライトサイドに詰め寄るシーンを見てゲラゲラ笑ったこともありますが、ディガーにとっては笑い事ではなかったかもしれません。ワンタッチを取ったりディグのコースを限定するためにサイドブロックを2枚揃えるというプレイも直接得点には絡みませんが重要なプレイです。

 

降格当時はチームの強化ポイントも迷走し、とりあえず強打力のある外国人に頼ってみたり、ベテランセッターを集めてみたりしていました。元々プレミア当時からディグ力には定評があるチームだったので、組織ディフェンスを再構築することには考えが及ばなかったのかもしれません。

チャレンジリーグでは上尾メディックスと2強の座をキープし続けましたが、入替戦では勝ちあがることができませんでした。

 

 

チャレンジマッチとVリーグ開幕戦

Vリーグ女子でリードブロックが意識的に使われるようになってきたのはここ数年のことです。

今年春の入替戦では外国人ミドルブロッカーのドリス選手のリードブロックが素晴らしく、センターに睨みを効かせながらデンソーのサイドアタッカーに対しきちんと2枚ブロックを整えていました。キルブロックはそれほど印象に残っていませんが、クロスに打つとほぼワンタッチをとり、確実にトランジション攻撃に繋げていたのがとても印象的でした。

対戦相手はサイド攻撃がなかなか決まらないため痺れを切らしてセンターの速攻を使います。しかしドリス選手は低くて速い速攻をリードブロックで簡単にキルブロックに仕留めます。

これで対戦相手は打つ手が無くなり、リヴァーレは確実に「流れ」を手にしました。サイドアタッカーを追い詰め、サーブ・ブロック・相手のスパイクミスで連続得点を取る。これが流れの正体ということは前回触れました。

 

この時対角に入っていた松下琴美選手はドリス選手ほどサイドへの動きは速くはありませんが、チームの方針としてはドリス選手同様リードブロックを行っていて、リードブロックを軸にトータルディフェンスを整えてきたことが感じられました。

 

シーズン終了後、センター対角の両選手がリヴァーレを離れたので、せっかく上手く機能していたブロックディフェンスがどうなるのか気になっていました。しかし開幕戦を見たところ、新しい両センターも基本はリードブロックでサイドに2枚きちんとブロックを揃えようとしています。

 

そして再びスライドフォーメーションもはっきり見て取れるようになりました。特に注目なのは、遠井萌仁選手が前衛のローテーションです。

遠井選手は相手のライト攻撃に対してブロックの近くまで詰め寄り、フェイントとワンタッチのカバーをします。そしてディグが上がった後は、セットを上げるためにネット際に移動してくるセッターを邪魔しないように大きく迂回しながらスパイクの助走準備に走ります。

実は遠井選手にはそれほどトスは上がってきませんが、それでもサボることなくセッターを邪魔しないように大回りして助走の準備に走ります。その走り回る姿を見ているだけで笑いがこみ上げてきて嬉しくなってしまいます。

しかもレセプションの場面になると、遠井選手は相手のサーブに徹底的に狙われるお仕事が待っています。得点に直接絡まないお仕事ばかりです!

 

もし日立リヴァーレの試合を見る機会があったら、走り回る遠井選手を見ながら「スライドフォーメーション」という言葉をちらっと思い出してみてください。

そして余力があれば、遠井選手にサーブを集中している時に、サーブを打つ側がどのようなブロックの配置をしているのかにも注目してみてください。もしかしたら遠井選手のライトからの攻撃を完全に消して、9メートルの幅を使わせないという意図が見てとれるかもしれません。

そしてリヴァーレの対戦相手のブロック配置が完全にデディケートとなった時、今季遠井選手が練習してきたというアレが飛び出すのでしょう。そのアレが決まらずに再び全力で後衛まで走って戻る遠井選手を勝手に想像して、今から面白がっております。

 

 

最後に

今回はスライドフォーメーションについて書いてきましたが、いくつかあるフォーメーションの名前と陣形を丸暗記してもらおうとは思っておりません。フォーメーションの全貌はエンド側の高い位置から観戦しないと掴みにくいですし、技術書に載っているようなきれいな形になるとも限りません。どんなにドタバタしても、相手の攻撃を決めさせず、そこからうまく反撃できればしめしめですから。

 

しかしトータルディフェンスの軸はブロックです。

観戦しているとつい応援する選手やチーム、あるいはボールばかり目で追ってしまいますが、アタッカーが攻撃する前にちらっと反対コートのブロッカーを見てみてください。ブロックの先にはディグが連携しており、軸となるブロックに対戦相手の意思が現れていることもあります。その意思をうまく読み取ることができればバレーボールがより一層面白くなっていくでしょう。

 

第1回 バレーボールの競技構造
http://vbw.jp/5179/

第2回  ブロック&ディグのフォーメーション
http://vbw.jp/5261/

文責:萬和臣(よろず・かずおみ)
お酒を飲んでバレーを語るのが好きなバレー仙人。ツイッターではkaz10000でつぶやいています。昭和のころからサーブ攻撃論者。

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