2014-03-18 20:11 追加
Evidence-based Volleyball事始め 第8回 続・サービスエース考
ノータッチエースとその他のサービスエースの勝敗に及ぼす影響について
Others
はじめに
前回の「Evidence-based Volleyball事始め」では、以下の計算式で計算されるサーブ効果率について、ノータッチエースとサービスエースと勝敗の関係を分析しました。
サーブ効果率= {(100 × ノータッチエース+ 80 × サービスエース+ 25 × 効果)} ÷ 打数
サーブ効果率の計算式では、上記のようにそれぞれ100と80の係数をかけています。これは、同じ1本でもノータッチエースの価値が高いことを意味するわけですが、前回の分析結果は、ノータッチエースとその他のサービスエースでは勝敗に及ぼす影響についてはほとんど変わりがありませんでした。
したがって、わざわざ100をかけたり80をかけたりと差をつけるようなことはしなくても良いのではないかと思います。また、1本あたりの価値が同じなのであれば、わざわざ別々に集計しなくても、サーブ得点としてあわせて集計しても良いのではないと思うのですが、今回はその前に1点確認をしておきたいと思います。それは、
ノータッチエースを取る能力と、その他のサービスエースを取る能力は同じものか?
ということです。仮に違う能力であった場合、ひとまとめに計算してしまうとお互いの能力の評価を歪めてしまうことになってしまいます。というわけで、今回はノータッチエースとその他のサービスエースの関連を見てみたいと思います。
ノータッチエースとその他のサービスエースの関係
ノータッチエースとその他のサービスエースの関連が同じ能力を元にした結果であるのであれば、以下の図1に示すような正の相関関係になることが予想されます。ノータッチエース率が高ければ、その他のサービスエース率も高いという関係です。
もし、ノータッチエースとその他のサービスエースの関連が異なる能力を反映した結果であれば、このような関係にはならないでしょう。
それでは、まずは前回利用したチームのデータより、ノータッチエースとその他のサービスエースの関係を分析したデータを以下の図2-1と図2-2に示します。
分析にはVプレミアリーグ2006/07大会から2012/13大会までの男子1480チーム、女子1634チームのデータを使用しています。
分析の結果は、相関係数が示すように関連がないといって良いものですが、これはチームの成績であり、いろいろな選手のサーブが混ざったものなので能力の関係を分析するには不向きです。
能力を想定した分析をするのであれば、チームよりも個人のほうが望ましいです。そこで、期間中の大会通算の個人成績を用いて、1シーズン100打数以上の記録のある選手、男子471人、女子483人を対象に同様の分析をしてみました。分関の結果を以下の図3-1と図3-2に示します。
図1で予想した結果ほどきれいな関係ではありませんが、男女とも正の相関関係となっており、ノータッチエース率の高い選手はその他のサービスエース率も高いことがわかります。ただし、この傾向は男子で顕著ですが、女子ではそれほどではありません。女子ではノータッチエースが出にくいことが原因ではないかと思います。
まとめ
前回と今回の分析結果を総合すると、ノータッチエースとその他のサービスエースの関係は、
- 勝敗への影響にはほとんど差がない
- ノータッチエースの高い選手は、その他のサービスエース率も高い
となっていることがわかりました。サービスエースを取るスキルというものがあって、それがノータッチエースになったり、時にはその他のサービスエースとなったりするためにこのような関係になっているのだと考えられます。勝敗への影響にも差がないのだから、わざわざ分けて集計する必要もないのではないか、というのが今回の結論となります。
次回はサーブ“効果”について考えてみたいと思います。
引用データ
追記 ノータッチエースの記録が必要な理由
ここまでの分析結果が示すのは、ノータッチとエースをわざわざ分けて記録しなくても、サーブ得点として合わせて記録しても問題ないことを示すものです。
しかし、サーブの評価ではないのですが、別のところでノータッチエースの記録が必要であることを書いておくことを忘れていましたので追記しておきたいと思います。
以下のデータを見てください。
別にどの試合でも良かったのですが、Vプレミアリーグ2013/14大会男子ファイナルラウンド決勝の帳票を選びました。ここで見てもらいたいのは、パナソニックのサーブレシーブの受数と、JTのサーブの打数です。
JTのサーブの打数が多いわけですが、これはサーブのミスがあるからです。それでは、JTのサーブの打数から失点(ミス)を引いてやれば、パナソニックの受数になるかというとまだ数が合いません。
この合わない分は、ちょうどノータッチの数と一致します。この試合でたまたま一致したのではなく、他の試合でも同様に一致します。したがって、パナソニックのサーブレシーブ受数は、相手のノータッチをカウントしていないことになります。
サーブレシーブ成功率はこの受数のデータを使って計算しているのですが、この記録の方法だと相手のノータッチが増えても成功率には影響しません。ということは、難しいサーブを無理に追いかけてサーブレシーブの成功数を減らしてしまうよりも、いっそのことボールを追わずノータッチにしてしまえば成功率は低下しないことになります。サーブレシーブの良し悪しの評価方法としてこれは正しい方法とはいえないでしょう。
この問題を解決するには、サーブレシーブの受数に相手のノータッチも加えるべきで、
サーブレシーブ成功率 = 成功数÷(受数+相手のノータッチ)
と計算するべきだと思います。サーブの成績とは関係はありませんが、ノータッチエースの記録が必要な理由はここにあります。何だか変な話ではありますが、ノータッチとエースは後で合計してサーブ得点にしてしまえば良いので、現状としてはサーブレシーブの評価のためにもノータッチの記録は必要ということです。
第1回 Evidence-based Volleyball事始め
第2回 ”アタック決定されない率”
第3回 ”普通”のアタック決定されない率とは
第4回 アタック決定されない率と勝敗の関係
第5回 アタック決定されない率の質
第6回 アイディア募集
第7回 サービスエース考
文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。
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