2024-02-24 06:00 追加
「もう一度、長岡と日本一をとりたい」。美しき”腐れ縁”、久光スプリングス・栄絵里香と長岡望悠が挑む最後の現行Vリーグ
久光スプリングス 栄絵里香、長岡望悠コメント
SV女子
「試合に入る前から個人的にいろいろな思いがあって…」
昨年12月に行われたバレーボール皇后杯、NECレッドロケッツに敗れて準優勝に終わった久光スプリングスのセッター・栄絵里香が試合後の記者会見で声を詰まらせながら、そう言った。
予想だにしなかった光景だった。
会見で涙する選手はいる。しかし、このタイミングで栄ほどのベテラン選手が感傷的な姿を見せることを誰が想像できただろうか。
「バレー人生の中であと何回、決勝の舞台に立てるのかなって考えたり…。長岡が今シーズンからフルで復帰しているので、一緒にもう一度日本一をとりたいっていう思いとか…いろんな感情があります」
ようやく、合点がいった。
セッターとエース。東九州龍谷高校の同級生でもある栄絵里香と長岡望悠。2人の繋がりは長く、深い。
「無敵」ともいえる存在だった高校時代。東龍バレーはある種の極みに達していた。
平成21年度、2009年の皇后杯において、2人の在籍する東龍はVリーグのチームを次々と撃破。ベスト4にコマを進めた。
「Vチームより高校生の方が強いのか」
当時、東龍の完成された高速バレーは、様式美というか、芸術作品のような趣すらあった。
そして、少なくとも短期決戦においては、Vのチームといえど容易に攻略できるものではなかった。
その後、栄はデンソーエアリービーズに、長岡は久光スプリングス(当時の久光製薬スプリングス)に入団。2015年に栄が久光に移籍し、以降はVリーグでのコンビ復活となった。
言うまでもないが、久光スプリングスはVリーグの強豪。優勝を含め、輝かしい戦績を挙げ続けている。もちろん、2人もチームの中心選手である。しかし、栄と長岡は必ずしもVリーガーとして順風満帆な競技生活を送ってきたわけではない。
Vでの活躍を期待された栄だが、チーム内にライバルとなるセッターも多く、デンソーでの出場機会は限られたものだった。
久光に移籍後もチームの重要なピースであり続けているが、それでもVリーグでの出場がその知名度、存在感以上に多いわけではない。
年間出場100セットを超えたのは2021-22、2022-23の直近2シーズンのみ。意外ではあるが、記録上、確かにそうなっている。
一方の長岡も日本代表、海外移籍も含め、その戦績は輝かしいが、度々怪我に悩まされてきた。
東京五輪も右ひざの負傷で出場は叶わなかった。
Vリーグにおいても、2020-21、2021-22シーズンはわずかな出場に留まり、2022-23シーズンにようやく2枚替えを中心にコートに本格復帰した。
どうしてもケガのイメージがつきまとう長岡だが、今季はすごぶる好調だ。エースポジションでスタメンを張り、コンスタントに活躍。個人ランキングでも総得点で日本人3位の成績をマークしている。
「皇后杯の会見で、栄選手が長岡選手と日本一になりたいと言っていたが」
Vリーグレギュラーラウンドの終盤、上尾大会の試合後会見で長岡にその感想を求めた。
「その話は今、初めて聞きました。嬉しいですね。栄とはずっと一緒で…腐れ縁なのかもしれないですけど(笑)、お互いここまできちんと体が動く状態でバレーボールが続けられているという状況は本当に想像していませんでした。最後までしっかり頑張れたらと思います」
では、皇后杯を前にしてどんな会話があったのか。
前述の記者会見で栄にも聞いている。
「2人でこの大会を勝ちたいとか、そういう話はしていないです(笑)」
期待に応えられなくてごめんなさい、という表情で栄は微笑みながら教えてくれた。
「リーグを通してお互いずっと試合に出続ける中で、その試合その試合でそれぞれが感じたこと、コンビのことだったり、チームのことだったりを話してきました」
言葉としては、おそらく、2人にはそれで十分なのだろう。
今季をもって現行のVリーグ(V1~V3)は終了し、来季からはS-V.LEAGUEをトップリーグとする新たなリーグがスタートする。
「Vリーガー以上」と謳われた東龍時代のセッターとエースが万全の体制で臨む、最後の現行Vリーグ。
長岡の言う”腐れ縁”と呼ぶには美しい絆を深めてきた2人が今、お互いの心の中で手を取って、日本一に挑もうとしている。
取材・撮影 堀江丈
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