2025-04-03 07:00 追加
廃部からの再挑戦。勝てない2シーズンを経てプレーオフに。フォレストリーヴズ熊本・萩原透海主将「厳しいことを言うのは嫌だった。それでもチームのためならと」 Ⅴ女子
フォレストリーヴズ熊本 会見コメント
V女子
フォレストリーヴズ熊本というチームは、波乱に満ちている。
2008年にVリーグに参戦。2部リーグで実績を積み重ね、2018年、リーグ再編に伴いついに1部昇格の権利を手中にした。
いや、実際には手中にしながらその努力が水泡に帰したのであった。
2016年に発生した熊本地震は地域経済に大きな痛手を与えていた。チームの成果とは裏腹に運営会社が経営危機に陥り、フォレストはトップリーグ参戦はおろか、リーグから撤退せざるを得なかった。
事実上の廃部。しかし、現場はあきらめなかった。
体制を一新したフォレストは2020年に再びV2リーグに復帰。かつての運営会社からは離れ、生まれ変わったといっても良い。並大抵の努力ではなかったであろう。
しかし、今度は戦績で苦しむ。勝てなかった。不戦勝を除き、2シーズンの間、試合での勝利に見放され続けた。世はコロナ禍でもあり、チームは苦境が続いた。
転機が訪れたのは2022年。ようやくリーグ戦での勝利を得ると、状態は一気に上向きになった。もともと粘り強いディフェンスには定評があり、初勝利を契機に勝ち星が付いてくるようになった。
そして2024‐25シーズンはレギュラーシーズン4位。念願のプレーオフに出場した。
「一度チームが廃部になってからも、頑張ってくれた皆さんがいた。今があるのはそのおかげだと。感謝の気持ちを持って戦おうと心に期してプレーオフに挑んだ」
チームの代表でもある中島裕二監督は試合後の会見でそう言った。
結果は3-0の完敗。レギュラーシーズンを圧倒的な強さで駆け抜けた優勝候補の筆頭、ブレス浜松の前に歯が立たなかった。
しかしながら、これまでの過程を思えばその健闘は大いに称えられるべきであろう。
チームの主将は萩原透海(はぎはらゆきみ)。26歳、千葉県出身。もともとはセッターであり、スパイカーの経験には乏しかったが、チーム事情もあり昨シーズンからオポジットに転向した。
今季多くの試合に先発出場し、3月29日、船橋アリーナでのプレーオフセミファイナル、ブレス浜松との1戦でもスパイカーとしてスタメン出場を果たした。
「キャプテンとしてチームをまとめてくれる。厳しいこともメンバーに伝えることができる。その萩原にチームのみんながついてきてくれています。キャプテンがコートに入ったら周りが締まりますね」
と中島監督は萩原を評価する。
会見の席上で萩原は
「今回、プレーオフという舞台に立てることが、すごくありがたい気持ちです。自分たちにとって…チームの歴史から考えても当たり前のことではないので。選手だけの力ではなくて、チームのスタッフの皆さんや日頃支えてくださっている方々の力があって得られた舞台でした」
と感想を述べた。
萩原は続ける。
「どうチームとして戦っていくか。相手は自分たちよりも実力が上。高さ、打力に勝っているとわかっています。だからどんなボールも上げてつないで、それを点数にする。試合ではそこに取り組みました。でも、なかなか思うようなプレーが出しきれずに相手に好きに打たれて、決められてしまった。すごく悔しい結果でした」
スパイカーがセッターに転向することはあってもその逆の例は少ない。経験者ならともかく、ポジションを変えての挑戦は容易なことではなかったであろう。
「スパイカーとしての技術は全然ですけれども、セッターでの経験のすべてが今の自分に繋がっていると思っています。チームに対しての関わり方だったり、思いだったり、そういう蓄積が自分を作っていると思っています。セッターだった自分にしかできないことがある、と」
チームがここまで来るにはキャプテンとして厳しいことも言わなければならなかった。
「自分の性格上、厳しいことを言うのはあまり好まないというか、苦手なんです。初めはやっぱり嫌だなっていう感覚がありました。でも、立場上率先してそういうことも言わなきゃいけない。本当に苦しかったけれども、チームのためなら、と。それでチームが良くなるなら、自分がそういう役割をしていこうって」
萩原の目に何かが光ったように見えた。
「それができたときに初めて解放されたというか、嫌だなという気持ちから前向きに今の立場を受け入れることができるようになりました。自分にはできないと思ったことも、チームのためならできる。自分じゃなくて、周りのことを考えた時に出せる力があるんだなって」
アウトサイドヒッターの入江彩水は今シーズン、通算2度目の得点王に輝いた。その入江が言う。
「私は決定力もないし、攻撃の引き出しもそんなに多くはないんです。でも、このチームが大切にしている繋ぎだったり、レシーブだったり、私が何回相手ブロックに捕まろうと絶対フォローしてくれる仲間がいて最後の3本目を託してくれる。その仲間がいたからこそ、多くスパイクを打たせてもらって、それが得点になっているんです。チームの仲間の支えが本当に大きいなと思います。萩原キャプテンはチームのために自身の性格を置いて良い方向に導いてくれました。もちろん監督の理想とするバレーはあると思いますが、今年はキャプテンを中心に、選手が自分たちでしっかり考えて、自分たちで言い合って高めていくことができたと思っています。キャプテンの仕事はきつかったと思うんですけれども、キャプテンがみんなを引っ張ってくれたからこの順位になれたと思います。そして、私自身も、他のみんなもそう思っていますが、萩原キャプテンについていく、今シーズンはその思いが強くありました」
萩原は大会の行われた千葉県出身。故郷を遠く離れての熊本での日々に感傷的になることもあったであろう。
「船橋アリーナは自分の地元でもあるので、多くの方が応援に来てくださいました。知り合いがいる中でプレーできるということが力になりました。いろんな時に使わせていただいたことのある体育館でしたので、すごく感慨深いものがあるというか。フォレストリーヴズというチームに所属して、ここでバレーができたことがすごく嬉しかったです」
萩原透海主将は自身のコメントをそう結んだ。
同席したミドルブロッカー安田育代も
「たくさんの方へ感謝の気持ちでいっぱいです。ここまで来ることができたのはいつも支えてくださっている方々の思いにしっかり応えたいという気持ちがあったからでした。会場の空気感というか、一体感も今までに経験がないものを感じました。もう一度、目の前のことを大切にして、しっかりフォレストのバレーができるように頑張っていきたいです」
とチームの未来に思いを馳せた。
ファイナルには進めなかった。しかし、2シーズン全敗を経験したチームが優勝を争うステージに立つことができた。
震災とコロナ禍。崖っぷちから蘇った熊本のチームが、地道に、ゆっくりと、しかし確実に1つの成果を残した。3月29日はその足跡がバレーボールの歴史の中に記された日でもある。
撮影 堀江丈
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