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ゲームレポート

2014-07-31 18:04 追加

ワールドリーグ2014特集 日本戦総括

WL2014総括特集第1弾

全日本代表 男子

日本のワールドリーグは1勝11敗という結果で終わった。今回は、主に日本で開催された6試合を中心に全日本男子チームの戦いについて総括を行う。

5月の段階で、南部監督は攻撃面で以下のようなコメントを残している。

――植田元監督は速いトスにこだわったりされていましたが、南部監督はそのあたりいかがでしょうか。

(南部監督)はい。まずはクイックのテンポという話になりますが、サイドアタッカーが打つテンポといいますのは、クイックの次のタイミング。クイックが入って、その次のジャンプするテンポ。完全に二段トスはハイボール、オープントス。そしてちょうどはやい平行を呼んでいる状態でパスがちょっと乱れた時に少し浮かせてほしい、そういうテンポの3テンポあります。ちょっと余談になりますが、黒鷲旗まで昨シーズンうちにいたダンチはこれにプラスもう1テンポ、クイックのようなテンポを持っていた。細かくいえば、この4テンポがあります。(引用ここまで)

今回は、『バレーペディアVer1.2(日本文化出版)』や2012年バレーボールミーティング(日本バレーボール学会主催)において示したテンポの概念をもとに2014年のワールドリーグ、日本の戦いを振り返ってみよう。なお、今回の記事で用いる写真は、越谷大会におけるドイツ戦のものである。

 

1.アタック

植田元監督のように、サイドへのスピードを過剰に追及していないが、やはりある程度のボールスピードを追求しているような局面が数多く見られた。

また、前衛MBの攻撃は決して多くはなく、特にファースト・タッチの返球がネットから離れた局面ではほとんど前衛MBの攻撃を使うことはできなかった。

特に、問題だと感じることは、どこの攻撃においても「高さ」を追求するという概念が感じられなかったことである。チームのコンセプトとしては、ボールのスピード>打点の高さという意識であると考えられる。

以下、撮影された写真から見られる問題点を指摘する。


清水選手のスパイク。相手ブロッカーに対して高さで優位ではなく、打てるコースが限られている。

清水選手のスパイク。相手ブロッカーに対して高さで優位ではなく、打てるコースが限られている。

 

 

こちらも清水選手のスパイク。内側へのスパイクはブロックによって防がれており、ストレート側にもディガーが配置されていることが分かる。トータル・ディフェンスを行うチームにとって、あまり脅威ではないことが写真からわかる。

こちらも清水選手のスパイク。内側へのスパイクはブロックによって防がれており、ストレート側にもディガーが配置されていることが分かる。トータル・ディフェンスを行うチームにとって、あまり脅威ではないことが写真からわかる。

 

 

出來田選手のクイック。ドイツの選手の高さから、リード・ブロックであることが分かる。相手がリード・ブロックであるにも関わらず、セットされたボールが低いために出來田選手の本来の高さを生かすことができていない。もし、出來田選手の最高打点付近にボールがセットされていれば、ドイツのリード・ブロックの上を抜けてスパイクは決まっていただろう。

出來田選手のクイック。ドイツの選手の高さから、リード・ブロックであることが分かる。相手がリード・ブロックであるにも関わらず、セットされたボールが低いために出來田選手の本来の高さを生かすことができていない。もし、出來田選手の最高打点付近にボールがセットされていれば、ドイツのリード・ブロックの上を抜けてスパイクは決まっていただろう。

 

白岩選手のスパイク。ドイツの選手の高さから、リード・ブロックであることが分かる。こちらのスパイクは決まったものの、あとボール1つ分以上高い位置で打てそうである。

白岩選手のスパイク。ドイツの選手の高さから、リード・ブロックであることが分かる。こちらのスパイクは決まったものの、あとボール1つ分以上高い位置で打てそうである。

 

 

2.ブロック

2014年現在、世界各国は複数のスパイカーによるファースト・テンポに対応するために、そうした局面では積極的にコミット・ブロックを採用している。(詳細は別のコラムにて)

しかしながら、日本のブロック・システムには大きな課題があることが分かった。

それは「サイドのスパイカーに対してコミットするときは、バンチからスイング・ブロックをするという概念の無さ」である。越川選手など、個人として自然とやっている選手はいるものの、組織としてすべての選手がやっているわけではないことが試合を通して明らかになった。

そのため、せっかくコミットしても高さが出せず、相手のサイドの選手に対抗することができていない場面が数多く見られた。

いわゆる三角ゾーンができていることから、組織的なコミット・ブロックではなく、(チームとしてはコミット・ブロックを採用しているつもりでも)ゲス・ブロックと同義であると言える。組織的なコミット・ブロックであれば、相手スパイカーに対して1枚ブロックになってもしっかりと「高く完成」されたブロックになることが多い。

今回の写真では説明されないが、日本のブロック・システム(局面によってすぐにスプレッドすること)を十分に理解しているフランスなどは、局面によっては意図的にサイドの攻撃を真ん中よりの位置から行い、簡単に日本のコミットしたはずのブロックを外していた場面が数多く見られたことも印象的であった。

以下、撮影された写真から見られる問題点を指摘する。

 

こちらはBroshog選手のクイック。十分に高いところでヒットしていることが分かる。両選手の腰の位置から、ほぼコミット・ブロックであることが分かる。しかしながら、高い位置でヒットしているためクイックが止まらないことが予想できる。 また、衛藤選手の付近にブロックがいないことから、日本のブロックがスプレッドしていることが分かる。

こちらはBroshog選手のクイック。十分に高いところでヒットしていることが分かる。両選手の腰の位置から、ほぼコミット・ブロックであることが分かる。しかしながら、高い位置でヒットしているためクイックが止まらないことが予想できる。
また、衛藤選手の付近にブロックがいないことから、日本のブロックがスプレッドしていることが分かる。

 

 

 

これはドイツのライト側からの攻撃。清水選手はコミット・ブロック、MBはリードで対応していることが分かる。また、MBの姿勢からバンチではなく、スプレッドしていることが分かる。 スプレッドしているため、トータル・ディフェンスが構築にしくく、スパイカーとってブロックが脅威となっていないことが問題である。

これはドイツのライト側からの攻撃。清水選手はコミット・ブロック、MBはリードで対応していることが分かる。また、MBの姿勢からバンチではなく、スプレッドしていることが分かる。
スプレッドしているため、トータル・ディフェンスが構築にしくく、スパイカーとってブロックが脅威となっていないことが問題である。

 

3.総括

南部監督が就任して間もないこともあるが、スパイクにしてもブロックにしても世界標準といわれるプレーを監督、スタッフと選手が理解し、共有することが重要である。

攻撃面では、テンポの概念に基づいた高さを重視した攻撃を行うことが最低限必要である。実際にゲーリー前監督はそのようなコンセプトを持って取り組んでおり、選手も手応えを感じ始めていた。MBの攻撃も高さを生かすことや、ネットから離れて攻撃するコンセプトを取り入れることで前衛MBの打数を確保することが可能となる。現在の古いコンセプトでは、どのような選手が起用されても前衛MBの打数が一定の割合以上増えないことや決定率が上がらないことは過去の各国の歴史からも明らかとなっている。

守備面では、まずはブロック・システムの構築が課題となっている。個人技としてのスイング・ブロックの習得や、組織的なコミット・ブロックの概念の形成からはじまり、そうしたブロックと連携するフロア・ディフェンス・システムの構築などを早急に行う必要がある。

ワールドリーグ・ファイナルの試合を見れば、日本の採用している技術論、戦術論は世界のトップレベルと比べるとすでに古いコンセプトであることが分かる。逆に言えば、世界各国からするとすでに応策が十分に研究されたプレーであるため、あまり脅威を感じていないとも言える。

まず、世界各国が何をやろうとしているのか、それを理解し、その上で世界各国に対抗することが重要であることは言うまでもない。

 

 

文責:手川勝太朗

1981年生まれ。神戸市立大原中学校教諭。日本バレーボール学会所属。

専門はバレーボールの戦術論。YouTubeへの動画投稿で女子中学生でもファースト・テンポの攻撃など、世界標準のバレーボールができることを示し、2012年7月に三島・東レアローズにて開催された日本バレーボール学会主催「2012バレーボールミーティング」で、オンコート・レクチャーを務めた。

2014年5月に、『バレーペディア』完全準拠の初の指導DVD「『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる!! 世界標準のバレーボール」(ジャパンライム)を発売。

 

写真提供:黒羽白

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