2014-11-10 19:48 追加
新監督に聞く 堺 印東玄弥氏
SV男子
―ノルウェーでの業績を。
ノルウェーには2006年に渡りました。ノルウェー協会が立ち上げたTopp Volley Norgeというバレーボールアカデミーのコーチになりました。2007年5月に行われた世界ジュニア選手権ヨーロッパ予選のノルウェー女子代表チームを率いました。そこまでコーチとしては10年以上のキャリアはありましたが、ナショナルチームの監督は初めてで、それが私の国際試合経験の始まりになりました。代表チームでは、2008年シニア女子のヨーロッパ選手権のコーチを経て、2009年~2014年は男子のユース、ジュニア、ユニバ代表監督として、多くの国際試合に出場してきました。
しかし、メインの仕事は、ジュニア選手の育成です。代表に選ばれていない選手を含めて男女70名が在籍するエリート育成・強化プログラムで、国内リーグにも参戦しました。ジュニアチームを国のトップカテゴリーのリーグでシニアチームと戦わせるというのはドイツや、イタリアなどでも用いられている強化法です。仮に最下位になっても、入れ替え戦、降格はないという特別ルールを用いていて、様々な試みを実践でき、未完成の選手でもコートに立たせることができます。
―面白いですね。
女子チームを率いて2年目になると、国内トップリーグでもシニアチーム相手に勝てるようになってきました。2007年12月、クリスマス時期でリーグが小休止、学校も休みになる時期に3週間ほどの休暇をとりました。ヨーロッパなので、クリスマスが最も重要な祝日ですし、選手も遠隔地から来ていたので、家族と過ごす時間を考えたからです。夏から、効果的な練習やトレーニングを積んで、身体能力があがり、ジャンプ力も向上して良い結果に結びついてきたのに、選手たちは、休み明けに大幅な体重増で戻ってきました。
ノルウェーのクリスマス料理はカロリーが高く、運動量が減ってカロリー摂取が増えれば、そのような結果にもなるでしょう。アスリートの娘にそういう食事をさせる親の配慮のなさに対してや、リーグ中なのにコントロールできなかったということに、怒りがこみ上げてしまいました。思わず「どうしてそんなに太ってしまったんだ!」と言ってしまいました。この発言は、のちに問題視されました。ノルウェーでは女性に対して体重の話をするのはタブーなのです。
同時期、ノルウェースキーチームのロシア人コーチが、選手に体重制限、食事の管理をしたところ、ある選手が拒食症になって問題になっていたこともあって、私の所属先も、外国人が女子選手に体重について話すということに対してかなり過敏になっていました。
そこで、急に男子チームへの異動が決まりました。2008年1月のことです。12年間女子選手の指導に携わってきた中で、突然男子チームの指導へ転向することに対して、この先一体どうなるのかと思いました。
しかしながら、セリンジャー、ギマラエス、レゼンデ、マッカーチョン氏らの様に、世界のトップレベルでは男子バレー、女子バレーという垣根が取り払われていましたし、私も、男女こうあるべきというような固定観念みたいなものは特になかったので、意外にも困ることはありませんでした。
今となっては、男子の指導へ転向することになったことを感謝しています。私自身は選手として優れていたわけではないので、手本を見せる指導はできません。日本の男子チームの監督はチームのOBが務めることが多いので、自分には男子の指導は難しいと限定した考えもあったのは事実です。でも、そういうことに囚われなければ、自分に合っているのは、身体能力向上にこだわって、パワーやスピードを追求しやすい男子チームの方でないかと思います。
いずれにせよ、ノルウェーに行かなければ、男子の指導をメインにする機会もなかったと思いますので、人生の大きな転換点でしたね。
2008年から男子チームの強化に携わり、選手を発掘、選抜して、強化して行く手法を確立させていきました。ただノルウェーは、インドアバレーとビーチバレーを並行して強化することにこだわっていました。アトランタオリンピックでビーチバレーが公式競技に採用されて以降、連続出場を果たしているということにもプライドがあります。だからといって、ビーチバレー選手の特別な育成方法を持っているわけではありません。基本的にインドアの優秀な選手をビーチに転向させるというやり方です。
私が就任してから、ジュニアの選手を引き抜くという形が顕著になってきました。どれだけ必死に8月から4月までインドアでいい選手を育成しても、ビーチのシーズンが始まると選んでインドアのチームから抜いてしまう。ノルウェーに8年いた内の最初の4年間はこの件に関して納得するのは難しかった。私に30人くらいの大人数を任せ強化させておいて、台頭してきた最も優秀な2人を引き抜いてビーチのノルウェー代表としてツアーやヨーロッパ選手権に出場させるのですから。
―ストレスを感じました?
初心者の状態の選手に、基本技術を習得させ、身体能力向上を図り、故障の防止や、チームプレーの礎など、ベースを作る一番大変なところを人に押し付けておいて、いざ選手が台頭してくると、コーチとして何も指導に携わっていない人が、ヨーロッパ選手権だけ連れて行く。こちらもインドアの選手権が同時期にあるので、手塩にかけたつもりの選手が取られるのは、試合に支障があります。
縁とは面白いもので、ロングビーチ大学でコーチをしていた時に在学していたミスティ・メイが、ワールドツアーでノルウェー大会にも何度も来ていました。彼女は、アテネ、北京、ロンドンオリンピックで金メダル3連覇しているということでギネスブックに掲載されているほどです。
また、北京オリンピック決勝でミスティと死闘を演じ、銀メダルを獲得した田佳は、私が北京体育大学に留学していた時に、李安格教授が立ち上げた少女バレー選手プロジェクト「希望隊」の一員でした。そのコーチをしていたので、バレーボールをする傍ら12歳だった田佳に中国語を教えてもらったりしていたのでした。その彼女達が、ビーチバレーで世界大会優勝するようになりました。そのプレーを徹底的に調べました。そして教えを請いました。
彼女達は気さくで、教える、というような堅苦しさはなく、旧友の好で持っているものを惜しみなく伝えてくれました。私にはビーチバレーでも幸運がありました。オリンピックの金銀メダリストが若かりし頃一緒にインドアのバレーをしていた。そのような縁がある人もそれほど多くないでしょう。
ビーチバレーでは、FIVB世界ユース選手権で銀メダル、ヨーロッパ選手権でも、U18、U19でも銀メダルを獲得しました。私が日本に帰国する前、最後に担当したチームのキャプテンが、今年のU22ヨーロッパ選手権で念願の金メダルを獲得しました。2011年深圳ユニバシアード大会ではTVN(Topp Volley Norge)の卒業生が4位入賞を果たしています。
インドアは競技人口のこともあり、世界ランクを上げていくのは難しい部分もありますが、ビーチバレーでは、世界で1、2位争いをする選手を育成できたことを嬉しく思っています。インドアでは、U19北ヨーロッパ選手権に2009年から2011年を除く2013年まで出場し、2連覇を含む3度の優勝があります。
世界選手権へつながる2010年のU19 ヨーロッパ選手権予選ラウンドでは、現在、イタリアナショナルチームの主力になっているランツァやヴェットーリ、今年の世界選手権で優勝したポーランドのミカなども同じプールで対戦しています。また、TVNの教え子達を連れて出場した2011年の深圳ユニバシアード大会は22チーム中13位でした。協会の予算不足で、2011年-2012年はヨーロッパ選手権には不参加でしたが、2013年1月に、3年振りにヨーロッパ選手権に出場しました。
同じプールにロシア、ラトビア、エストニア、ウクライナ、スロヴェニアと、ノルウェーより高いランクのチームが勢ぞろいしていました。のちに世界選手権で優勝することになるロシアも予選ではノルウェーと戦うプロセスを経ているのですから、ヨーロッパで勝つことがいかに大変かを理解していただけるかと思います。
このラウンドで、開催国のラトビアにフルセットで勝利しました。史上初でした。ノルウェーがFIVBに加盟したのが1946年、第1回ヨーロッパ選手権が開催されたのは1948年。ノルウェーが初出場したのは1983年ですから、男女、シニアジュニア合わせて第2ラウンドで1勝挙げるまで30年かかりました。
ヨーロッパ連盟のサイトでも、「ノルウェーの歴史的勝利」と大きく報道されました。今年、堺ブレイザーズに来る前、ノルウェー代表を率いる最後のヨーロッパ選手権が4月にルーマニアでありました。1次ラウンドで、アゼルバイジャンとイングランドと対戦、1位で2次ラウンド進出。2次ラウンドではスペイン、ルーマニア、デンマークと同組になりました。ここでも、2013年のユースに続いて勝利を挙げました。
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