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ゲームレポート

2016-02-18 18:14 追加

イタリア女子、ぎりぎりで掴んだ日本への切符

欧州五輪予選イタリアチームゲームレポート

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2016年1月、リオ五輪・欧州大陸予選がトルコの首都アンカラで開催された。
強豪ひしめくヨーロッパでも、直接のリオ五輪出場権を獲得できるのは1チームのみ。五輪を勝ち抜くことよりも難しいとさえ言われるこの大会は、ロシアの優勝、準優勝オランダ、3位イタリアという結果で幕を閉じた。

3位決定戦のイタリアvsトルコは、フルセットの大激戦。完全アウェイのプレッシャーを跳ね除け、イタリアがOQT(5月に東京で開催予定)への出場権を獲得した。

●今大会におけるイタリアの戦績
1/5 ロシア戦 1-3
1/6 ベルギー戦 3-2
1/7 ポーランド戦 3-2
1/8 準決勝・オランダ戦 0-3
1/9 3位決定・トルコ戦 3-2

休息日なしの5連戦で、勝利した3つの試合はいずれもフルセット。ポーランド戦の最終セットでは13-7から14-13と1点差に迫られるなど脆さが目立ち、一時は敗退も危惧された。なぜイタリアはこれほどの苦戦を強いられたのか。

各国のリーグやヨーロッパ・チャンピオンズリーグの期間中ということもあり、どのチームも調整不足だったように思う。しかし、イタリアは際立ってチームの連携や細かい繋ぎが徹底されていなかった。目に付いたのは、どのゲームにおいても、ハイセットをする際に安易にアンダーハンドを選択するシーン。それも乱雑なパスが非常に多く、アタッカーに打たせようと意図したようには思えないプレーも散見された。

さらに、大幅な世代交代も一つの要因かもしれない。これまでチームを引っ張ってきたセッターのロビアンコが代表引退を表明。ピッチニーニやアリゲッティの招集も、コンディション不良により見送られた。デルコーレ、チェントーニ、グイッジといったベテランが残り、そこに17歳のエゴヌやオッロなどが加わったことで、ベテランと超若手が混在した、いわば極端なチーム編成となった。年齢を理由にするのはよくないかもしれないが、シニアの国際大会の経験が浅い17歳の選手をこの大会で起用することには、ある程度リスクが伴っていたに違いない。

しかし、イタリア女子を救ったのはこの17歳の選手と言っても過言ではなさそうだ。

●イタリアの未来照らす17歳
イタリア・バレーボール連盟の幹部が「今回、イタリアは大幅に若返った。エゴヌ、オッロ、ボニファチオ、ダネージといった若手がいる。特に17歳のエゴヌの最高到達点は336センチ。ぜひ注目してほしい」と話していたが、その言葉通り、エゴヌは大会を通じて目を見張るほどの活躍だった。

 

 

パオラ・エゴヌ。大会直前に17歳の誕生日を迎えたばかりのウィングスパイカー。ナイジェリア系の選手で、ジャンプ力を活かした高さを武器とする。プレーは荒削りだが、高い打点から繰り出されるスパイクは幾度となく相手ディフェンスを砕いていった。

予選ラウンド初戦・ロシア戦は1-3で敗れ5得点に留まったが、勝利した3試合は全て20得点以上を挙げる活躍。中でも3位決定戦のトルコ戦は、彼女が試合を決めたと言ってもよいかもしれない。セットカウント1-1で迎えた第3セット終盤、21-23と劣勢の場面から、自身のサービスエース2本を含む4連続得点でセットを奪ったのだった。

その第3セット終盤を具体的に見てみよう。
21-22とトルコがリードした場面、S1ローテのイタリアが頼るのはエゴヌのセカンド・テンポであることをわかっていたであろうトルコは、両サイドの攻撃に備えてリード・ブロックで対応。エゴヌがライト側から高さを持ったスパイクを放つも、スイング・ブロックで強烈な圧をかけるギョズデ、エダの2枚ブロックに跳ね返され2点差。

辛くも1点を返し、エゴヌがサーブポジションへ。ここでエゴヌにサーブが回ってきたことがイタリアの全てだった。サーブの狙いをオズソイのいるポジション1(バックライト)に定め、サイドラインすれすれに放った見事なサーブで同点。イタリアの頼みの綱がエゴヌなら、トルコの決め球はミドルブロッカー、エダ・エルデムのC1(スロットCの位置からファーストテンポで繰り出すスパイク)だった。トルコは次のレセプションこそセッターに返したものの、エダのC1へのセットが合わず、イタリアのセットポイント。最後はまたしてもオズソイを狙ったエゴヌのサービスエースで、イタリアが第3セットを奪った。

この場面でのイタリアの戦術も素晴らしかったが、苦境に立たされても、攻めのサーブを打ち続けることで試合を決めたエゴヌ。トルコの観客から浴びる地鳴りのような大ブーイングを物ともしない落ち着きぶりには、既に大物感が漂う。末恐ろしい若手がイタリアに現れた。

●精神的支柱、デルコーレ
キャプテンのアントネッラ・デルコーレも、イタリアに必要不可欠なピースだった。日本国内にもデルコーレを知るバレーボールファンは多いのではないだろうか。身長180cmと、ヨーロッパの選手としてはとても小さいが、サーブレシーブの正確さやブロックアウト、細かい繋ぎといった技術は世界トップクラス。飄々と相手の嫌がるプレーをする、敵にとっては実に厄介な選手だ。

 

デルコーレは、2004年に代表入り。当時監督を務めていたマルコ・ボニッタは、今大会でもイタリアを率いた。思い返せばアテネ五輪の日本戦、ボニッタはエースのピッチニーニに代えてデルコーレをスタメンで起用。日本を完膚なきまでに叩きのめしたのだった。

そのアテネ五輪は準々決勝敗退、2008年の北京五輪は怪我で欠場。集大成として迎えた2012年のロンドン五輪では大方の予想通り、予選リーグを2位で通過した。そして迎えた準々決勝、相手は韓国。相性を考えても絶好の機会だった。が、その韓国に完敗。「こんなはずじゃなかった」という声が画面を通じて聞こえてくるようだった。泣く子も黙るような気迫でチームを盛り立てていたデルコーレが、試合後のコートサイドで寂しく泣いている姿が脳裏に焼き付いて離れない。

今大会のデルコーレは攻撃面でやや不調だった。それでもトルコ戦、最終セットの重要な局面で決めた3連続スパイクには「さすが」という以外に適当な言葉が見つからない。オリンピックで勝つことの難しさ、オリンピックに出場できない悔しさ。そういった経験をしてきたからこそ、思いも人一倍強いのだろう。

egonu守備の良さも衰えが感じられないどころか、歳を重ねるごとに安定感を増しているようにも見える。デルコーレの攻撃面の不調をエゴヌやディウフがカバーし、デルコーレは身を粉にして守備に貢献。イタリア女子のベテランと若手は、今大会を通じて目覚ましい速度で融合し始めていた。

イタリア男子にジャネッリという期待の若手が現れたように、女子にも期待の若手が続々と現れている。この10年ほど世代交代をあまりしてこなかったイタリア女子。今大会でエゴヌやオッロが起用されたことは、突如としてデルコーレが起用されたアテネ五輪の記憶と重なった。ボニッタが予想外の采配を見せるのは珍しいことではない。しかし、五輪大陸予選という極めて重要な大会で、10代の若手を多く起用し結果を出したこの指揮官は、やはり名将と呼ぶ他ないだろう。

勝利した試合の全てがフルセット。まさに紙一重の差で勝ち取った日本への切符。ベテランと若手が融合し、より勢いの増したイタリアが5月のOQTにやってくる。イタリア女子は、まだまだオリンピックの舞台にいなくてはならない存在だ。

italiateam

文責:高住翔
写真:CEV

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