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ゲームレポート

2016-07-25 17:52 追加

ワールドリーグ2016レビュー 初優勝したセルビアバレーを強くしたもの

ワールドリーグ2016レビュー

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SerbiasteamcelebratevictorywhileawardingceremonyaftertheFIVBWorldLeaguevolleyballFinalmatch (2)-s日本でのオリンピック最終予選が終了し、2週も経たぬうちに始まった2016年ワールドリーグ。リオ・デジャネイロ五輪前の調整として全力を出し切ったとは言い難いグループ1では、五輪出場を早々に逃したセルビアが全開で挑み、見事昨年の決勝敗北のリベンジを果たし初の金メダルを獲得しました。

最終的にはOPに落ち着いたザイツェフ

最終的にはOPに落ち着いたザイツェフ

ブルガリア、オーストラリア、ベルギー、セルビアを除くグループ1の8チーム(ブラジル、ポーランド、ロシア、イタリア、アメリカ、アルゼンチン、イラン、フランス)は五輪へ照準を合わせるべく、選手を休養させたり新しい形を模索したり、手の内を明かすことを避けていたこともあったでしょう。ポーランド(今大会5位)は最終予選で疲労困憊のクレクを休ませコナルスキを起用、イタリア(今大会4位)はザイツェフをWS(ウイングスパイカー)にベットーリをOP(オポジット)にしての形で試行錯誤。またブラジル(銀)のムリロや、フランス(銅)のティリの故障などベストメンバーで挑めるチームが少なかったことも、セルビアにとっては幸運だったと言えます。

今回はベストOPではなくベスWS賞獲得したルジエ

今回はベストOPではなくベスWS賞獲得したルジエ

 

セルビアの優勝に大きく貢献したのはMVPを獲得したイボビッチ(25歳)。彼は昨シーズンまでナショナルチームではスタメン出場することは少なく、これまでは途中出場した後、再度控えへ戻ることも多く安定性に欠けていました。しかし今大会はスタメンとしてほぼ全試合に出場。跳躍力を活かしたバックアタックなどで攻撃の要となり、彼のサーブで崩し始まったセットや試合が多くありました。身長194センチと世界のWSにしては小柄ですが、昨季ロシアリーグでプレーしてきたことで高さが大きな障害にはならなくなっていたのも大きな効果。所属していたベルゴリエは欧州チャンピオンズリーグでファイナルには進めず苦戦したようにも思われましたが、彼自身の技術は格段にアップ。この大会を通してその成長が証明されました。

同じくWSのウロシュ・コバチェビッチ(23歳)の成長も大きな勝因。2014/15シーズン石川選手とともにイタリア、モデナでプレーしていた彼は当時故障もあり、中盤からはスタメンを外れ、石川選手にそのポジションを譲ることもありました。しかし2015/16シーズン、ヴェローナへ移籍してからは主軸となってチームを牽引。リーグ終盤には3試合連続MVPを獲得する活躍もありました。自分に合ったチームでプレーすることで自信をつけていったコバチェビッチ。攻撃のみならず課題だった守備が安定したことで、今大会いろんな場面で巧さを見せていました。

そんな2人のWSのプレーを安定させたのは2年ぶりに代表復帰したニキッチ(30歳)。昨季の所属チームモデナでは守備固めなどで途中出場する場面が多かったものの、今大会初戦のロシア戦ではスタメン・フル出場。守備を安定させられたことでセルビア選手個々の持っていた攻撃力が活かされ、ストレート勝利のよいスターが切れました。レセプションのみならず難しいボールの処理などこれまで足りなかったベテランの技で、チームを支えたニキッチ。1月ベルリンで行われた欧州五輪予選ではベテランを欠いたことが敗因の一つだと言われたため、ここは彼によって完全修正。ファイナルラウンドでは負傷しスタメンを外れるも守備で登場する場面もあり、この金メダルは彼の復帰によるところも大きかったと言えます。

セルビアを長きに渡って守り続けている大きな壁といえば、ポドラスチャニン(28歳)。彼のブロック、クイック力は相手に大きな威圧感を与えます。ファイナル6のポーランド戦ではブロック5本、スパイク9本、サーブ1本で勝利に貢献。悪夢の2014世界選手権開幕戦で、すっかり飲まれてしまったポーランドホームの雰囲気でしたが、今回はチームのムードを全く落とすことなく盛り上げられ、一気に準決勝進出を決めました。

同じくMB(ミドルプロッカー)のキャプテン・スタンコビッチ(30)も、忘れてはならない存在。スタメン出場は少なくとも途中出場すれば早々にブロックを決めエースを奪い、劣勢でも必ずチームを救う活躍を見せました。控えにしておくのはもったいないほどレベルの高さですが、セルビアには勢いの止まらないMBがもう一人。ベテランにスタメンを譲らず会場を沸かせ続けたのが、24歳のリシナツでした。

予選のブラジル戦で18得点を挙げ勝利に大きく貢献したリシナツを囲むセルビアメンバー

予選のブラジル戦で18得点を挙げ勝利に大きく貢献したリシナツを囲むセルビアメンバー

昨年のWLや昨季ポーランドリーグでベストミドルに選ばれていた彼は、今大会これまでのブロック・クイック力に加えサーブが大爆発。予選ラウンドではブラジルのレセプション陣セルジオ、フェリペ、ルカレッリから4セットで7本のサービスエースを奪ったのです。(チーム全体ではその1試合に20本という驚異的なサービスエース数を記録)。クイックのミスも減り、ブロックもコミットで相手ミドルに食らいつき続けた忍耐力。彼の真摯なプレーはMVPにもふさわしいとの声も上がるほどで、実際、ファイナルラウンドの得点ランキングでは17位までOP、WSがランキングする中に、一人MBで7位に食い込んでいるのでした。

そんな選手を生かしてきたのがセッターヨボビッチ(24歳)。セリエA1モンツァで昨季、成績を伸ばしてきた彼の成長によるところも、大きなポイント。ファイナル6でこそ少なくなりましたが、予選ラウンドでは苦しい場面でも笑顔を見せるなどこれまでにはなかった余裕を感じさせていたヨボビッチ。バックアタック多用しミドルを効果的に使う。アルゼンチン戦では苦し紛れの中キックでトスを上げる場面もあり冷静さが感じ取れました。

その配球に最も助けられたのはシニア初代表OPのルブリッチではないでしょうか。国際大会の経験はなくとも堂々とプレーする彼は、セルビアにとって嬉しい誤算でした。昨季所属していたイタリアピアチェンツァではチームの勝数こそ振るいませんでしたが、リーグ終盤に決勝進出のペルージャ相手にフルセットに持ち込む原動力ともなったルブリッチ。無理をせず冷静に判断して打つスパイクは22歳とは思えないほどで、今大会勝利を重ねるごとに自信を増し、サーブにおいてもエースの本数が増え効果が高まりました。

大きな課題だったセルビアのレセプションも大会を通じて変化。ベテランリベロ、ロシッチ(31歳)頼みだったのが、気が付けばマイストロビッチ(27歳)一人で決勝、準決勝を戦い抜き連続ファインセーブを見せるまでになっていました。これまでクラブチームではWSだった彼ですが、昨季初めてリベロとしてポーランドで1シーズンを通してプレー。大会序盤からこの2人を使い分けながら、徐々に移行させてきた監督グルビッチの采配が効き、ようやくリベロの世代交代に成功したように思えます。

 

そんな個々の力が一つになって大きな勝利を勝ち取ったセルビアは、他国の危機に反し順調な勝ち上がりを見せたかのように思われるかもしれません。しかし、実は彼らも期間中大きな危機を乗り越えていたのです。

故障でプレーできなくても観客を盛り上げチームを応援していたアタナシエビッチ

故障でプレーできなくても観客を盛り上げチームを応援していたアタナシエビッチ

ミリュコビッチの後継者としてセルビアの不動のエースだったアタナシエビッチ(24歳)が予選第3週をもって離脱。セリエA1、3年連続でベストスコアラーを獲得してきた裏で、鎮痛剤を服用しながら騙し騙しプレーしていた左足がついに限界に達し、ファイナルを前にチームを離れることになったのです。

予想外の危機、しかしそれはセルビアチームにとって、逆にチーム力を高めることになりました。エースを欠いたことで個々の責任感は高まり、代わり最年少ルブリッチが入ることで彼の負担を減らそうと、同世代の選手の意識も変わったように見えたのです。アタナシエビッチが離脱を公言したインスタグラムでは、チームメイトからの励ましのメッセージ。「強くなって帰ってこい」「俺たちはいつも一緒にいる」「クラクフからメダルを持って帰ってくるよ」。決勝後、表彰台に上ると選手の手にはしっかりと14番アタナシエビッチのユニフォーム。彼らは15人全員で一緒に、表彰台に上っていました。

 

リーダーらしいリーダーがいなかった近年のセルビア。欧州選手権や五輪予選で敗退し、勝てない原因としてそこも指摘されていました。しかしそんなセルビアがリーダー不在のまま金メダルを獲得。コート内、リーダーの引っ張る力がなくてもそれぞれが場面に応じて動くことで歯車が上手く回り、他には類を見ないチームの形ができていました。決勝のスタメンは平均年齢24.5歳と他国に比べ圧倒的に若く(ブラジル27.9歳、準決勝フランス27.1歳、準決勝イタリア27.4歳)、彼らが作り出す新しい世代のチームは、ここからもまだ伸びしろが伺えます。代表選手のほとんどが10代からイタリア、ポーランド、ロシアなど高いレベルのリーグに身を置き、経験を重ねてきたことで技術だけでなくメンタルも充実。母国語の使えない国で持ち前の明るい国民性でバレーを楽しみながら、今もなお挑み続けている彼らはきっと、これからさらに大きな花を咲かせるでしょう。4年後、もしかしたらそれを私たちは目の前で見ることになるのかもしれません。リオ五輪を前にセルビアはもう新たな目標に向かって歩き始めているのです。

 

写真:FIVB 文責:宮﨑治美

長崎県生まれ。2007年ワールドカップをきっかけにバレー観戦を始め、2009年頃から徐々に海外へも観戦に行くように。競技経験はないながらも、コートの中で繰り広げられるドラマ、選手の人間性に魅了され観戦し続けている。

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