2016-09-08 09:42 追加
海外女子バレーのすゝめ 第4回 コートを去る、一時代を築いたヒロインたち
海外バレーコラム
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「いつかはそのときが来る」
それをわかっていても、長く応援してきた選手の引退ほど悲しいものはない。だからこそ、選手が躍動する一つ一つの瞬間を、しっかりと心に刻んでおきたい。
●胴上げで送り出されたキャプテン
8月15日、イタリアのキャプテン、アントネッラ・デルコーレは、チームメイトからの熱い胴上げを受けてコートを去った。イタリア人らしい賑やかな送り出しだった。強豪揃いの予選B組で初戦から4連敗を喫し、敗退が決まっていたイタリア。それでも最終日のプエルトリコ戦、最後にようやく勝ち取った勝利だった。
以前「イタリア女子、ぎりぎりで掴んだ日本への切符(http://vbm.link/11088/)」というタイトルでゲームレポートを執筆した。その際にもデルコーレについては言及したが、彼女は2004年のアテネ五輪でスタメンに抜擢され、すぐに攻守の要となる。守備の安定感を買われ、2006年のワールドグランプリではリベロもこなした。さらに攻撃面でもチームをけん引。ブロックの僅かな隙間を狙う技術や、相手を惑わす絶妙なフェイントが武器で、苦しいトスが上がってきても難なく打ちこなした。
イタリア女子はこれまでオリンピックの準々決勝を突破できておらず、「リオ五輪では悲願のメダルを」と意気込んで臨んだデルコーレだったが、あまりに高い予選B組の壁に跳ね返された。
悔しさでただ涙に暮れた4年前のロンドン五輪。リオではそれが「やりきった」というような、清々しい表情に変わっていた。一回り以上も年の離れた若手を多く擁し、負担も大きかったことだろう。タイムアウト中、17歳のエゴヌに対して「こういうプレーが良かった」と声をかけるなど、仲間思いのキャプテンだった。エゴヌは「私が失敗したとしてもベテランが助けてくれるので、気持ちが楽だ」と話していたそうだ。
ぎりぎりで掴んだ日本への切符。首位で通過した最終予選。「これが最後」と公言して臨んだリオ五輪。最後のオリンピックは、残念ながら予選落ちという結果に終わってしまった。しかし、エゴヌ、オッロ、シッラなど、デルコーレの意志を継ぐ若手が現れた。デルコーレが成し遂げられなかったオリンピックのメダルという夢を、いつか彼女たちが叶えてくれることだろう。
予選最終日のプエルトリコ戦、イタリアの選手は腕に、”Grazie CAP #15(ありがとう、キャプテン)”と書いて試合に臨んだ。試合後は会場を巻き込んでの”Anto”コール(アントはデルコーレのニックネーム)。
多くの人に愛され、イタリアバレー界のみならず世界のバレー界にも大きく貢献した偉大な選手だった。これから先も「15」を見るたび、デルコーレのことを思い出すだろう。引退後は子どもが欲しい、家庭を持ちたいと話していたデルコーレ。今後の人生も輝かしいものになることを心から祈っている。
●レジェンド二人も、五輪の金メダルには届かず
ロシアの歴史を作り上げたエカテリーナ・ガモワ、リュボフ・シャチコワ(ソコロワ)の二人が、リオ五輪の開幕を待たずして現役を引退した。ガモワは2000年のシドニー、シャチコワは1996年のバルセロナから、それぞれ2012年のロンドンまで連続でオリンピックに出場した二人のベテランは、世界中のファンに惜しまれつつコートを去った。
ロシアといえばガモワ、シャチコワを思い浮かべるファンも多いことだろう。この二人が中心となって、アテネ五輪の銀メダルを始め2006・2010年の世界選手権2連覇など、数々の輝かしい成績を祖国にもたらした。しかし、2000年のシドニー、2004年のアテネで続けて銀メダルを獲得して以降、2008年の北京、2012年のロンドンでは準々決勝敗退という結果に甘んじていたロシア。特にロンドン五輪では優勝候補の筆頭だったにもかかわらず、準々決勝のブラジル戦で死闘の末に敗れてしまった。
その後ガモワは代表から退くが、2014年の世界選手権で復帰。しかし3連覇の夢は叶わず、再び代表から離れてしまう。リオ五輪へ向けて、マリチェフ監督からのオファーを受けたようだが、長年駆使してきた身体は悲鳴をあげていた。代表への招集に応じず、そのまま現役を引退することを決意した。
不動のエース、202センチの高さは圧巻だった。「ロシアの白い巨塔」という異名を持っていたガモワは、6歳で155センチ、8歳で170センチもあったそうだ。バレーボールにあまり詳しくない友人も「ガモワ」だけは知っていたものだ。
一方のシャチコワもロンドン五輪の翌年に一度代表に戻るが、それ以降、代表からは離れた。そして今年初めのリオ五輪・欧州大陸予選で、マリチェフ監督から代表復帰の打診があり、それを受けて代表に合流。出場機会は少なかったが、堅実な守備で優勝・リオ五輪への出場権獲得に貢献した。このままリオ五輪にも出場するのかと思われたが、足の状態が芳しくなかったため、オリンピックの本戦に出場することなく引退を表明。
1998年に日本の日立ベルフィーユでプレーした経験もあり、日本のファンからも「リューバ」という愛称で親しまれてきたシャチコワ。とてもフレンドリーな性格で、来日した際にも多くの日本人ファンがサインや写真撮影を求めた。
ガモワはリオ五輪、ロシア女子の試合中継で解説を務め、敗れた準々決勝のセルビア戦について、マリチェフ監督の采配への不満を口にしていた。ガモワ、シャチコワの二人がいないロシアは、北京、ロンドンに続いてリオでも準々決勝で敗れ、3大会連続でオリンピックのメダルを逃してしまった。ここ最近は大会ごとに戦力が激しく入れ替わり、安定した力を発揮できていない。ガモワ、シャチコワといったスターを擁しても獲得できなかったオリンピックの金メダルがどれほど難しいものか、痛感する。
今月、U19欧州選手権(19歳以下の選手による大会)が行われ、ロシア女子は見事に優勝を果たした。次世代も続々と育ってきているのだろう。ロシア女子悲願の金メダルの夢は、これからの選手たちに託された。
●ベルギー女子バレー台頭の立役者
ベルギー代表のベテランセッター、フラウケ・ディリックスも静かにコートを去った。
あまりベルギーを知らないという方も多いかもしれないが、ぜひこの機会に知っていただきたい。ベルギーは近年、一気に頭角を現してきたチーム。2013年の欧州選手権でいきなり銅メダルを獲得し、2014年のワールドグランプリ・グループ2のファイナルでは強豪のオランダを破ってグループ1昇格を決めた。リセ・ファン・ヘッケやエレーヌ・ルソーといった、高さとパワーが武器の選手を揃えるベルギー。そのアタッカー陣をまとめてきたのが186cmのベテランセッター、ディリックスだった。
強気だが丁寧なセットアップが持ち味。まだまだ荒削りな若い選手たちに、どう攻撃させるかということをしっかり考えながらプレーしているように見えた。期待の若手をしっかりと育て、ヨーロッパで3位というところまで押し上げた立役者と言えるだろう。
ベルギーは今年1月のリオ五輪・欧州大陸予選でロシアやイタリアといった強豪に敗れ、オリンピックに出場することはできなかった。しかし、有望な若い選手を多く擁するこのチームは、これからのヨーロッパ・バレー、世界のバレーをさらに盛り上げる存在になるはずだ。
写真:FIVB、CEV
第1回 バレー新興国トルコに見る、選手と観客の関係
http://vbm.link/11284/
第2回 ありがとう、監督!― ニエムチェク監督がポーランド・バレー界に遺したもの
http://vbm.link/11779/
第3回 リオ五輪直前!因縁渦巻くA組、混戦必至のB組
http://vbm.link/11910/
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