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コラム

2014-09-20 11:53 追加

ミーハー排球道場 第6回ハイブリッド6

ライトファン向けのわかりやすい技術解説

Others / 全日本代表 女子

国際大会をテレビで見てバレーファンになった方や、バレーマンガを読んでバレーに興味を持った方の「こんなことがわからない!」にお答えするコーナーです。バレーボールのルールや戦術について書かれた『バレーペディア』(日本バレーボール学会編・日本文化出版)の編集・執筆者の一人である渡辺寿規先生がお答えします。渡辺先生はツイッターの #vabotter でつぶやいています。

「先日のワールドグランプリで眞鍋Japanが披露した『Hybrid 6(ハイブリッド6)』ですが、結局のところどういうフォーメーションなのでしょうか? わかりやすく解説をお願いします!」

お答えします。

結論から言いますと

『Hybrid 6(以下、ハイブリッド6)』は、「6-2(six-two)システム」と「4-2(four-two)システム」の〝ハイブリッド〟である

ということになります。

「6-2システム」と言われて、どこかで聞いたぞ! と感じた方は、恐らくこのコーナーを昔からご覧頂いている方でしょう。ありがとうございます。

第2回でご紹介したとおり、コート上の「6人」全員がアタッカーとしての役割を担い、うち「2人」はセッターとしての役割も担う、いわゆる【ツー・セッター】システムのことを海外では「6-2(six-two)システム」と呼んでいます。一方、通常よく皆さんが目にする【ワン・セッター】システムは、コート上の6人のうち「5人」がアタッカーで残り「1人」がセッターですので、「5-1(five-one)システム」と呼ばれます。

◎ 「4-2(four-two)システム」とは?

では「4-2システム」とは、どのようなシステムでしょうか? 上述の「6-2システム」「5-1システム」からの連想で想像して頂くと、コート上の6人のうち「4人」がアタッカーとしての役割を担い、「2人」がセッターとしての役割を担うシステムになるかと思いますが、そのとおりです。いわゆる【ツー・セッター】(6-2システム)は、セッターの2人がアタッカーの役割も果たしますが、「4-2システム」の場合はセッターの2人はアタッカーの役割は果たさず、残り4人のみがアタッカーの役割を務めます。

具体的にラインナップで考えてみましょう。

<図1><図2>

第2回でも解説したように、<図2>において「対角」の位置関係となるペア(☆と★、◇と◆、○と●)を「レフト対角」「センター対角」「ライト対角」として、それぞれのペアが「前衛レフト(コート・ポジション4)」「前衛センター(コート・ポジション3)」、「前衛ライト(コート・ポジション2)」で常にプレイさせるシステムを敷くと、6つのラインナップのいずれにおいてもバランスよく攻撃システムを構築できます。「6-2システム」を採用するメリットは「常に前衛にアタッカーが3人いる状況」を確保できる点にあり、その目的を達成するため「ライト対角」の2人のうち、後衛に位置する選手がセッターを務めましたね。

<図3-1><図3-2>

一方「4-2システム」においては、「センター対角」の2人がセッターを務めます。さらに「センター対角」の2人のうち、前衛に位置する選手がセッターを務める点が「6-2システム」との大きな違いです。

<図4-1><図4-2>

◎ 「4-2システム」が頻繁に登場する場面とは?

なぜ、前衛の選手がセッターを務めるかというと、この「4-2システム」が最もよく登場する場面は、実は初心者段階のゲームなのです。プレイ経験のない皆さんでも、恐らく体育の授業で「ローテーションして、前衛センター(コート・ポジション3)に回って来た人がセッターになる」という約束事で、ゲームを体験したことって記憶にありませんか?

… 初心者段階の選手がセッターとしてプレイする際に難渋することの1つに、セット・アップ定位置への移動の難しさが挙げられます。「ローテーションして、前衛センター(コート・ポジション3)に回って来た人がセッターになる」という約束事は、セット・アップ定位置への移動に気を取られずに、セット動作に専念できる環境をお膳立てしてくれます。ですから、初心者段階であっても「レシーブ → セット → スパイク」という、バレーボールの基本となるプレイの組み立てを実体験しやすいという理由で、「4-2システム」は底辺カテゴリにおいては珍しくないシステムなのです。

ここまでの解説で、ある程度のレベルの高いカテゴリでみられる「6-2システム」と、底辺カテゴリでよくみられる「4-2システム」、いずれもコート上にセッターが2人いるシステムを、だいたいご理解頂けたかと思います。

でも、ワールド・グランプリ2014で日本女子ナショナル・チームが披露した『ハイブリッド6』は、コート上にいるセッターは2人ではなく、1人(つまり【ワン・セッター】)でしたよね? では、どこが「6-2システム」ならびに「4-2システム」と共通しているのでしょうか?

◎ セッターが後衛の場合は「6-2システム」

<図5-1><図3-1>

<図5-1>をご覧下さい。セッター(「S2」と表記された選手)が後衛の場合は、<図3-1>の「6-2システム」同様に、後衛のセッター(S2)がそのままセッターを務め、対角の選手(OP1)はアタッカーとしてプレイします。これは「5-1システム」とも同じであり、あまり違和感はないでしょう。

◎ セッターが前衛の場合は「4-2システム」

<図5-2> <図4-2>

問題はセッター(S2)が前衛の場合です。「6-2システム」なら、セッター(S2)の対角の選手(OP1)がセッターとしてプレイし、セッター(S2)はアタッカーに役割を変えます。ところが『ハイブリッド6』では「4-2システム」に切り替わり、セッター(S2)が前衛センター(コート・ポジション3)の位置でそのままセッターとしてプレイし、「センター対角」の2人が「ライト対角」に切り替わります(<図4-2>)。

ですから『ハイブリッド6』は、セッターが後衛の場合は「6-2」、セッターが前衛の場合は「4-2」の〝ハイブリッド〟であると考えていただくと、すっきりと整理ができるのです。

ただし、『ハイブリッド6』における「4-2」は、トップ・カテゴリの選手で構成する「4-2」ですから、初心者段階でよく見られる「4-2」と決定的に違う点が1つ存在します。それは、バック・アタックを繰り出すことが可能である、という点です。初心者段階でよく見られる「4-2」では、バック・アタックを打てる選手がいないケースがほとんどでしょうから、前衛両サイドに位置する2人のアタッカーのみがスパイクを繰り出すわけですが、『ハイブリッド6』ではそれに加え、後衛センター付近からバック・アタックを繰り出すことが常時可能となります。

◎ 結局、従来の「5-1システム」と何が違うの??

従来の「5−1システム」においても、セッターが前衛の場面では前衛アタッカーが2人になるのは変わりません。第2回で解説したとおり、スパイクを繰り出すスロット幅を確保するため「センター対角」の選手がライト側に回り込んで、ブロード攻撃を仕掛けることが女子においては一般的です。

この状況で、レシーブ返球位置が意図せずネットから離れ、アタック・ライン付近になってしまうと、「センター対角」の選手がブロード攻撃を繰り出すことが困難になります(<図6-1>)。繰り出せるスパイクの選択肢を減らさないために、レシーブを「ネット際のセッターがいる場所にピタッと返さないといけない」という〝Aパス至上主義〟が、幅を利かせてきたという歴史的事実があるのです。

<図6-1>

ところが『ハイブリッド6』では、この状況は「4-2システム」となり、セッターは前衛センター(コート・ポジション3)の位置でプレイします。前衛のアタッカーは両サイドに位置してプレイしますから、レシーブ返球位置が意図せずネットから離れたとしても、セッターがセット・アップ位置まで移動する動きと助走路が交錯するアタッカーがいません(<図6-2>)。

<図6-2>

結果として、サーブ・レシーブ返球位置がネットから離れた場面であっても、ディグ直後の【トランジション】の場面であっても、高い確率でスロット5、スロットCならびに、スロット1付近の3ヶ所から、スパイクを繰り出すことが容易になります。この点が実は、今回の『ハイブリッド6』の最大のメリットであると、私は考えています。

◎ 〝結果的に〟世界標準に近づいた『ハイブリッド6』

このように、レシーブ返球位置の「精度に関わらず」、試合中に高い確率で3人のアタッカーが攻撃参加可能な状況を作れていた、今回の日本女子代表ナショナル・チームの戦いぶりを見て、普段あまりバレーボールを見慣れない(と想像される)『ハイキュー!!』ファンの皆さんの中には、これは「【同時多発位置差(シンクロ)攻撃】ではないのか?!」と感じた方が多かったようです。

#ハイキュー 読者は眞鍋Japanの “Hybrid 6″ の本質を、ちゃんと見抜いていた^^ #vabotter #hq_anime

【同時多発位置差攻撃】とは、2000年代中盤に男子トップ・レベルにおいて世界標準となったアタック戦術です。先日一般公開となった『e-Volleypedia』における解説をご覧頂ければおわかりのとおり、<図6-2>のような攻撃パターンは「3人」のアタッカーしか攻撃参加していませんので、「相手のブロッカー人数よりも多い人数のアタッカーが」攻撃参加する【同時多発位置差攻撃】の条件は満たしません。

一方で、【同時多発位置差攻撃】を繰り出すための「シンクロ助走」(※1)を達成するためのカギは、「レシーブ返球位置にこだわらないこと(=脱〝Aパス至上主義〟)」にあります。レシーブ返球位置の「精度に関わらず」、試合中に3人のアタッカーが攻撃参加する場面が多く見られた今回の日本女子ナショナル・チームのアタック戦術は、『ハイブリッド6』を採用するに至った経緯はともかく、結果的に世界標準に近づく1歩となっていたと考えられるでしょう。

◎『ハイブリッド6』は〝完成形〟ではなく〝導入法〟ととらえるべき!

「4-2システム」について、『セリンジャーのパワーバレーボール』(ベースボールマガジン社)では下記のように解説されています。

「長い間、4-2のチーム構成は初心者のチームの基本的な構成であると考えられていた。このチーム構成の主張者達は、その主な価値として単純さを強調している。…(中略)… 否定的な見方をすると、4-2の構成はよくない運動習慣を養い、創造性をほとんど刺激せず、さらにプレーヤーの体力の養成の機会を限定してしまうのである。私の意見は、4-2のチーム構成は他に選択の余地がないときだけ用いるべきである。」

前述のとおり、「4-2システム」は底辺カテゴリでよく見られるものです。1990年代に【リード・ブロック】戦術が世界標準となった男子トップ・レベルにおいて、ラリー中にセッターが1本目のディグをした直後にセットする役割を担ったのは、前衛のミドル・ブロッカーでした。少なくともサーブ・レシーブは免除され、必ずしもセット動作が得意とは一般的には言えないミドル・ブロッカーの選手であっても、難なくその役割を果たせたのは、前衛センターでプレイする選手がセッターを務めるという「4-2システム」が、比較的簡単なシステムであることの何よりもの証拠です。

『ハイブリッド6』を採用するメリットを好意的に解釈するなら、初心者段階でもプレイしやすいシステムだからこそ、従来から幅を利かせてきた固定観念である「〝Aパス至上主義〟から、脱することを可能にした点にある」と言えるかもしれません。

戦力に限りがある底辺カテゴリのチームならさておき、ナショナル・チームですから技術レベルに劣る選手など、いるはずがありません。「4-2システム」の要素を含む『ハイブリッド6』は、『セリンジャーのパワーバレーボール』に「他に選択の余地がない時だけ用いるべき」とあるように、追求すべき目的を達成するための〝導入法〟であるはずで、これが〝完成形〟ではあり得ません。なぜ日本女子ナショナル・チームが「4-2システム」を採り入れざるを得なかったのか? … その理由をきちんと紐解いていけば、『ハイブリッド6』を採用せずとも、日本は間違いなく金メダルを狙えるチームになると確信しています。

 

文責:渡辺寿規
日本バレーボール学会 バレーペディア編集委員。
『月刊バレーボール』(日本文化出版)2011年2月号~2012年2月号にわたり、『深層真相排球塾』を執筆。
その連載が反響を呼び、2012年7月に三島・東レアローズにて開催された日本バレーボール学会主催「2012バレーボールミーティング」で、メイン講師を務めた。
2014年5月に、『バレーペディア』完全準拠の初の指導DVD「『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる!! 世界標準のバレーボール」(ジャパンライム)を発売。

第1回 ポジショナル・フォールト
第2回 ツー・セッター
第3回 ブロック【その1】
第4回 ブロック【その2】
第5回 ブロック【その3】

_______
(※1)後衛のミドル・ブロッカーがリベロと交代することが多い現状では、リベロとセッターを除くコート上の4人のアタッカーがそれぞれ別のスロット位置に向かって、ファースト・コンタクトを起点に一斉に助走動作を開始し、セット・アップの瞬間を目安に踏み切り動作を行う(狭義のファースト・テンポ)。セット・アップ前に行われる4人のアタッカーの助走動作がシンクロして見えるため、こうした助走動作を「シンクロ助走」と呼ぶ。詳しくはこちらを参照(『e-Volleypedia』より)。

 
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