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コラム

2015-01-22 21:18 追加

アタック決定率は、レセプションに依存しないのか?

レセプションとアタック決定率にまつわる相関についての分析

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はじめに

「アタック決定率はレセプションの善し悪しに相関がない」という統計データが披露され、ネット上でも議論されているようです。
CPV82号でゴーダン・メイフォース氏も、

1.国際試合・Vリーグともに、レセプションの善し悪しが勝敗とあまり関係がないこと
2.レセプションの練習はチーム力向上にとって重要であること

という、一見矛盾する内容を記事にしてくれています。本当のところはどうなのでしょうか。これまでの経験と手持ちのデータから、本当はどうなのか、検討してみたいと思います。

「レセプションの善し悪しとアタック決定率」は、はっきりいって関係がないといえるでしょう。それはデータがあきらかにしていることです。また、レセプションの善し悪しと勝率をみても、レセプションの良いチームが勝っている確率はほぼ50%で、こちらも関係がないと言っても間違いがなさそうです。

しかし、バレーボール指導者であれば、感覚的に「そんなことはないはずだ」と感じるのではないでしょうか。

 

アタック決定率はレセプションに依存しない

このような統計分析には、国際連盟やVリーグが発表しているVISやjVISのデータが使われています。しかし、これらのデータはアタックをレセプションからのアタックとトランジション(切り返し)を分けていませんから、レセプションからのアタック決定率とトランジションアタック決定率と区別ができません。当然、レセプションの善し悪しと、レセプションアタック(RA)+トランジションアタックの合計で評価することになります。

しかし、トランジションアタックは当然、レセプションの善し悪しの影響を受けません。レセプションがアタックに与える影響を調べるなら、レセプションの善し悪しとレセプションアタック決定率の関係を調べる必要があります。

CPV96号(2015年1/2月号)の佐藤氏の記事では、レセプションの善し悪しとレセプションアタック決定率の相関を披露してくれています。レセプションはレセプションアタックとも相関が低いということが示されています。つまり、「サーブレシーブの良いチーム=レセプションアタックの決定率が高いチーム」ということではないということです。しかし、良いレセプションが返ったときのレセプションアタック決定率は高くなっています。

レセプションが良いときのレセプションアタック決定率がそうでないときより高くなっているのにレセプションとレセプションアタックの相関が低いというのは、ますます不思議な感じがするのではないでしょうか。

 

良いレセプションは、高い「レセプションアタック決定率」につながる

レセプションアタックの善し悪しとレセプションアタックの決定率ですが、添付の図を見てください。これはかなり前のVプレミアリーグ男子のレギュラーシーズン約100試合のデータをデータバレーから吐き出したもので、横軸の1~8はその年の順位に該当するチームです。

レセプションアタック

紫の太線はトータルのレセプションアタック決定率
青線はAパスが返ったときのレセプションアタック決定率
赤線はBパスが返ったときのレセプションアタック決定率
緑線はCパスが返ったときのレセプションアタック決定率

これらを各チームで結んだものです。チームごとに差はありますが、いずれのチームのレセプションアタック決定率も、A>B>Cの順となっています。相関とは、数字と数字の間に法則性があるかどうかなので、ABCと決定率では相関係数は算出できませんが、どのチームもレセプションが良ければレセプションアタック決定率は高いといっても間違いなさそうです。

 

レセプションとレセプションアタック決定率に、相関が出てこないわけ

それではなぜレセプションとレセプションアタック決定率に相関がでてこないのでしょうか。それは、チームごとの特色をまとめて平均を取っていることに問題があります。

チームごとのレセプションとレセプションアタック決定率をベースにして相関を出すということは、レセプションの良いチームはレセプションアタック決定率が高いか、すなわち「レシーブのうまいチームはアタックもうまいか」を見ていることになります。

レセプションとレセプションアタックの善し悪しをチームの特徴としてとらえると、

①レセプションもアタックも良いチーム
②レセプションは良いがアタックは良くないチーム
③レセプションは良くないがアタックは良いチーム
④レセプションもアタックも良くないチーム

 

レセプションアタック
良くない 良い
レセプション 良い
良くない

という4つに分けられます。

 

相関があるというのは、①と④のチームが多いことを示します。相関が小さい場合は、①~④が満遍なく存在することになります。

実際にはどうでしょうか。相関があるとすれば、経験の多いチームは①で、少ないチームは④となるのは分かると思いますが、レベルの近いもの同士、例えばVリーグの中で比較すれば、②や③のチームも存在するのではないでしょうか。というよりもレセプションとレセプションアタック決定率の相関は低いということは、①や④に混じって②や③が存在するということです。

1つのチームの中で見ると、上のグラフからも分かるように、良いレセプションが高いレセプションアタック決定率につながっているということです。

 

チームには特徴がある

最初にこの稿をデータバレーのFacebookページで公開したときに、データが少ないからチームごとにレセプションアタック決定率にばらつきがあるのではないかという指摘を受けました。データが少ないかどうかは、これが正解というものはありませんが、あえていうならシーズン全体の8割ほどの試合数で分析していることを考慮すれば十分であるといっておきます。

ばらつきは誤差というより、チームの特徴と考えていただければ理解しやすいと思います。チームごとに異なるプレーヤーで構成されていますから、いろいろな得意不得意が存在します。レセプションの善し悪しや、その後のアタックの展開でも、そんな得意不得意があって、条件ごとの攻撃力の差が現れます。

チームによってはハイセット(2段トス)からの決定率の高い選手がいるでしょう。そういうチームはCパスからの決定率が上がります。Bパスからのクイック決定率の高い選手がいるチームはBパス時のレセプションアタック決定率が上がるはずです。

多くのチームのレフトプレーヤーやレセプションも担うアタッカーを起用していると思います。このようなプレーヤーで、役割の比重から「パサー・ヒッター」(レセプション重視)と「ヒッター・パサー」(アタック重視)と呼ばれています。パサー・ヒッターを起用するチームは、レセプションは良くなりますが、cパスからの攻撃力は落ちます。ヒッター・パサーを起用するチームは、レセプションの良くないところを攻撃力でカバーします。

同じ選手同士が戦っているわけではありませんから、違ってきて当然です。

データを増やして統計を取れば数値が丸まって一定値に向かうということはあるのですが、チームによっていろいろな特徴がある以上、同じ値に近づくとは限りません。差があるのは、そのチームの特徴ととらえるべきだろうと思います。

 

チームの特徴をAパスの依存度でみる

オフェンスサイドの状況を表す「インシステム」と「アウトオブシステム」という言葉があります。アウトオブシステムとはいわゆる「乱れてコンビが使えない状況」であり、ハイセット(2段トス)の状況です。レセプションではCパスのときです。その逆は「インシステム」でABパスのレセプション時のように、コンビネーションが使える状況です。

国際レベルでは「チームの強さやアウトオブシステム」に出るといわれています。インシステムでのアタック決定率は、チーム間でそんなに大きな違いが出ないのですが、違いがアウトオブシステムに出るからです。

つまり、国際レベルで強いと呼ばれるチームは、レセプションの正確さがあまり重要ではありません。レセプションを少しぐらいくずされても決定力が落ちないからです。2001年のグラチャンに出場していた男子キューバチームは、CパスからのレセプションアタックがAパス時とあまり変わりなく、サーブで崩す意味が全くないチームでした。圧倒的強さでその大会を優勝しています。レギュラー全員がその後、イタリアへ亡命したため、キューバの強さは途切れてしまいましたが…

このようなハイセットでもアタックを決定できる選手がいるチームは、アウトオブシステムになることの多いトランジションアタックでなっても高い決定率になります。そのようなチームは「レセプションが良くなくてもアタック決定率が高いチーム」となるわけです。

アウトオブシステムで攻撃力が落ちてしまうチームは、レセプションをしっかりと返す必要があります。日本のように「速くて正確なバレー」をしなければならないチームはその典型で、相手ブロックを翻弄してかわして打てるような状況が必要です。そういうチームは、アタック決定率をレセプションに大きく依存します。つまり、レセプションの善し悪しでアタック決定率が大きく左右されます。裏を返せば、アウトオブシステムで攻撃力が低くなるので、攻撃力を高めるためにはAパスの割合を増やさなければなりません。

つまり、レセプションに依存するチームと依存しないチームがあって、全体で平均を取って「相関がある、ない」という議論はあまり意味がないでしょう。それよりも、レセプションアタックのレセプションへの依存度をチームの特徴としてとらえるのが良いように思います。

 

Aパス重視戦略の妥当性

では、レセプションを良くして、Aパスを増やして戦う戦略は妥当なのでしょうか?

バレーボールはその競技特性からアタックによる得点が圧倒的に多く、そのため、アタック力の強さはチーム順位に最も影響する要因です。添付の図でも、順位が下がるとともにトータルのレセプションアタック決定率(RA#%)が下がっているのが分かると思います。

 

添付の図の1位チームはCパスからの決定率はあまり高くありませんが、トータルのレセプションアタック決定率は1位となっています。それは比率的にABパスがCパスよりも多いからでしょう。また、ハイセットからのアタック決定率(トランジションを含む)はこのシーズントータルで47%と、他チームのABパスからのレセプションアタック決定率と遜色ないくらい、とても高い決定率でした。

 

全日本女子の眞鍋監督も「レセプションが良い状態からの日本の攻撃力は世界のトップと互角」と言っていますが、「アウトオブシステムからの攻撃力 が、強いチームと弱いチームに大きな差がある」というのが、彼が選手の時代から全日本チームで共有されていた認識でもあります。

 

自分たちの強みを前面に出すためレセプション返球率をさらに上げるというのも良いのですが、相手もいかにレセプションを崩すかサーブを工夫してくるわけです。ましてや、トランジションでは常にABパスの状況にはならないことの方が多いわけですから、「崩れたときにどうやって得点するか」は、とても重要な課題であるのは間違いありません。

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コメント

山田太郎 [Website] 2012.04.20 13:00

はじめまして。
興味深く拝見しました。
可能であれば、CPV96号の佐藤さんが示されたデータの具体値を示していただけると幸いです。
>しかし、良いレセプションが返ったときのレセプションアタック決定率は高くなっています。
この部分が個人的にどのようなデータなのか興味がありましたので。

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