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コラム

2016-09-27 09:03 追加

海外女子バレーのすゝめ 第5回 オレンジ・センセーション―復活のオランダ

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次に、アタッカーの攻撃参加意識の高さに着目したい。オランダは4人以上のアタッカーが一斉に助走に入るシーンが多く見られる。相手ブロッカーはどれだけ多くても3人まで。つまり4人以上で攻撃を仕掛けることができれば、攻撃の枚数で優位に立つことができるというわけだ。どんな場面でも「簡単に攻撃の選択肢を減らさない」ということを徹底している。
例えばサーブレシーブが乱れ、ボールがレフト側に返球された場合、その時点で多くのチームはコート中央から攻撃する選択肢を消してしまう。しかしオランダは、そんな場面でもバックセンターからの攻撃を繰り出す。アタッカーはセッターを信頼して助走を始め、セッターもそれをわかっているから、双方が信頼し合って攻撃を仕掛けることができるのだ。
できる限り多くのアタッカーが攻撃参加するために、1本目(サーブレシーブやチャンスボール)のボールタッチに余裕をもたせている、ということにも言及しておく必要がある。1本目を高くゆっくりと上げることで、アタッカー全員が攻撃参加するための準備時間が生まれるからだ。
また、乱れたボールも雑に上げず攻撃につなげようと努めているのはセッターだけではない。リベロのデビー・スタムは、丁寧なオーバーハンドでアタッカーが打ちやすいボールを上げ続けた。リベロがセカンドセッターの働きをすることは、アタッカーの攻撃枚数を削らないという点でも理に適っている。アタッカーにボールを供給するまでの流れを丁寧に行うことで、アタッカーは万全の態勢で攻撃に臨める。地味に見えるが、非常に大切な意識付けだ。

リオ五輪準々決勝・韓国戦、ダイケマのトスが乱れ、スパイクが連続でブロックされるシーンがあった。タイムアウトを取ったジョバンニ監督は「トスが打ちづらく(低く)なってきている。自分にとって打ちやすいボールが来るまで、どうにかブロックをかわしたり、軟打でしのごう」というアドバイスを与える。このタイムアウト後のダイケマはトスを修正、アタッカーが強打できるボールを供給した。こうした連携の強さも、オランダ躍進の要因だったと言えるだろう。誰がどの場面で出てきても、全員が理解・共有するコンセプトに基づきそれぞれの役割を遂行しようとしていた。コート上でそのコンセプトにズレが生じ始めたとき、ベンチはそれを見逃さず的確な指示を送り、修正を促す。これが本来の「チームワーク」の形だと、オランダを見て感じた。
「個の能力」と「コンセプト」をまとめ上げて具現化するのが「チームワーク」であり、それを支える「仲の良さ」。これら4つを1年半で作り上げたオランダのベスト4入りは、20年ぶりのオリンピック出場とはいえ、非常に納得できる結果だったように思う。

・次世代へ受け継がれる魂
最後に、オランダバレー界で受け継がれるIngrid Visser Award(イングリッド・フィッセール・アワード)を紹介したい。この賞はオランダ代表のミドルブロッカーとして活躍したイングリッド・フィッセールの名前からつけられており、毎年末、目覚ましい活躍をしたオランダ人選手にイングリッドの母から贈られる。

イングリッド・フィッセール

イングリッド・フィッセール

2013年にこの賞を受賞したロビン・デクライフ

2013年にこの賞を受賞したロビン・デクライフ

イングリッド・フィッセールは、オランダがリオ以前で最後にオリンピックに出場したアトランタ大会を経験している。ブラジル、イタリア、ロシアなどのクラブチームを渡り歩き、長年オランダバレー界に貢献、2012年に現役を引退。翌2013年5月にパートナーと訪れたスペインのムルシアで殺害されてしまった。当時、フィッセールは不妊治療の成果で妊娠3ヶ月だったそうだ。この事件は世界のバレー界に衝撃を与え、多くのバレー関係者が彼女の死を嘆いた。
2013年末、彼女の名前・功績をオランダバレー界に残そうと設けられたのがこのIngrid Visser Awardだった。2013年はロビン・デクライフ、2014年はセレステ・プラク、2015年はロンネケ・スローティエスと、リオ五輪に出場した3名が連続して受賞した。

オランダ女子の復活を世界に見せつけた今年、2016年は誰が受賞するのだろうか?
―無理な話だとは思うが、ぜひオランダ女子チームのメンバー全員にあげてほしい。メダルこそ残らなかったものの、ベスト4というオランダの躍進は「組織で戦った証」なのだから。

フィッセールも、後輩たちの快挙を讃えているに違いない

フィッセールも、後輩たちの快挙を讃えているに違いない

写真:FIVB、Volleybalkrant

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コメント

山田太郎 [Website] 2012.04.20 13:00

非常に興味深い内容でした!

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