2014-04-25 21:01 追加
Evidence-based Volleyball事始め 第9回 サーブ効果の効果-批判的思考のススメ
バレーボールを「分析」という視点から読み解く連載
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はじめに
今回のテーマはサーブの“効果”についてです。Vリーグの公式記録のサーブ効果率ではなく、あくまで“効果”の数とゲームの勝敗の関係を考えてみたいと思います。というわけで今回の分析では、以下のデータを用いてサーブ効果を評価していきます。
サーブ効果/打数 = サーブ効果数÷サーブ打数
紛らわしいですが、サーブ効果率とは違うことをまずは強調しておきたいと思います。
基礎統計値
まずは、サーブ効果/打数の基本的なデータを確認しておきたいと思います。基礎統計値のデータを以下の表1に示します。
データはVプレミアリーグ2006/07大会から2013/14大会までのレギュラーラウンドの試合結果より、男子852試合1704チーム、女子929試合1858チーム分の結果を用いています。あわせてサーブ得点率(ノータッチ+エース)と失点率の統計値も掲載しておきました。各データは大体この範囲内に収まるということを確認してもらえればと思います。
勝敗との関係
それでは、このサーブ効果/打数がゲームの紹介にどの程度影響するかを確認するために、サーブ効果/打数の程度によってデータを分類し、分類ごとに勝率を計算してみました。データを以下の表2に示します。
このデータをグラフ化したものが以下の図1-1になります。
図を見ると右上がりのグラフとなっているので、サーブ効果/打数が高くなることで試合に勝利する確率が高くなるといえそうです。
ところで、こうした勝敗の関係を表したデータを見る際の注意事項なのですが、データを見る出発点は50%になります。勝敗に関係しないということは、勝つか負けるかわからないということで、それを数値化すると勝率は50%となります。数値を見ると0%を基準に考えてしまいがちですが、勝率0%というのは必ず負けるということになり、勝敗への影響は非常に大きくなります。
というわけで、図1-1のようなデータを見る場合には、図の中心の50%のところにラインを引いていますが、ここから上下にどれだけ離れているかが勝敗への影響の強さということになります。
さて、次に、この図1-1のデータにおいて勝率50%から±10%以上の差があるところを見てみたいと思います。まずは男子のデータを以下の図1-2に示します。
図中の青の縦線より左側が勝率40%以下、オレンジの縦線より右側が勝率60%以上となったサーブ効果/打数を表しています。サーブ効果/打数が40%-45%のところは60%を超えていませんが、左右の分類では超えているのでサンプルが少ないことによる誤差と判断しました。
こうしたデータが全体の何%にあたかも合わせて示していますが、両方合わせて全体の20%強といったところです。
続いて、同様に女子のデータを図1-3に示します。
こちらでは、勝率40%と60%を超えたデータは全体の25%強といったところです。これらのデータを総合すると、
・サーブ効果/打数が高くなることで試合に勝利する確率は高くなる
・勝敗に影響するほど、サーブ効果/打数が高く(低く)なるのは全体の30%未満
・残りの過半数の試合では、サーブ効果/打数は試合の勝敗にはほとんど影響しない
ということがいえます。30%未満というのは少ない値ではないですが、それほど課題に評価するほどでもないというレベルかと思います。勝敗に影響はするけれども影響の強さはこの程度という現実的な認識は必要かと思います。
以上の結果を、サーブ効果/打数のエビデンスとしたいと思います。
ここからが本題
以上のエビデンスに対して、今回はもう一歩踏み込んでいきたいともいます。
サーブ効果とは相手のレシーブを乱すようなサーブになります。これは良いサーブといえますが、良いサーブを打っていれば効果が取れると同時にサービスエース(ノータッチ+エース:サーブ得点)も当然増えてくると考えられます。サーブによる得点が増えれば当然試合に勝利する確率は高くなります。ということは、
「サーブ効果/打数が増えることで試合に勝利する確率は高くなっているが、
これは同時にサーブ得点が増えたことによることが原因ではないか?」
という可能性も考えられます。
エビデンスを進化させる批判的思考
サーブ効果は試合の勝敗に影響するという今回のエビデンスに対して、それは間違っているのではないか?という疑問と、本当はサーブ得点が試合の勝敗に影響しているだけではないのか?という別の可能性を示した形です。
このような疑問と他にも考えられる可能性を示すことを一般に「批判」といいます。Evidence-based Volleyball(EBV)において、この批判と批判を産み出すための思考(批判的思考)は非常に重要な要素です。
なぜなら、エビデンスとは絶対の真実ではなく、「今のところその可能性が高い」という事実に過ぎず、修正・改善の余地を残しているからです。「こういうデータ(エビデンス)がある」といって用意されたものを、客観的だからといって無批判に受け入れるというだけでは、偉い人の言うことを黙って聞いているのと同じになってしまいます。
世の中には、バレーボールに限らず、絶対の真実を証明する方法が未だありません。そのため、情報を有効活用するにはエビデンスを修正・改善し、精度を高めていくことが必要です。今あるエビデンスを活用しながらも、より高い精度を求めていくことがEBVでは求められ、そのためにはエビデンスに対する批判的思考が求められるわけです。
批判と非難とイチャモンと
ところで、世の中には批判と非難の区別がついておらず、両方を同じものと捉え「とにかく意見するな」とか「ネガティブなことを言うな」という人が時々います。そんなことを言っていてはEBVの進歩の妨げになりますので、批判と非難ともうひとつイチャモン(言いがかり)についての個人的な見解を示しておきたいと思います。
- 批判:エビデンスに対する疑問と他にも考えられる可能性を示すこと
- 非難:エビデンスの内容ではなく、作成者に対する人格攻撃
- イチャモン:とりあえずツッコミをいれること(特に些末なことに対して)
エビデンスの内容についての意見であるかどうかが、批判と非難の違いではないかと思います。そして、他にも考えられる可能性まで示すことが批判で、揚げ足を取るような内容に終始するのがイチャモンだと思います。
時に混同する人もいますので、あらためて区別して意識しておくことも必要かと思います。非難でもイチャモンでもなく、エビデンスに対して積極的に批判な批判によって議論が活発になれば、EBVの進化のスピードは加速します。こうした「批判」という形でEBVに参加する人も増えてほしいところです。
批判的思考のためのトレーニング
しかし、「じゃあ批判して」といわれると、「そうかなぁ?」と疑問に思うことはあっても「他にこういう可能性は考えられないだろうか?」というアイデアを示すのは結構難しいかと思います。
このようなアイデアを出すためには、ある程度の経験が必要です。経験とは他の人の批判を見ておく(読んでおく)ということです。そうした他の人の批判のパターンを自分の中に蓄積していくことで、新しい批判に応用していくことができるようになってきます。ただし、バレーボールではその他の人の批判というものをなかなか見る機会が少ないのがネックですが……。
例が少ないことを嘆いても仕方がないので、次回は今回のサーブ効果/打数のエビデンスに対する批判を実際に検証してみたいと思います。一つ経験を積み上げる例となればと思います。
第1回 Evidence-based Volleyball事始め
第2回 ”アタック決定されない率”
第3回 ”普通”のアタック決定されない率とは
第4回 アタック決定されない率と勝敗の関係
第5回 アタック決定されない率の質
第6回 アイディア募集
第7回 サービスエース考
第8回 続・サービスエース考
文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。
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