2014-07-22 12:57 追加
川村慎二 パナソニックの、生命線。
SV男子
元Vリーガーの一言
2013年5月に行われた第62回黒鷲旗大会は、長らく全日本のスーパーエースをつとめてきた、山本隆弘の引退試合でもあった。私は山本が全日本デビューの頃からずっと彼のプレイを間近で取材し続けてきたので、かなり思い入れのある選手の最後の試合として連日観戦した。山本は清水邦広が怪我明けだったこともあり、グループ予選から出場して活躍し、パナソニックは決勝に残り、サントリーとのフルセットの死闘の末、準優勝で終わった。山本は決勝ではスタメンではなかったものの、ピンチサーバーとして登場し、エースを奪っていったんはマッチポイントをもぎ取る奮闘振りを見せた。
しかし、この黒鷲旗大会で、最も私の印象に残ったのは華々しいキャリアを誇った山本のラスト・プレイではなかった。助っ人外国人選手のジョンパウロが肩痛だったために、福澤達哉の対角に入っていた川村慎二。どんな追い込まれた時も冷静に着実にプレイし続ける姿が目に焼き付いた。
黒鷲旗が終わってしばらくして、ある元Vリーガーと雑談していたときに、「川村さんていい選手だよね。前からいい選手だとは思っていたけど、あれほどとは思わなかった」とふと漏らすと、彼はあきれ顔でこう返答した。
「今頃何言ってんの? 川村さんはパナソニックの生命線だよ。あの人がパナを支えてるんだよ。あの人がいなかったら、パナはやばいよ」。
全日本にも選出されたことがあるプライドの高い彼が、コメント取材など公に向けたものではない場面で、同じポジションの選手を手放しで褒めることは珍しかったので、私は少し虚を突かれた。諸事情あって2008年以降リーグをほとんど見ていなかった私にとって、川村は実業団デビュー当時から知っていた選手ではあるが、昨季改めてそのプレイに注目することとなった。
本当のスーパーサブ
2013/14シーズン、パナソニックの助っ人外国人は非常に安定した守備力を誇るレフトのダンチ・アマラウだったため、このシーズンの川村の役割は、いわゆる「スーパーサブ」。主にピンチサーバーと、福澤が不調になった時のバックアッパーとしての起用だった。ピンチサーバーは試合の後半に入れられることが多いし、バックアップに入る時は劣勢に陥った時か、逆に点差を付けてリードし、福澤を休ませるためのケースのどちらかだ。しかし、いずれの場合でも川村は淡々と自分の仕事をこなし、動揺したり、投げやりになったり、または浮き足だったりすることはなかった。
そして、競り合っている時も、大きくリードされている時も、逆にリードをしている時も、常に変わらない沈着なプレイで、相手のレセプションを乱したり、強いサーブをさらりと受け流したり、相手にしてみれば「いやらしい」と思わされるようなスパイクで得点したりしていた。むしろ、ここ2年のデータを見ると、レギュラーラウンドよりファイナルラウンドに入ってからの方がサーブの効果率が上がっている。勝負所にこそ強いということを数字が証明しているのだ。
「スーパーサブ」という言葉はスタメンでない選手を形容する時に安易に使われがちだけれども、川村はその名に恥じないプレイをする選手だった。
「試合をね、アップゾーンから見てるでしょう。ああ、こんなんなってるなあって。で、もうワン屈伸で行けるようになりましたね(笑)。『おい行け』って言われたら、ワン屈伸。そんな能力がついたかと自分でも思いました」。
そういえば、カバーページの写真にあるように、南部監督がアップゾーンに近寄り、川村に何事かささやいて彼がコートに出てくるまでの間、他の選手がやるような、その場で何度もジャンプしたり、サーブを打つ素振りなどは見たことがなかった。確かに一回だけ屈伸をして、すました顔で交代のプレートを持ってベンチに座って出番を待っていた。ピンチサーバーの時は、必ず木村コーチのPCをのぞき込み、どこを狙うのが効果的なのかを綿密に話し合っていた。
試合前の公式練習で、サーブを打つ時間帯になると、川村は数本サーブを打つと、いつも谷村と交代でレセプションに入っていた。これもきっと「入った時は必ず仕事をする」という意思の表れなのだろうと思っていたが、本人に確認すると、やはりそうだった。
「サーブを打つだけでなく、(相手のサーブを)できるだけ受けておきたいというのはありました。入ったら、後ろ3ローテは回すという気持ちを持っていたので」と。
このシーズン、パナソニックは復活した古豪JTとファイナルでフルセットを戦い抜いて日本一となり、2014年春の黒鷲旗大会の決勝後、彼の引退が発表された。彼はこの黒鷲旗中に誕生日を迎え、36歳で優勝してコートを去ることになった。36歳まで現役で、しかもリーグも黒鷲も優勝で終われたなら、「もう十分だろう」という見方もある。しかし、個人的な見解を述べさせていただくならば、彼にはもうあと数年はコートに立ち続けていてほしかった。
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