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コラム

2014-11-04 22:28 追加

世界選手権2014の考察 日本のアタックは機能したか?

データ分析コラム。今回のテーマは「日本のアタックは機能したのか?」

全日本代表 女子

はじめに

世界選手権はアメリカの優勝という結果で終えましたが、データも出揃いましたので、前回に引き続き日本の分析をしてみたいと思います。今回のテーマは「日本のアタックは機能したのか?」です。まずは世界選手権の全102試合204チーム分のデータの中から日本の位置づけを確認してみたいと思います。

アタック決定率と失点率

最初に、日本のアタックのデータを以下の表1に示します。

h1

このデータを全チームの中に位置づけたのが以下の図1になります。

z1

右に行くほどアタックの失点率が高く、上にいくほど決定率が高くなります。日本のデータは1次ラウンドのデータを黄色ので、2次ラウンドのデータを赤ので示しています。

全チームの中の日本の位置づけですが、ちょうど真ん中あたりにあることが確認できると思います。真ん中あたりにデータがあるということは、それは平均並みの成績であることを意味します。この結果は、“Hybrid6”を掲げて挑んだ今大会において、日本のアタックは他国を圧倒するレベルにはなかったことを意味しています。

世界選手権を終えて2015年以降を見据えるにあたり、現時点でのスタートラインはここであるということは確認しておいたほうが良いと思います。

日本のセットと相手のブロック

以上はアタックのデータですが、続けてアタックに関連するデータを見ていきたいと思います。見ていくデータは日本のRunning Set率(Running Sets%)と相手チームのブロック得点(Kill Blocks)とリバウンド(Rebounds)です。

Running Set率とは、ブロックが1枚もしくは、ノー・マークとなったセット本数を全セットの本数で割ったものです。この値が高いほど、相手ブロッカーを外したセットができていたことを意味します。ブロック得点とリバウンドは1セットあたりの本数で計算しています。データを以下の図2-1(Kill Blocks)と図2-2(Rebounds)に示します。

z2_1z2_2

この2つの図を見てまず気が付くのが、日本の1次ラウンドと2次ラウンドの成績が大きく異なることです。黄色のが右寄りに、赤のが左寄りにあることが確認できると思います。

これは、2次ラウンドに入って日本のRunning Set率が低下していることを示すものです。つまり、2次ラウンドに入って日本のセットは相手のブロックに対応されるようになったということです。これは看過することのできない問題です。

こうした成績の変化はなぜ起こったのでしょうか?

2次ラウンドに入って相手チームも強くなり、強力なサーブで攻撃が組み立てられなくなったからなのでしょうか?そこで、日本のサーブレシーブのデータを以下の図3で確認してみたいと思います。

z3

データから、日本のサーブレシーブ成功率は大会屈指の高さであることが確認できます。そして、1次ラウンドと比較して2次ラウンドで特別悪くなったわけではないことも確認できます。Running Set率の変化が、サーブレシーブが悪くなったことに起因するわけではないということです。

それでは、いったい何が原因なのかといわれると、

・日本が2次ラウンドになって、Running Setを狙わないセットに変更した。
・2次ラウンドの対戦相手が日本のブロックに対策を講じた。

といった可能性が考えられます。

自分が扱っている帳票のデータでは残念ながらこれ以上の分析はできません。したがって、以下の考察はあくまで個人的な所見となります。

日本がセットのやり方を変えたのか、それとも相手が対策を講じてきたのかという可能性を並べると、個人的には後者の可能性が高いのではないかと思います。まず、日本がRunning Setを狙わない方針へとシフトする可能性は低いと思います。また、渡辺寿規氏が指摘するように(http://vbw.jp/8271/)、WGPではブラジルにバンチ・シフトを敷かれアタックを封じられたという前例があることから、世界選手権においても2次ラウンドの対戦相手は、1次ラウンドの試合内容を分析し対策を講じてきたのではないかと思うのです。

2次ラウンドで対戦した4チームが、WGPのブラジルと同じくバンチ・シフトを敷いてきたかどうかはデータからはわかりません。もし、試合を録画されている方がいるようでしたら、試合を見返してどのようなブロックシステムを講じてきたかを教えていただけると有難いです。いずれにせよ、今大会の日本のアタックは対戦相手にしてみれば対策可能なものだったといえるのではないでしょうか。以上が私の考察になります。

試合ごとの成績を評価する

以上のデータは、全チームのデータの中から日本の位置づけを視覚的に確認したものです。視覚的な位置づけを把握できればだいたいのことはわかるのですが、もう少し詳しく試合ごとの成績を評価するために、今大会の日本の9試合の成績を偏差値で評価してみました。

偏差値といわれると学校の成績をイメージされるかもしれませんが、本来の意味はデータが平均から離れているかを示すものです。そして、偏差値の平均は50で、偏差値60で全体のだいたい上位15%程度、偏差値40で全体のだいたい下位15%程度の位置づけとなる性質を持っています。この性質を利用して、今大会の全204チーム分の成績から日本の各試合の偏差値を以下の表2に示します。

h2

アタック決定率とRunning Sets%は値が高いほど偏差値が高く、アタック失点率と被ブロックは値が低いほど偏差値が高くなるよう計算しています。偏差値60以上、40以下の試合は色を変えて表示しています。

このデータを見れば、1試合ごとの内容を吟味できると思います。Running Set率が2次ラウンドになると40以下にはならないものの平均以下の成績となっていることを確認できると思います。そして、同時に2次ラウンドではリバウンドも増えていることを確認できます。2次ラウンドに入ると、しっかりブロックにつかれリバウンドを取られるようになったことを示すデータです。

2次ラウンドのイタリア戦は、Running Set率は平均並みと高くはなっていますが、実はこの試合が最も多くのリバウンドを取られ、アタック決定率を低く抑えられています。Running Set率は高いものの、2次ラウンドの他の3試合と同じく、日本のアタックに対応してきたといって良い結果だと思います。

まとめ

世界選手権において日本のアタックは機能したのかという今回のテーマは、分析の結果から、1次ラウンドまではある程度機能していたが、2次ラウンドに入ると相手に対応されてしまったのではないか?という可能性が考えられます。

4つのチームに揃ってRunning Set率を抑えられてしまうということは、今大会の日本のアタックは比較的対策しやすいものだったのかもしれません。そして、世界選手権で対応策を講じられた以上、既に現在の日本への対応策はオープンになってしまったと見るべきでしょう。少々気の付くチームであれば、来年以降の対策で同様の対応を取ってくることが予測されます。

仕方のないことではありますが、現状でストップされては来年以降の対戦は苦しいものになるのではないかと思います。この状況を乗り切るには、現状の戦術を熟成させるか、方針転換を図るかといくつか方法が考えられますが、まずはこの世界選手権、特に2次ラウンドで日本が何をやられたかをよくよく吟味することが重要ではないかと思います。

 

文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる !! 世界標準のバレーボール(ジャパンライム)にデータ解析として参加
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。

おまけ:偏差値の計算

今回の分析で紹介した偏差値は以下の計算式によって計算しています。

偏差値=50 +(または-)[(データ-平均値)÷ 標準偏差]×10

計算に使用した各データの平均値と標準偏差を表3に示します。

h3

例えば、初戦のAZE戦のアタック決定率(38.8%)と失点率(19.1%)は以下のように計算しています。

アタック決定率 = 50 +[(38.8%-41.0%)÷ 7.7%]×10 = 47.1
アタック失点率 = 50 -[(19.1%-15.1%)÷ 4.8%]×10 = 41.8

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