2017-07-19 17:35 追加
越川優 さようならの代わりに。
SV男子
行ったのは、セリエA2のパドヴァ。契約するときはA1下位チームだったが、契約後に降格。しかし、それがかえってよかったのかもしれない。彼はチームの主力として、2年後のA1昇格に貢献した。このときのことを聞くと、「バレーだけでなく、イタリアでの生活自体が、自分のためになった」と楽しそうに振り返る。
しかし、それと引き替えにしたものもあった。植田辰哉全日本男子監督(当時)は、選手の海外行きを快く思わない人だった。イタリアへの視察も、彼がイタリアでプレーしていた3年間で、世界選手権の会場がイタリアであったために、テレビ局がセッティングした1回のみであった。2010年の世界選手権では、かろうじて全日本代表に選出されていたが、2011年のワールドカップでは外れた。この頃、別件で大古に取材した際に、彼は「辰哉は、なぜ越川を外したんだ?」と鋭いまなざしで質問してきた。「会見では、八子大輔の方が力が上回っていると判断したからと仰っていました」と答えると「まあ会見では、そう言うわな」と不満そうに鼻を鳴らした。
2012年、ロンドンオリンピック世界最終予選(OQT)にも、彼の姿はなかった。私はこのとき、つくばユナイテッドサンガイア理事長(当時)の故都澤凡夫氏に取材し、出場権をとれなかった原因と、今後の対策について話を聞いた。原稿には入れられなかったのだが、都澤氏は開口一番こう言った。「選考が間違っていた。越川と阿部を入れるべきだった」。
2013年、日本バレー史上初の外国人監督、ゲーリー・サトウ氏の元で、彼はまた全日本に招集された。サトウ氏の持ち込もうとしたアメリカ式のバレーボールに、選手たちは苦闘しながら取り組んでいた。しかし結果はついてこなかった。世界選手権予選では、参加を開始してから初めて、出場権を逸した。秋に行われたグランドチャンピオンズカップの前に行われた記者会見で、彼が言った言葉を、今でも痛みを持って思い出せる。詳細は省くけれど、要約すれば、彼は「グラチャンは全敗するかもしれない」と言ったのだ。
このとき、私は目の前が真っ暗になる思いがした。頭では分かっているのだ。私もバレーボールの専門記者である。グラチャンは各大陸覇者とFIVBの推薦枠。各大陸といっても、勝てそうなアフリカ大陸はなく、これまで韓国など「勝てそうな」相手が選ばれてきたFIVB推薦枠も、この回からなぜか男子だけはランキング上位のイタリアになった。オリンピック翌年の大会なので、世代交代をはかってくるかもしれない。しかし、そうであったとしても、はるか格上のチームばかり。自チームは新しいバレーに一から取り組み中で「バレーをやり始めた中学生と同じ」。全敗は必然なのかもしれない。だが、しかし。なんであれ、彼の口からそのような言葉を聞くのが信じられなかった。英語の構文に「The last person to do」というのがあるが、私にとって彼はまさに「戦う前から負けるということを考えるなんて、最もしそうにない人物」だったからだ。
動揺を抑えられないまま事務所に帰り、スタッフに相談した。結論は「とにかく、彼らが今取り組んでいることを紹介しよう」というものだった。記事にももちろん書いたし、日テレの制作現場の人たちにメールしたりもした。
グラチャンは、果たして全敗であった。
このまま彼のキャリアも沈んでいってしまうのか……。そう不安に思ったが、それは違った。このシーズンから移籍したJTサンダーズで、低迷していたチームを立て直し、リーグ、黒鷲旗で準優勝を果たした。そして翌年。キャプテンとしてチームを鼓舞し、創部84年目にして初優勝を成し遂げた。MVPも受賞。しかし、直後に発表された全日本メンバーに彼の名はなかった。「ベテランを休ませるために」という名目で。だが、その翌年も、名前だけは登録されたが一度も合宿には呼ばれないまま、リオデジャネイロ五輪の世界最終予選が始まり、惨敗で終わった。
都澤氏に、今もう一度話を聞けたなら。先生はきっと同じことを言われるのではないかと私は思っている。「OQTには、越川を入れるべきだった」と。
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コメント
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山田太郎 [Website] 2012.04.20 13:00
越川選手のことはよく知らなかったけど、バレーの嫌なしがらみに翻弄されて素晴らしい選手の貴重な時間が過ぎてしまったのかと思うと切なくなりました…