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ゲームレポート

2012-08-14 18:37 追加

ロンドン五輪男子決勝 ロシアvsブラジル 

ロンドン五輪男子決勝のゲームレポート。

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photo courtesy of FIVB

ロンドンオリンピック 男子決勝
ロシア-ブラジル

8月12日、ロンドンオリンピック男子バレー決勝が行われ、前回銅メダルのロシアが前回銀メダルのブラジルを3-2で破って優勝に輝いた。ロシア(19-25、20-25、29-27、25-22、15-9)ブラジル の大逆転劇となった。

ロシアはブラジルに2セットを取られた第3セット目からムセルスキーをOP(オポジット)に配置した。終わってみれば、ムセルスキーの最高到達点375cmからの規格外とも言える高さからの攻撃を生かしたロシアの勝利であった。しかし、この試合はそれだけで締めくくってしまうのはもったいない、高いレベルでの駆け引きがあった試合であった。

ブロック・システムに着目すると、両チームのMBは、セッターへの返球がネットに近い時は相手のMBに対してコミットで対応し、少し離れた時はリードで対応していた。また、両チームともにWSは相手のOPに対して、マン・ツー・マン的なブロックをしていた局面が目立った。

もう少し細かく見ると、2011年のワールドリーグあたりから、ロシアは210cm、218cmという大型のMBの特徴を生かし、MBや後衛WSによる中央からの攻撃に対してことごとくワンタッチを取っていた。端的に言えば、ロシアはMBが中央付近の2人のスパイカーに対応し、両サイドのブロッカーはスプレッド気味にシフトしてそれぞれマン・ツー・マン的な対応をしていたと言える。ブラジルは、OPに対しては1対1、セッターからレフト側のMB、後衛WS、WSに対して3対2のブロック・システムである。このブロック・システムの違いが序盤2セットの明暗を分けたと言える。

序盤からブラジルのOPウォレスのライト側からの攻撃に対して、ロシアのWSはスプレッド気味にシフトして対応するも、止められなかった。ロシアの両サイドのブロックがスプレッド気味なので、ブラジルの中央からの攻撃に対してヘルプが出来ない局面が目立った。その中で手薄になった中央から、ムーリオや両MBの攻撃が決まるという状況であった。ブラジルとすれば、攻撃を分散し、狙い通りの展開であったと言えよう。

photo courtesy of FIVB

一方、ロシアはOPミハイロフが打ちきれず苦しい展開。はじめはブラジルのWSがスプレッド気味にシフトする場面もあったが、次第にバンチ気味にシフトをしてロシア真ん中からの攻撃に対してもヘルプをする局面が見られた。一見すると、オポジットの調子に良し悪しによって試合展開が左右されたかのように見えるが、ブロック・システムによるところが大きいことは言うまでもない。(もちろん、ウォレスの出来は非常に良かった)。ロシアとすれば、機能していないライト側からの攻撃をどうやって機能させるのかが重要であった。

序盤、2セットを取られたロシアは第3セットでMBのムセルスキーをOPに配置するという「奇策」に出た。第3セットの序盤こそ、バック・アタックでラインを踏み越すなど慣れない場面がみられたが「奇策」は成功し、ムセルスキーが止まらなかった。ムーリオとダンテの両WSは、どうやってムセルスキーに対応するのか摸索しながらプレーしていたように見えた。またブラジルのベンチもジバやロドリゴなど、複数の選手を出し、対応を摸索したように見えた。
しかしながら、第3セットから第5セットまでの間に、対応はできず、勝負ありという結果になった。

第3セットから第5セットまでのゲームを良く見るとロシアの「奇策」が用意された戦略の1つであることがよく分かる場面がいくつか見られた。1つは、S1でサーブ・レシーブ時にムセルスキーがレフトから攻撃をする場面である。ムセルスキーはレフト側からの攻撃があまり得意ではないように見えた。その時のWSはミハイロフ。本来OPでライト側からの攻撃を得意とするプレーヤーであった。もう1つは、本来OPのミハイロフが相手のスパイク・サーブ時にきちんとサーブ・レシーブに参加していたことである。つまり「奇策」ではなく、OPが機能しない場合の「オプション」であったと言える。

2011年のワールドリーグからチャンピオンとして君臨したロシア。しかし、その現状に満足するのではなく、様々な「オプション」を用意してオリンピックに臨んでいた。こうした取り組みはロシアだけではなかった。ポーランドは相手のサーブが強い局面で、OPがサーブ・レシーブに参加するオプションを持っていた。自分たちの持ち味をどうすれば最大限発揮できるのか。また、相手をどうやって機能させないようにするのか。こうしたことを考えると同時に「自分たちがどのような弱点を持っているのか」をきちんと分析し、現時点で出来うる対策(オプション)をきちんと用意する。こうした戦略はもはや世界では「あたりまえ」となっている。

では、ブラジルは「オプション」を用意していなかったのであろうか。実は2008年の北京オリンピック以降、様々な取り組みを行なっていた。(ブラジルの4年間の取り組みについては、また別の機会に取り上げることにする)。そのブラジルの取り組みを超える「オプション」をロシアが用意していたのである。

「精度をあげるための時間が足りなかった」「相手のスパイク(ブロック)に対応できなかった」日本ではしばしば試合後のコメントでこのような発言が見られる。しかしこうした発言は、別のオプションを用意していなかったと同義である。手詰まりにならないように、いろいろなオプションを用意する。これは世界最先端の戦略ではなく、本来、日本が得意としていた戦略ではなかったのだろうか。

文責:手川勝太朗

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