2013-12-23 23:09 追加
トータルディフェンスを見て楽しもう 第一回バレーボールの競技構造
トータルディフェンスについての考察
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バレーボール・ワールドの読者のみなさまこんにちは。
先日twitter上で北海道のバレー指導者の方と『トータルディフェンス』と『戦術』の話をしていた所、そのやりとりを読んだワールドの編集部からトータルディフェンスについて何か書いてみないかとお誘いをいただきました。
トータルディフェンス(ブロック&フロアディフェンスの組織化)に注目すると、相手セッターのトスの配分(『トス回し』と呼ばれるもの)や、ゲームの展開(『流れ』と呼ばれるもの)がはっきり見えてきて、バレーボール観戦が一層面白くなるはずです。
Vリーグも開幕しましたし、この記事がトータルディフェンスに興味を持つきっかけとなれば幸いです。
バレーボールはセットプレイのスポーツ
バレーボールは「流れのスポーツ」とよく言われますが、実はサーブを除くと、たった3種類の局面に切り取ることができます。
① レセプションの局面。
② ブロック&ディグの局面。
③ チャンスボールの局面。
ボールが相手コートからネットを越えて自陣に入る時に、上記の3種類の局面に合わせて、コート上の選手はあらかじめ決めておいた位置に入ります。この決めておいた位置というのがフォーメーションと呼ばれるものです。
競技を実際に経験していないとローテーションのルールがあることでいろいろ複雑に考えてしまいがちかもしれませんが、実際は至ってシンプルです。
相手がサーブを打ってくる場合は①のレセプション局面しかありません。これはラリースタート時のルール上のポジションによる制約を受けます。
それ以外の時は役割上のポジションに移動した後の②のブロック&ディグ局面か③のチャンスボール局面のどちらかになります。
③のチャンスボール局面は、こちらが行った攻撃(サーブかスパイク)に効果があり、相手がまともに攻撃できない状態を表します。
最近の6人制バレーボールでは一人だけ違う色のユニフォームを着た選手がいますので、チームによってはチャンスボール時のフォーメーションはそれほど深く考えなくてもよくなっているため、③の局面はそれほど意識されることは無いかもしれません。
いくらデュースが続いてもフルセットの試合になろうとも、バレーボールという競技は、サーブで仕掛ける時以外は上記3つの局面から始まるセットプレイを繰り返しているだけということになります。
常にセットプレイを繰り返して、ある程度きまったフォーメーションからシステマチックに戦いを進めるゲーム性が、バレーボールはアメリカンフットボールや野球を生んだアメリカ生まれのスポーツだなと強く感じさせられるところです。
現代バレーボールはサーブ優位で展開する
昔のサイドアウト制のバレーボールはブレイクを15回取らないと勝てなかったためサーブから攻めていくことは最重要でした。
私が生まれる前、東京オリンピックの女子決勝の映像を見てみると、全日本女子はランドハウスのフォームから打ち出される強いサーブでソ連のレセプションを徹底的に追い込んでいるのがよくわかります。
時代は進み、ミュンヘンやモントリオールでオリンピックが行われていた1970年代のバレーボールは、時間差攻撃・コンビネーションバレーというレセプションを軸とした組織攻撃戦術が誕生した時代でした。
スタックブロックなどブロックもいろいろ工夫はされましたが、バックアタックの登場などもあり、リードブロックの誕生以前の組織化されていないディフェンスでは、サイドアウトを繰り返して持久戦に持ち込み集中を切らさず耐え切ったほうが勝つ組織攻撃戦術(コンビネーションバレー/時間差攻撃)優位の時代でした。
サーブレシーブがセッターに返ってレセプションアタックが決まれば、いつまで経っても点数は動かず、例え試合に負けてももの凄く粘ったような印象を観客に与えることが可能でした。集中力を切らしたほうがブレイクを取られ、持久力があるほうが試合を制することが可能でした。
相手に何も行動をさせず、ラリーを自ら切ってしまうサーブのエラー(敢えて『エラー』と呼びます)が忌み嫌われるようになったのはおそらくこの時代なのでしょう。
「サーブミスはいけない」「まずはサーブレシーブ」このフレーズは40年前に強い全日本のイメージと共に日本全国津々浦々まで広がっていきます。緩くなったサーブはレセプションを容易にしてますますレセプションの優位性を高め、ふたつのフレーズの浸透を後押ししていきます。
しかしバレーボールは新しい戦術も生まれ、ルールが変わることで戦術もまた変化していきます。
1990年代には組織攻撃戦術に対抗するリードブロックを軸とする組織防御戦術も生み出され、レセプションアタックを頑張って粘れば勝てるという単純な競技ではなくなっていきました。
時代に沿って戦術の変化を書き綴ってみたところ、とても冗長になってしまいましたので、ここは大きく割愛して日本が世界をリードしていた1970年代の固まった頭を柔らかくし、現代バレーを見る・考える上で意識に置きたい変化を箇条書きしていきます。
サーブ側を優位にする変化
・ジャンプサーブ(スパイクサーブ)の登場
・サーブブロックの禁止
・ネットインサーブの許可
・サーブゾーンの廃止
・ラリーポイント制の採用
・変化しやすいボールの採用
レセプション側を優位にする変化
・分業システム
ラリーが継続しやすくなる変化
・リードブロックによる組織防御戦術の洗練化
・ファーストタッチのダブルコンタクト緩和
『ラリーポイント制の採用』がサーブ側を優位にする変化に入っているのが少しわかりにくいかもしれませんが、サーブ攻撃論者的にブレイクを換算するととても単純な話です。
サービスエースだけでブレイクを取り、後のプレイはサイドアウトが繰り返されるという極端な例でゲームを考えていきます。
もしサイドアウト制でセットを奪おうとするならば、サービスエースを各セット15本取る必要がありました。しかしラリーポイント制になりサイドアウトでも得点が加算されるようになると、ゲームは25点に向かって時間制限がある競技になりました。このルールではたった2回のサービスエースでセットを獲得できます。もし試合開始時にレセプション側だったとしたら、たった1回のブレイクでセットを取れます(「同点ではサーブを攻めなければレセプション側が半歩リード」というのは、デュースの場面でも重要になってきますので覚えておきましょう)。
極論すぎるとおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、カジスキーや調子の良い時のムセルスキーなどの例を出すまでもなく、世界のトップチーム同士の試合であっても、一人のビッグサーバーのサーブが完全にゲームを支配することはよくあります。
2連続サービスエースくらいなら、バレー経験者ならほとんどの人が経験しているかと思います。実はその後サイドアウトをきちんと繰り返せば、セットが取れてしまうのがラリーポイント制のバレーボールなのです。
レセプション側を優位にする唯一の変化である1980年代に登場した分業システムも、1990年代のリードブロックの組織戦術化によりその優位性は相殺されてしまっています。
いかにサーブでレセプションアタックを崩し、相手をこちらが意図するブロック戦術の網に引っ掛けてボールを奪い、トランジションアタックを成功させるか…ということがリードブロック以降のバレーボールでは大切になってきました。
これを成立させるにもさまざまな意図を持ったサーブで攻めることが求められます。
サーブで攻め込まれてはレセプション側も思い通りにレセプションアタックが決まりませんので、サーブ側と同じようにアタックで相手を崩し、意図するブロック戦術の網に相手を引き込もうとします。
つまり現代のバレーボールは攻撃サーブが優位性を持つことにより、前項の①レセプションの局面で安易に得点することが難しくなり、いかに②ブロック&ディグの局面で得点するかということが勝利を得る上で重要になっているのです。
試合に負ければ「サーブレシーブが悪かった」。サーブのエラーが出れば「サーブミスはいけない」。日本国内で40年間そんなことを言い続けている間に、バレーボールは全く別の競技になってしまったのです。
文責:萬和臣(よろず・かずおみ)
お酒を飲んでバレーを語るのが好きなバレー仙人。ツイッターではkaz10000でつぶやいています。昭和のころからサーブ攻撃論者。
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