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コラム

2014-06-08 19:46 追加

Evidence-based Volleyball事始め 番外編 トラッキングデータがもたらすバレーボールの情報戦の未来

トラッキングデータがもたらすバレーボールの情報戦の未来について。

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はじめに

今日は、モントルーバレーマスターズ2014大会で試験的に導入された「トラッキングシステム」の紹介と、バレーボールの情報戦の未来について考えてみたいと思います。

と、さも自分が情報を引っ張ってきたみたいな書き出しですが、情報源は「Stay Foolish」さんというブログ(http://sputnik0829.hatenadiary.com/entry/2014/05/30/221724)からです。

もう1点今回の情報元となったFIVBの記事が以下になります。

New volleyball tracking system trialled in Montreux
http://www.fivb.org/viewPressRelease.asp?No=45951&Language=en#.U43v6_l_tqW

あわせてご覧になっていただければと思います。

トラッキングデータとは何か

では本題に入りましょう。まずトラッキングデータとは何かというと、まぁFIVBの記事を読んでいただくのが正確ですが、簡単にいえばプレー中のボールの動きをデータ化したものです。

動画で見るとイメージしやすいかと思います。

Volleyball ball tracking in 3D(http://www.youtube.com/watch?v=Q3al3mdlRAg

ボールの位置情報がリアルタイムで取得されていく様子が見て取れます。これまでアナリストが手動で入力していた情報を、このシステムによって自動的に取得できるようになったわけです。

自分としては「すごい技術だなぁ」と感心するわけなのですが、技術として特別新しいものではないのも事実です。既に他の競技に取り入れられて久しく、その波がようやくバレーボールにもやってきたというのが実際のところです。

また、アイデア自体はもっと古くからあり、上尾メディックスの吉田敏明監督の著書「壁は破れる」では、日立の監督時代(1982年)に、天井からカメラで撮影し、ボールの動きをデータ化しようという試みがあったことが書かれていますが、これもトラッキングシステムの先駆けといえるものです。

ボールの動きを自動的にデータ化したいというアイデアは昔からあって、そのアイデアを実現するためのコンピューターの処理能力がようやく追い付いてきたというのが、昨今のスポーツにおけるトラッキングシステムの普及の背景としてあるようです。

トラッキングデータがもたらすもの

さて、このトラッキングデータが導入されることで何が変わるかというと、一番大きいのはこれまでアナリストが人力で収集していたボールの動きを自動的に取得できるということになると思います。

また、人力ではさすがに収集できない情報、たとえばボールの軌道なども数値&視覚化が可能なので単純に1つのゲーム、1つのプレーから抽出できる情報が今までとは格段に増えることになります。

つまり、今までやってきたデータの収集が自動化され、さらに今まで見ることができなかったこともデータ化し利用することができるようになるということです。

情報戦は次のステージへ

このように、トラッキングデータの導入による技術革新は、バレーボールの理解をより深めてくれるもので歓迎すべき発展だと思います。しかし、喜んでばかりもいられません。技術の進歩は競争をより加速させるものでもあり、バレーボールにおいても今以上に厳しい情報戦が繰り広げられることが予想されます。

トラッキングデータは確かに多くの新しい情報をもたらしてくれます。これによって今以上にデータを活用できるようになりますが、この恩恵を受けるのは自分たちだけではないからです。トラッキングシステムがデータを自動的に収集してくれる以上、自分たちが持っているデータは相手も持っているという時代になってくると思います。

要するに、使えるデータは横並びになっていくだろうということです。じゃあどこで差をつければ良いのか?と思われるかもしれませんが、そんなに心配はいりません。否が応でも次のステージの情報戦に巻き込まれるからです。それは、トラッキングシステムによってもたらされる膨大な情報をいかに活用するかということです。

従来は人力でデータを収集していたため、ここでのスキルの差が活用できる情報の差がとなっていましたが、データ収集が自動化されるために活用できる情報量は横並びとなる。ただし、活用できる情報が格段に増えるので、そこからいかに有用な情報を引き出すかというところでチーム間の差が生まれる。こういう形でバレーボールの情報戦は、次のステージに進むのではないかと思います。

ここで重要になるのは情報の取捨選択です。これをなんとなくやってしまうと、おそらく情報の海に溺れてしまいます。目新しいデータというものは、なんでも重要なものに見えてしまうからです。つまり、データを使う前に、そのデータがいかに重要で必要かという根拠を確認したうえで使っていくことが求められるということです。

以上のような背景から、自分の畑に引っ張って申し訳ないのですが、今後は使用するデータのエビデンスがより強く求められるようになっていくと思います。

実用化はいつになるのか

色々と展望を書いてみましたが、今回はまだ試験運用といった段階で、現行のシステムにはまだ誤差があるようです。したがって、実際の運用はもう少し先のことになりそうです。

とはいえ、バレーボールよりもボールが小さく高速で動く野球では、既にこの技術が導入されていることを考えれば、実用化もそう遠い未来のことではないと思います。

以下、まったく根拠のない予想ではありますが、今の時期に試験導入されるということは、次のリオ五輪あたりでの本格運用開始を目指しているのではないかと個人的には考えています。ということは、その次の東京五輪では、トラッキングデータの活用が世界の主流になっているかもしれません。あくまで予想ですが。

導入のタイミング

というわけで、本格運用はまだまだ先のことになるかもしれませんが、可能な限り導入は急いだ方が良いと思います。データというものは、使おうと決めたその日から使えるようになるものではないからです。

例えば、2014年のワールドリーグより日本対フランスの2戦(5/31・6/1)の日本とフランスのアタック決定率と失点率を以下の図1-1に示します。

 

z1_1

 

このデータは、アタック失点率は低いほうが良く、決定率は高いほうが良いので、図の左上にデータがあるほど良い結果、右下にあるほど悪い結果といえます。2試合4チームのデータしかないので、この図からわかるのはフランスのほうが日本よりも成績が良いといったことくらいです。単発のデータを見るだけではわかることというのはこのくらいのものです。

しかし、これにベースを加えれば雰囲気が変わります。図1-1にデータベースとして2009年から2013年までの全試合のデータを加えると以下のようになります。

 

z1_2

データのベースが加わることで、日本とフランスの比較だけでなく全体の中でそれぞれの成績がどの程度だったかを把握できます。こうした基準を用意してやることがデータを見ていく上で重要なのですが、トラッキングデータは量が多い分ベースを作り上げるのにも結構な時間がかかります。システムの完成をのんびり待って「じゃあやりますか」では出遅れる可能性もあります。いつでもスタートを切れる準備をしておくことが重要かと思います。

既存の技術との兼ね合い

最後に、このトラッキングシステムという新しい技術とこれまでの技術(データバレーによる情報収集)との兼ね合いについて、新技術の導入はできるだけ早くと先述しましたが、現実的に考えて当分はこれまでの技術との併用という形が良いと思います。まだ全貌も見えていない技術に、これまでの全財産を捨てて投機するのはリスクが高すぎるからです。

また、情報戦の目的とは最新のシステムを導入することではなく、チームにとって有用な情報をデータから引き出すことです。そのために、情報収集のシステムが併存していても何の問題もありません。チームにとって最善の情報を引き出すようにしていれば、そのうち住み分けはできてくると思います。安易に新しいシステムに飛びつくよりはずっと良いかと思います。
まとめ

以上、トラッキングデータの紹介でした。新しい技術の導入はバレーボールの理解をより深めてくれると同時に、情報戦は新たなステージへと進み、競争はより厳しくなってくるでしょう。

願わくは、情報戦が次のステージに進んでも日本はその優位性を失わないでほしいと思います。

参考ブログ

Stay Foolish トラッキングシステムはバレーボールをどう変えるか

参考文献

吉田敏明 (著) 壁は破れる。―全米女子バレーボール・チーム初の日本人監督 角川書店

引用データ

 

第1回 Evidence-based Volleyball事始め
第2回 ”アタック決定されない率”
第3回 ”普通”のアタック決定されない率とは
第4回 アタック決定されない率と勝敗の関係
第5回 アタック決定されない率の質
第6回 アイディア募集
第7回 サービスエース考
第8回 続・サービスエース考
第9回 サーブ効果の効果
第10回 続・サーブ効果の効果-サービスエースの影響
文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
Coaching & Playing Volleyballにて「データから見るバレーボール」も連載中
『テンポ』を理解すれば、誰でも簡単に実践できる !! 世界標準のバレーボール(ジャパンライム)にデータ解析として参加
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。

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