2026-09-06 00:33 追加
せっかくのホーム開催。「過剰なお行儀の良さ」を捨て、日本代表の背中を押す応援を!
コラム
全日本代表 男子

いよいよ本日9月4日、北九州市立総合体育館でロサンゼルスオリンピックの切符をかけた「バレーボール男子アジア選手権」が開幕した。残念ながら女子は今大会で切符を逃したものの、3位に入り来年のワールドカップ出場権を掴み取った。男子には女子の無念も晴らすべく、ぜひホームの利を活かして自力で出場権をもぎ取ってほしい。
石川祐希主将は今年、日本開催のホームゲームについて度々こう言及してきた。
「日本開催という独特の雰囲気にも慣れることができて」(VNL大阪ラウンド)
「日本のホームでやらせてもらえることで、その雰囲気にもまず慣れて」(ブラジル親善試合)
「日本開催という割と独特な雰囲気を、まず味方につけて」(公開練習)
この「日本独特の雰囲気」という言葉の裏には、一体何があるのだろうか。
海外のアウェイは「地獄」。実体験で知ったホームアドバンテージの恐怖
日本には「公正・謙譲」を美徳とする文化があり、それ自体はとても誇らしいことだ。しかし、一歩海外に出れば「ホームの利」は徹底的に使い倒される。
筆者の初海外取材だった2002年世界選手権アルゼンチン大会。現地アルゼンチンの試合では、会場が揺れるほどの熱狂的な応援と、対戦相手(日本)への凄まじいブーイングが飛び交った。それだけではない。2次ラウンドでアルゼンチンと同組になった途端、日本チームには試合がない日の練習体育館が一切割り当てられなくなった。
当時の全日本団長・森田淳悟氏が現地協会に何度も掛け合ったが、答えはノー。結局、現地にプライベートで来られていた松平康隆名誉会長の伝手を頼り、日系人が勤める小学校の体育館を急遽借りて練習する有様だった。
また、過去にイランで開催されたアジア選手権でも同様だ。筆者が現地取材していなかった2000年代の大会では、イラン以外の試合日時や順序が当日まで分からず、他国はコンディション作りすら困難な状況に追い込まれたという話を帯同者から聞いた。
さらに前回のアジア選手権イラン大会(2023年)の際は、私自身も取材に赴くべく最後まで粘ったものの、大使館のビザ発行手続きが進まず断念せざるを得なかった。しかも、当初予定されていたテヘランから、直前になって飛行機が週3便しかない高地の都市へと開催地が変更。高地特有のボールの弾みに苦しむ他国をよそに、事前に十分な練習を積んでいたイランが優位に立つという徹底ぶりだった。
その大会の決勝では、日本に大幅にリードされて腹を立てた現地の観客がサーブに下がった髙橋藍選手にペットボトルを投げつけ、兄の髙橋塁選手が「うちの大事な弟になにしてくれとんねん」と激怒したシーンも記憶に新しい。
ちなみに、ロンドン五輪予選の際、日本の試合時間が一定であることに対して海外の記者や監督たちが「日本優遇だ」と不満をぶちまけていたことがあった。自分たちの国では平気でそれ以上の不公正な環境を作るくせに、アウェイに行けば徹底的に「不公平だ」と声を上げる。海外のチームとは、それほどまでに「ホームの利」の大きさを知り尽くし、貪欲に勝利を追求してくるのだ。
「公式演出」だからと付き合う必要はない――礼儀正しさが、時に選手を惨めにする
振り返って、我が国・日本の会場はどうだろうか。
数年前から国際バレーボール連盟(FIVB)が管轄する大会では「ビッグモーメント」と呼ばれる場内演出が定着している。サービスエースが決まれば「エース!エース!」、ブロックなら「モンスターブロック!」、強烈なスパイクには「ファイアボール!」といった音声や映像が流れ、観客にコール&レスポンスやスティックバルーンを叩くよう促す仕組みだ。
問題は、相手チームが好プレーを決めたときの「ビッグモーメント」にまで、日本の観客が律儀に付き合って「エース!エース!」と大歓声を送ってしまうことだ。ホスト国としてこれ以上ないほど礼儀正しいのだが、筆者は以前から強烈なもどかしさを抱いていた。
サッカーやバスケのファンからすれば、対戦相手の得点や好プレーを会場全体で盛り上げる行為は信じられない光景だろう。先日のブラジルとの親善試合ならフレンドリーマッチだからまだ良い。しかし、今回はオリンピック切符がかかった、選手たちが命がけで戦う真剣勝負だ。
日本がエースをとられて気落ちしている瞬間に、味方であるはずのホームの観客から相手を称える「エース!エース!」の大歓声とスティックバルーンの音が響き渡る。これが選手たちにどう映るか。
だいぶ以前のことだが、代表選手からこんなオフレコの愚痴を聞いたことがある。
「自分たちが得点されたときに相手を応援する声を聞くと、『なんで!あんたらどっちの味方なの!』って惨めな気持ちになる」
「海外の選手は『日本はやりやすい。ブーイングもないし応援までしてくれる』って言ってますよ」
世界選手権を連覇したポーランド代表元主将のクビアクでさえ「会場みんなが応援してくれるホームゲームがどれほど力になるか」と語っていた。どんなに経験豊富な選手であっても、ホームの大声援は最大の味方であり、相手へのレスポンスは心理的な打撃になりかねないのだ。
「無礼」になる必要はない。「スンっ」としていればいい
もちろん、相手選手にペットボトルを投げたり、嫌がらせの爆声を鳴らせと言っているわけではない。日本の素晴らしいマナーを捨てる必要はない。
ただ、相手チームの「ビッグモーメント」演出に対しては「スンっ」と静観していればいいのだ。
かつて筆者が現地取材した2023年のVNLポーランドでの試合。対戦相手である日本がビッグモーメントの対象となる好プレーを決めて演出が流れても、ポーランドの会場全体は「スンっ」と静まり返っていた。これで良いのだ。相手が得点したときは静観し、日本が得点したときや日本のビッグモーメントの時にだけ、弾けるような拍手と歓声を送る。それだけで十分にホームの圧力になる。
あとは相手のサーブ時にニッポンコールをするのもいいかもしれない。あからさまなブーイングではない。自国チームへの応援だ。パリ五輪予選でも、今年のネーションズリーグ大阪ラウンドでも自然発生的にこの相手チームサーブ時のニッポンコールは起こっていた。ブラジルやイタリアのファンは対戦相手のサーブ時に大きな声でブーイングし、太鼓を叩いたりする。ほほ笑みの国タイも、相手チームのサーブ時には賑やかな楽器をかき鳴らして妨害する。ニッポンコールで相手サーブの気勢を削ぐのは、日本らしい良いやり方だと個人的には思う。
もし日本サーブ時のコールに迷ったら、周囲の様子を観察して合わせてみよう。ちなみに大阪ブルテオンなどのSNSでは、西田有志選手の独特なサーブクラップの予習動画なども上がっている。パリ五輪の初戦(ドイツ戦)でも、スタンドで始まったコールとクラップが会場全体に広がり、本人も「すごく嬉しかった」と語っていた。SVリーグではジェイテクトSTINGSやウルフドッグス名古屋などがそれぞれファンでまとまったコールを送り、選手を後押ししていた。
9月4日から始まったアジア選手権。初戦のオマーン戦でも1セットを落とした。オマーンリードのときにサービスエースを決められて「エースエース!」というコールや「モンスターモンスターモンスターブロック!」というコールと会場中で振られるスティックバルーンの輝きには肝が冷えた。これはオリンピックの切符がかかった重要な大会で、バレーボールは流れのスポーツ。ランキングが下でも一切手は抜けない。VNLで激闘を繰り広げたイランや、昔から不気味な存在である中国など、一筋縄ではいかない戦いが続く。
ちなみに、昨日の試合後に報道陣から「サーブコールが名字から『ユウキ』に変わっていかがですか?」と尋ねられた石川祐希主将はためらいがちに「僕が『石川』より『ユウキ』のほうがいいから変えてくださったことは嬉しいんですけど、実は僕はもともとサーブコールあまり必要ない方なので」と答えていた。そうなのだ。以前きいたときも柳田将洋選手は「サーブコールはあってもなくても全然気にならないですよ。あったほうが気分が乗るかな?」と言っていたが、清水邦広選手や石川選手は「できれば静かな方が集中できる」という答えだったのだった。この大会には残念ながら出場していないが、永露元稀選手もそうで、人によりサーブコールはあったほうがいい時とない方がいい時があるので、予習は大切かもしれない。
会場に駆けつけるファンの皆様。「相手に失礼かも…」「演出だから合わせなきゃ…」という過剰な気遣いは一旦置いておこう。海外のような無礼を働く必要はない。ただ、心から「日本に寄り添った応援」で、コートで戦う選手たちの背中を力強く押してほしい。せっかく手にしたホーム開催なのだから、そのアドバンテージを全員で使い倒そうじゃないか。もちろん、あくまでも両チームの好プレーを称えたいという方もいらっしゃるだろう。そういう方はそのように。そうでない方は日本チームの後押しになるような声援を。
取材・文:中西美雁
写真:VolleyballWorld
同じカテゴリの最近の記事
- ”異端児”足立溜奈はブレス浜松を新たなステージに導くか V女子 [V女子] / 2026.03.07
- 東レアローズ滋賀、覚醒中の古川愛梨に越谷章監督からのメッセージ「目的を持ってやってきたことが、良い結果につながっている」 SV女子 [SV女子] / 2026.01.28
- 宮部藍梨は囚われない 「オポジット宮部」は日本の新しい武器になるか? [SV女子,全日本代表 女子] / 2025.08.24
- 夏の新たな風物詩に。東京サマーリーグ(TOKYO SUMMER LEAGUE)から生まれる新たな絆。次回の開催も誓う [Others,V女子] / 2025.07.22
- TOKYO SUMMER LEAGUE 開幕! 東京サンビームズ・森田英莉主将「試合の機会は大切。ネーミング? いいんじゃないですか(笑) 」 [Others,V女子] / 2025.07.20














