2013-05-16 16:57 追加
Evidence-based Volleyball事始め 第2回 “アタック決定されない率”
前回紹介した“アタック決定されない率”の意味と意義を考える
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はじめに
今回もよろしくお願いします。前回の終わりに宣言したように、今回は「アタック決定されない率」からディフェンスを考えていきたいと思います。といいたいところですが、その前に少し寄り道をしたいと思います。
バレーボールのデータはどこにある?
データ分析をするためには、まずは先立つものをということで、データを集めなくてはなりません。バレーボールとデータといえば、全日本チーム等が使用している「データバレー」というソフトが有名ではないでしょうか。しかし、当然のことながらプロのアナリストが収集したデータは公開されていませんし、「データバレー」を個人の趣味として持っている人も少ないと思います。
別にデータバレーに頼らなくても、じっくりビデオを見ながら様々なプレーをデータとして集めても構わないのですが、1試合に詰まっている情報をどれだけ詳細に集めたとしても、それがある程度普遍性をもっていて今後に役立つ情報なのか、それともこの試合限定の情報なのかを見極めることができません。したがって、データ分析をするためにはまとまった量のデータが必要となるわけですが、そうなると個人で収集するのは少し大変というジレンマに行き当たります。
このあたりの事情を考慮すると、分析のために使えるまとまった量のデータとしては、「帳票」に掲載されているデータを収集するというのがベターな方法となります。帳票データとは試合の記録をまとめたものなのですが、国際大会のデータはFIVBの公式サイトに、VリーグのデータはVリーグのオフィシャルサイトに掲載されています。FIVBの帳票は英語表記ではありますが、誰でも見ることができます。一方、Vリーグの帳票を見るには会員登録が必要になります。
FIVBとVリーグのデータの違い
なぜこのような話をするかというと、日本のVリーグの帳票から得られるデータと、FIVBの帳票のデータでは使用可能なデータが異なっているからです。以下の表1にFIVBの帳票(VIS)と日本のVリーグの帳票(JVIS)の違いをまとめてみました。
FIVBの帳票(VIS)の内容については全部解説していると量が多くなってしまうので、ここでは割愛します。詳しくはバレーペディアを参照してください。
ここで注目してもらいたいのは、日本のVリーグの帳票はFIVBの帳票と比較して扱えるデータがかなり少ないということです。特にディグとセットについては、全くデータが無い状況です。
このような事情を考慮すると、「バレーボールのエビデンスを構築したい!」という目的からしてみれば、データの豊富なFIVBの帳票を使うほうが適しているといえます。
しかし、やっぱり日本国内のデータも見ておきたいですよね?
「アタック決定されない率」の意義
以上のように、Vリーグのデータを帳票に求めた場合、FIVBの国際試合での帳票データよりかなり不自由な環境にあるというのが現状です。ここでようやくアタック決定されない率に話は戻ります。この値の計算式は以下のようになっています。
アタック決定されない率={相手の(総アタック数 - 得点)}÷ 相手の総アタック数
この指標は、アタック決定を回避することを、ディフェンスが機能した程度として評価しようというものになります。FIVBの帳票であれば、ブロックとディグのデータを見れば済むはなしです。しかし、Vリーグではディグのデータが無いために、このようなデータを新たに開発したというわけです。したがって、「アタック決定されない率」とは、
Vリーグには無いデータを、既存のデータを活用することにより補った指標
ということができます。扱えるデータの少ないVリーグにおいて、このような試みによってデータの範囲を拡大することは非常に重要な意義をもっているといえます。計算式にしてみれば単純なものではありますが、コロンブスの卵と同じで、いざ自分でもやってみろと言われるとなかなかできることではありません。このような指標を考案されたUenoHito(@ue_gn38)さんに敬意を表しつつ、今後はこのデータをいじり倒していきたいと思います。
新しい指標を作ってみませんか?
「アタック決定されない率」の意義を考えたとき、データ自体の意味も重要ですが、既存の指標を組み合わせることで、今は測定することのできないデータを補うこと指標を新たに開発することも同じくらい重要であるというはなしです。
さて、この「アタック決定されない率」以外にも、既存の指標を組み合わせることで新しい指標を考案することは可能です。そして、この考案は誰がやっても構いません。データ分析をするには多少のスキルが必要になりますが、新しい指標の考案にはそのようなスキルは必要ありません。バレーボールを理解し、既存の指標にどんなものがあるかを理解しているのであれば誰にでもできます。
それならひとつ新しい指標を作ってみませんか?
という提案をここでしてみたいと思います。考案した指標がどんな意味を持ち役に立つのか、つまり、エビデンスさえ確認することができれば、誰でも新しい指標を作ることができるわけです。
「アタック決定されない率」のエビデンス
というわけで、今回は「アタック決定されない率」のエビデンスを確認しておきたいと思います。今回のテーマは、
「アタック決定されない率」はディフェンスを評価できているのか?
ということです。これを検証するために、「アタック決定されない率」と以下のデータの相関分析を行いました。
- Digs(セッターがクイック攻撃を使用できるような良いディグ・捕れそうもない難しい強打、フェイントをファインプレーでディグ)
- Receptions(Digsのような良いプレーではないが、プレーが継続したディグ)
- Kill blocks(ブロックによる得点)
分析データは、FIVB公式サイトの2009年のグラチャンからロンドン五輪までの国際大会での試合と、ワールドリーグ・ワールドグランプリの帳票より、男子1330チーム、女子1130チーム分のデータです。
まずは、アタック決定されない率とDigs/(相手の総アタック数)との関連を以下の図1に示します。
このような感じで相関分析を行いました。ところで、このアタック決定されない率ではアタックのミスが考慮されていません。そこで、
アタック決定されない率2={相手の(総アタック数 - 決定数 - 失点)}÷ 相手の総アタック数
を計算し、同じように相関分析を行いました。結果を以下の表2に示します。
データを見ると、
- 3つのデータの合計値(Digs + Receptions + Kill blocks)との相関が最も高い。
- アタック決定されない率2の結果は、アタック決定されない率とほとんど変わらない。
- 女子の場合は、ほとんど関連がない。
この女子の結果は重要で、関連がないということは、アタック決定されない率がこれらのディフェンスのデータとはまったく別の指標である可能性も考えられます。
しかし、なぜこのような結果となったかを考えるに、ディグのデータはアタック以外の返球も記録されているために、そのようなデータがノイズとなって分析結果を歪めている可能性が考えられます。
そこで、これらのデータを、相手の総アタック数ではなく、セット数(得セット+失セット)で割ったデータで同じように分析した結果を以下の表3に示します。
このデータでは、女子の相関係数も高くなっていることが確認できます。そして、3つのデータの合計値(Digs + Receptions + Kill blocks)との相関が最も高いこともわかります。したがって、
アタック決定されない率は、ディグとブロック得点の合計値と同じ方向性を持ったデータであるといえます。ただし、そこまで高い相関係数ではないので、ディグとブロック得点の合計値の代用として使えるレベルではないことには注意してください。先ほど指摘したように、ディグにはアタック以外の返球分も含まれているので、相手のアタックに対するディフェンスデータとして考えるならこれで上等な結果だと思います。
まとめ
アタック決定されない率のエビデンスを検証してみました。このデータが勝敗や他のデータとどのように関わってくるのかも検証しなくてはなりませんが、それは次回のテーマとしたいと思います。
とりあえずこのような要領で後からでもエビデンスを検証することは可能なので、まずはいろいろアイデアが出してみる、というのもひとつの方法として面白いことになるのではないかと思います。できればそのアイデアの中からバレーボールの将来を変えてしまうような重要な発見が見つかるようなことを期待しております。
引用データ
文責:佐藤文彦
「バレーボールのデータを分析するブログ」http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/ の管理人
バレーボール以外にも、野球のデータ分析を行う合同会社DELTA にアナリストとして参加し、「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート」や、「セイバーメトリクス・マガジン」に寄稿している。
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