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ゲームレポート

2013-11-07 18:16 追加

世界クラブ選手権女子大会2013観戦記

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3.観戦後記

OQF2012-062決勝戦は下馬評通り、ワクフバンク対ユニリーバの対戦となった。結果はワクフバンクが圧倒的な力を見せて優勝、レゼンデ監督率いるユニリーバは必死に食い下がったものの、地力の差は歴然であった。開催地代表であるボレロは地元ファンの熱狂的な声援に後押しされ、かつて久光製薬に在籍したキューバ人選手、ケニア・カルカセス選手の強打と佐野選手の献身的な守備により、予選ラウンドでは広州恒大を3対1で下し、プールA首位で予選を通過した。最終的には4位で終わったものの、ボレロの健闘は大会を大いに盛り上げることとなった。チームは表彰台を逃すことになったが、カルカセスが最多得点賞を、佐野選手がベストリべロ賞を受賞したので、地元のファンは最後の最後まで大会の雰囲気を堪能することができたようである。佐野選手がファインプレーを連発して地元ファンの大歓声を浴び、さらに個人表彰を受ける姿を日本のバレーボールファンにもぜひ見て欲しかった。

地元ファン以外ではトルコ国旗と五星紅旗を打ち振る大応援団が目立った。トルコ人ファンと中国人ファンについては現地在住者もさることながら、この大会のために空路はるばるチューリッヒまでやって来た者も少なくなかったようである。その他に目立ったのは隣のバレー大国であるイタリアから来たと思われるファンである。インタシティーや高速道路を使えば、北イタリアからのアクセスは比較的容易である。

この大会を通じて最も感銘を受けたのは、この大会はFIVBの主催ではあるものの、主な役割を担っているのはヨーロッパバレーボール連盟(CEV)だということである。

CEVにとってはこの大会をチャンピオンズリーグのさらに上に位置する大会として育成することにより、チャンピオンズリーグのプレステージ性をさらに高める狙いがあるのではないかと思えてくる。
CEVはクラブチームの国際大会については、チャンピオンズリーグを始めとして男女とも3段階のカテゴリーを用意しており、男女それぞれ100近いチームが国内リーグとは別に国際大会に参戦している。このシステムが根付いていることは、決してバレー強国とはいえないスイスにおいても、チャンピオンズリーグを目指してひたすら強化に務めるクラブが少なくないことが何よりの証明であるように思われる。

ヨーロッパは第2次世界大戦直後の1948年にいち早くヨーロッパ選手権を開催するなど、バレーボールイベントの国際化を早くからリードしてきたという経緯をもつ。そのヨーロッパが再び世界バレーの牽引車としての地位を築きつつあるのは疑いがない。欧州、特にスペインサッカーの人気をレアル・マドリッドが牽引した役割を、一昔前はイタリアのスター軍団であるフォッパペドレッティ・ベルガモが、現在ではさらにそのスケールを拡大したワクフバンクが果たしつつあり、今後もチャンピオンズリーグの人気はますます高まってゆくであろう。それはヨーロッパ各国において代表チームの強化とバレーファンの拡大をもたらすのみにとどまらず、ヨーロッパ全域におけるバレーイベントの活性化に大いに貢献することになるものと考えられる。

また、ワクフバンクのようなスター軍団は女子チームにおける新戦術の見本市のような存在となる可能性を秘めている。今般の大会は国内リーグ開催前であり、シーズン中に徐々に戦術やコンディションを整えてゆく欧州スタイルでは、恐らく相当準備不足だったのではないだろうか。実際予選ラウンドにおけるワクフバンクは未だ守備と攻撃における「約束事」がきちんとできていないという印象を与えるものであった。しかしセミファイナル、ファイナルと進むにつれて選手たちの集中力は高まり、目まぐるしいラリーの最中にも決してワンパターン化することのないセッターの戦術構成力とアタッカーの対応力が発揮され、ナショナルチームにはないスケールのバレーが展開されるようになった。理想の選手を世界中から集めることにより、ナショナルチームでは実現することのできない戦術を現出させているというのがワクフバンクの凄味である。かつて新戦術はオリンピックで生まれるとされた時代もあったようだが、これからの新戦術はドリームチームから生まれるようになるのかもしれない。戦術動向への目配りという点においても、ワクフバンクとそれを迎え撃つ強豪チームの動向には十分な注意を払うべきであろう。

強豪クラブが世界を意識した強化を行い、国際試合を通じて彼我の差を体感することで得られる刺激は計り知れないメリットをもたらすであろう。またこれは目の肥えたファンにとっても歓迎すべきイベントであるに違いない。

クラブチームの国際大会はヨーロッパではホームアンドアウェイ制を採用しているが、アジア地域は地理的範囲が広大過ぎ、対戦方式についてはなかなかまねをすることができない。しかしアジアが手を拱いていてもヨーロッパは平然とさらに先に進むだけであろう。アジア、そしてわが国においてもクラブのレベルから世界を意識する仕掛けづくりが急務である。

文責・撮影:佐藤直司
Vリーグ機構理事。著書にイタリアのバレー事情を詳細に紹介した『コートの中のイタリア』がある。

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