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インタビュー

2012-08-07 17:59 追加

支える人々~バレーボール学会 三島ミーティング

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次に、午前の部の講師の渡辺寿規氏のお話。講師のお二人には、今回の講師を引き受けることになったいきさつと、どんな意気込みで臨んだか、実際に講演を終えて感じることをお伺いした。

1.今回の講師を引き受けることになったいきさつ

日本バレーボール学会(以下、バレー学会)の理事長で、『バレーペディア』の編集長でもある河合先生から今年の1月にメールで依頼を受けました。今回のバレーボールミーティング(以下、ミーティング)の実行委員長を河合先生が務めるということで、ちょうど『バレーペディア改訂版 Ver1.2』の出版が決定した時期とも重なって、その改訂作業が始まろうとしていたタイミングでの依頼でしたので、今思えば流れはできていたと思いますが、依頼を受けた時には正直ビックリしました。

バレー学会には10年以上前から入会していましたが、表舞台に出席すること自体ほとんどありませんでしたし、仕事はバレーボールとは無縁の、ただの勤務医ですから、バレー学会の活動に何ら寄与したこともありません。『バレーペディア』の編集・執筆に携わる機会を頂いたお陰で、河合先生はじめバレー学会会長の遠藤先生とも面識はできたものの、大多数のバレー学会員の方々は私の顔はもちろん名前も知らない状況ですから、そんな人間がミーティングのメインの講師を務めるとなったら、ほとんどの方々は「誰? これ?」っていう雰囲気になるであろうことは容易に想像できました。

ですが、頂いた依頼文を読み進めていくうちに「今のままではいけない、何かを変えないと日本のバレー界は終わってしまう」と言ったら言い過ぎかもしれませんが、少なくとも私はそういう河合先生の「本気度」を感じました。日本のバレー界の未来のために私の力が必要だと言って下さっているのなら、こんな有り難いお話は二度とないと思い、即座に引き受けることを決めました。

2.どんな意気込みで臨んだか

ミーティングのテーマに【テンポ】が選ばれたのは、一般のバレーファンの間での【テンポ】への関心の高まりをバレー学会が機を逸さずに察知したからだと思います。事実、最近のテレビ中継を見ていると必要以上に【テンポ】という言葉を使おうという意識が見受けられますが、残念ながら【テンポ】の概念を正しく理解して使用されているケースは皆無です。ファンの間で時間をかけて議論が深まり、より正しくわかりやすい【テンポ】の理解を広めようという草の根の地道な努力が、関係者の口からメディアを通じて安易に発せられる間違いによって、水の泡になってしまう状況を何度も目にして、ずっと歯がゆい思いをしてきました。

やはりファンの間でいくら関心が高まっても、現場の指導者や選手の方々も交えて議論していかなければ、ブレイクスルーにはつながりません。『月刊バレーボール』(日本文化出版)で「深層真相排球塾」という連載を執筆するチャンスを頂き、関係者含めた様々な方面から反響を頂きましたが、「理論としてはわかるが、所詮はバレーヲタが机上の空論を展開しているだけ」という冷めた見方が、ファンの間にも多かったと思います。一方、連載を読んで下さって正しい【テンポ】の概念に気づいたプレーヤーや指導者の方々も、それを実践しようとした瞬間に周囲に理解して貰えず、歯がゆい思いをしているという状況も耳にする場面も、日増しに増えていきました。

私自身もかつてはプレーヤーで、高校生の頃から【テンポ】の概念のおぼろげな理解に基づいてプレーしていたため、大学時代はチームメイトになかなか理解して貰えなかった経験があります。今実際に周囲に理解して貰えずに、歯がゆい思いをしてらっしゃる方々の気持ちは痛いほどわかるだけに、今回のミーティングには、できるだけたくさんのトップレベルの指導者や選手の方々に集まって頂きたいと考えていました。そして実際、関係者の方々に関心を持って頂けて実際に多数ご参加頂けたことに、心から感謝しています。

もう1点、今回のミーティングを通じて、関係者の方々にどうしても伝えたかったことは、【テンポ】に関する誤解が日本のバレーボール人気を衰退させているという事実です。

〝メグ・カナ〟ブームが2003年のワールドカップで沸き起こり、日本の女子バレー人気が復活した時期がありましたが、その頃よりも現在の方が全日本女子は世界大会で結果を残しているにも関わらず、オリンピック開幕を目前にしている今の状況でも、当時に比べて女子バレーに対する世の中の関心は薄れています。要するに、全日本が強いかどうかとバレーボールの人気との間には、相関関係はないのです。ミーティングの講演の中で、現在の世界標準戦術の先駆けとして2006年当時のブラジル男子ナショナルチームのプレーを、そして、国内でそれと同じバレースタイルを披露している例として、昨年のインカレで優勝した東海大女子チームのプレーをお見せしましたが、その映像を見ながら私は、いかに彼ら彼女らが「伸び伸びとプレーしているか」「持ち味を最大限に発揮しながらプレーしているか」という点を、強調したつもりです。

バレーボールは「スポーツ」です。スポーツで人が魅了されるのは「より速く、より高く、より力強く」という要素です。昨年の全日本男子や、現在も全日本女子が目指す「セット・アップからボール・ヒットまでの時間の長さ」を短縮しようとするいわゆる〝はやい攻撃〟のコンセプトは、世界標準の【ファースト・テンポ】とは異なり、(間違った)速さを追求するためにアタッカーの持ち味である高さや力強さを犠牲にしており、そのようなバレースタイルではたとえ運良く結果が出たとしても、ファンが魅了されるはずはないのです。〝メグ・カナ〟ブームが起きたのは、栗原恵(メグ)選手や大山加奈(カナ)元選手のような長身選手なら「より速く、より高く、より力強く」というバレーボールを見せてもらえるはずだ、という期待感からだったと思います。

〝はやい攻撃〟を信条とする全日本女子のロンドン・オリンピックの最終メンバーから、栗原選手は外れたわけですが、今回のミーティングで関係者に一番に伝えたかったのは、長身選手であっても正しいコンセプトをもって臨めば、【ファースト・テンポ】の攻撃を打つことはあたりまえのように可能である、という真実でした。「長身選手は〝はやい攻撃〟が苦手である」という神話が幅を利かせる日本のバレー界において、その神話の犠牲になった1人でもある大山加奈元選手に、その真実を何としても伝えたかった・・・その意味で、それが達成できたことは、個人的にはとても嬉しかったです。

現在の小中学生のカテゴリにおける、バレー人口の激減を食い止めるために必要な第一歩は、バレー関係者がもう一度、バレーボールの「スポーツとしての」魅力はいったい何なのか? を思い出すことにあると思います。そのためにこそ、【テンポ】に関する誤解は今すぐにでも、日本のバレー界から消し去らなければならないと思います。

3.実際に講演を終えて感じること

せっかくこれだけの関係者や一般のバレーファンが、垣根なく対等な立場で話し合える絶好の機会でしたから、私自身も関係者の方々に率直に聞いてみたいことがたくさんありました。これまでにブログのコメント欄や、ツイッター・FacebookなどのSNSを通じて交流はしていても、実際にお会いしてお話しする機会はなかった関係者の方々もたくさん参加して頂けたので、もっとゆっくり色々とお話がしたかったのですが、ご挨拶に回るのが精一杯で、質疑応答の時間もじっくり取れなかったことに、少し後悔が残っています。ですが、ご参加頂いた一般のバレーファンの方々の中には、直後に三島駅で遭遇して熱烈にご挨拶頂けた方がいらしたり、帰宅後にツイッターやブログなどで感想を早速書いて下さる方がいらしたり、当日お渡ししたDVDを見て復習をしながらツイッターで呟いてらっしゃる方がいらしたりして、その意味では今回のミーティングで【テンポ】の概念に対する理解を、一般のバレーファンの方々に、さらに広めることはできたのかな? と感じています。一方、当日にはご挨拶できなかった関係者の方々からも、後日SNSを通じて連絡を頂くなど、関係者にも一定のインパクトは与えられたのかな? と思っています。まだ見られていないのですが、当日参加者の皆さんに書いて貰ったアンケートの結果を楽しみにしています。

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