2024-03-15 14:26 追加
群馬・齋藤真由美監督「怒ってはいけない。私は感情が表に出やすいタイプだけど、益子直美姉さんからは”わかったつもりで選手に接するな”と言われています」 V2女子
群馬・齋藤真由美監督 インタビュー
V女子
3月9日、ヤマト市民体育館前橋で開催されたバレーボールV2女子、群馬グリーンウイングスのホームゲーム。
試合終了後、元日本代表でタレントとしても広く知られる益子直美さんがフロアに降り立ち、チームを激賞する姿が多くの観客に目撃されていた。
「サプライズの登場だったのか?」
記者の質問に群馬・齋藤真由美監督は首を振った。
「来てよ、いつ来るの?」
そう声をかけ、現役時代、イトーヨーカドーでチームメイトだった戦友・益子直美さんを呼び出したのは齋藤真由美監督の方だった。
「今まで彼女が応援に来てくれた試合は全部負けちゃってて…。だから彼女、『私は行かないほうがいいんじゃない?』って言っていたんだけどね。いやいや、それを払拭するためにも来てよ、って」
レギュラーラウンド最終節。群馬グリーンウイングスはチャンスと崖っぷち、その両方の間で揺らいでいた。
V2女子の優勝決定トーナメント「V・ファイナルステージ」に進めるのは3チームだけ。
ヴィクトリーナ姫路、ルートインホテルズ・ブリリアントアリーズがすでに出場権を獲得していたため、その枠は残り1つとなっていた。
来年度より新リーグが始まるため、今季はV1との入替戦はない。
しかし、4年連続入替戦に臨んでいる群馬にとって、V2女子3強を逃すことは…厳しい言い方をすれば、失態に等しい。
3月9日、10日は枠を争う仙台、浜松との直接対決。今季の群馬グリーンウイングスにとってはプライドをかけた「大一番」の戦いだった。
「直美姉さんはね」
齋藤監督は親しみをこめて、敬愛する益子直美さんをそう呼ぶ。
「『全国・監督が怒ってはいけない大会』を主催していて、私も一時期少し携わらせていただいたのですが、とにかくわかったつもりで選手に接するな、と」
齋藤監督は続ける。
「その先輩の言葉を胸に今監督をやっていますけど、まあプロの監督ですし、みんなにはもちろん厳しいことも言います。私も感情が駄々洩れちゃうタイプなので。怒ってはないんですけどね(笑)」
群馬グリーンウイングスは齋藤監督就任後、「唯一無二」の全員バレーを繰り広げてきた。
「全員バレー」。
チームの結束を表す言葉として、特に女子バレーではよく聞くフレーズだ。レギュラーも控えも一心同体になって戦おう、おおむねその意味で使われている。
しかし、群馬の全員バレーは「文字通り」チーム全員でコートに立つバレーである。
前の試合でプレーが良かったから、次の試合に出られるわけではない。そこに戸惑いや、複雑な思いを持つ選手もいるだろう。
欧州の強豪サッカークラブのようなターンオーバー制とも違う。
「本当に全員がコートに立って、勝利をつかみ取る」
齋藤真由美は本気でそのことに挑戦しようとしている。
ポジションも固定ではないため、誰がどの位置で出場するか事前に読み切るのは難しい。
現に、今季主戦セッターを務めるのは昨シーズンまでリベロだった栗栖留生だ。
「好きなことを仕事にしてる、そのことをみんなにはしっかり伝えていかなくちゃいけないと思っています。(苦しいこともあるだろうけど)その中に楽しさがあるし、自分は楽しいことやっているんだっていうことを忘れてほしくない。輝いてほしいし、輝かせてくれる仲間がいることも忘れないようにしないとね」
全員でコートに立つ、「全員バレー」には齋藤監督自身の経験、想いも込められている。
「私が現役の時にはちょっと満たされない部分がありました。チームにはトップ選手が集まっていて、性格的にも自分がナンバー1だっていう自負心がみんなにありました。その中での競い合いでしたが、時には足の引っ張り合いもあって、心が満たされない時もありました。でも…」
遠い目で当時を語る齋藤監督の口元に笑みが浮かんだ。
「でもあの子たち、本当に仲間を大事にする子たちなんです。今、監督をやっていてすごく満たされています」
常に注目される存在として苦悩してきたマッチョこと齋藤真由美にも新しい翼が生えてきたのかもしれない。
「ただ、あの子たちが悲しい顔する時も、もちろんあります。そういう時はやっぱり自分たちスタッフのアプローチが悪かったんだなと思いますし、選手たちが元気な時はこちらも良かったのかな、と。選手は自分を映す鏡だと思っています。選手たちは皆さんには伝えられない多くの苦しみ、怪我の悩み、いろいろなことを内側に持っています。そういう世界なんです。その中で、人の心を揺さぶるようなプレーをしていかなくちゃいけない、それが私たちプロの仕事です。そういう選択をした選手たちを支えられるように頑張っていきたいですね」
「私、いいこと言ってるかな?」
照れ隠しもあったのだろう。齋藤監督は報道陣を前に少しおどけて見せた。
V2優勝を手に入れるためにはファイナルステージ初日に長年のライバルであるルートインに勝ち、さらに最終日、今季無敗で独走した姫路に勝たなくてはならない。
姫路の監督はかつての師、アリー・セリンジャーの息子にして、ダイエー時代の指導者アヴィタル・セリンジャーだ。
「姫路さんには日本代表級の選手もいますし それを指揮してるのはかつての仲間、アヴィタルです。どういう攻撃をしてくるか、ある程度は感じています。まず、相手に飲まれないことですね。会場に飲まれないことも大事です。自分たちがやってきたことを信じて個々の役割をしっかり果たせば良い結果が出せると思っています」
マッチョとマコ(益子直美さんの愛称)がそろい踏みした前橋大会。レジェンドプレーヤーの薫陶を受けて、群馬グリーンウイングスは更なる飛躍を見せるか。ファイナル3に大いに注目していきたい。
取材・撮影 堀江丈
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